兄貴と市郎
─市郎の誕生日─



 今日は1月26日。つい数十分前に日付が変わってしまったけど、昨日は俺の誕生日だった。
 兄貴は俺の誕生日をしっかりと覚えていてくれて、俺は夢のような時間を兄貴と過ごすことができた。
 ……でも夢のような時間は、誕生日が終わった今も続いていた。

 兄貴の家の薄暗い寝室のベッドの上。
 枕をクッション代わりにしてベッドの背に置き、ソファに身を沈めるように座った兄貴の膝の上に、俺の身体は乗っていた。
 押し広げられたケツ穴に、兄貴の固くて太いチ○ポがずっぽり根元まで入ってる。
 まるで太い杭を打ちつけられたかのように俺の身体は硬直していた。
「はぁっ、はぁっ、っ、っつ」
 激しい運動をしたあとみたいに息が荒れている。でも、同じだけ(俺よりもっと)動いてるはずの兄貴は軽く呼吸を乱してる程度ってのは……なんでだろう(俺だってそれなりに体力はあるんだけどな)。
「あに、兄貴っ」
 疲れきった身体を動かすことができず、埋まったままのチ○ポをなんとかしてほしいと兄貴を呼ぶ。だけど兄貴は楽しげに俺を見つめるだけで、動くこともチ○ポから解放してくれることもなかった。
(兄貴の、なんでこんなに元気なんだろう……)
 すでに二回発射してるのに、そんなことをまったく感じさせない兄貴のチ○ポ。ギンギンに勃起してるそれはまるで「まだまだこれからだ!」って言ってるような気がして──正直、俺はビビってた。
『絶倫』って言葉はこの人のためにあるんじゃないだろうか……なんて、口に出して言えるわけないけど、最近ずっと心の中で唱えていたりする俺は男としてダメな奴なんだろうか。
「あ……あ、く…っ」
 繋がった部分が乾き始めているのか、ケツの皮膚がぴりぴり引き攣れてる感じがする。このまま無理に動いてもらったら裂けてしまうかもしれない。
(いや、でも、このままずっとケツ穴を広げられたままっていうのも怖いし……。ウ○コを我慢できないで洩らしちゃうくらい締まりがなくなったらどうしよう)
 そんなことを考えてたら本気で怖くなってきて、俺は兄貴の厚い胸に手を伸ばしていた。
「兄貴、もう……っ」
「……なんだ?」
「もう、──動いて、ください」
 消え入りそうな声でそう言うのが精一杯で、恥ずかしさから赤くなった顔を隠すように伏せる。
 こういうとき(セックスの最中に俺が自分からしてほしいことを言うとき)の兄貴は、俺の願いを聞き入れてくれないことが多い。だけどこの格好のまますでに10分以上経っている今日は、きっと兄貴も受け入れてくれるだろう。
 すると、半分期待しながら返事を待っていた俺に兄貴は、
「わかった」
 と言ってくれて!
(やった!)
 その一言に心の底から安堵した俺は、兄貴が動いてくれるのを今か今かと待ち構えた。
 だけど俺が期待を込めた視線で見上げた兄貴は、意地悪く笑っていた(気がした)。
「動くぞ」
 短く宣言して、兄貴がゆっくり腰を動かして俺の身体を揺らしてくれる。兄貴の膝の上に乗せてもらっていた俺の身体は、もどかしいほど小さな動きに合わせてほんの少しだけ揺れる。
 でもそれだけの刺激じゃ、せっかくのデカチンを満足に味わうことができない。
「ん……んんっ……」
 広げられた入り口と、兄貴のチ○ポの先端が触れている部分だけに走る快感だけじゃ物足りない。もっと激しく動いて欲しい。
「やだ、兄貴……もっと、もっと……っっ」
 恥ずかしさを堪えながらねだるように言っても、兄貴はそれ以上強く動いてくれなくて。もどかしくなって自分から身体を動かそうとしたけど、平衡感覚をなくした身体は思うように動かなかった。
「あぁう……っ!」
 吐き出す息が酒臭い。全身にアルコールが回ってるみたいに、手も足も重くて仕方ない。
(兄貴に勧められたからって、あんなに飲むんじゃなかった……)
 昨晩は俺の誕生日ってこともあって、兄貴が俺を高級料亭へ連れて行ってくれて。そこでいろんな土地の地酒を足腰立たなくなるまで飲まされて、タクシーで兄貴の家まで帰ってきた。
 しかもタクシーから降りても自分の足じゃ一歩も歩けなくて、兄貴が肩を貸してくれて俺を部屋まで運んでくれたんだ(情けないっ)。
 俺は酒に弱いわけじゃない。だから相当飲まされたんだと思う。でも、兄貴が空いたビンやらグラスやらをどんどん下げさせてたから、自分でもどれだけ飲んだのかは全然覚えてない。
 さっきからちょっと動いただけで身体が火照ってくるのは、きっと酒が残ってるせいだろう。いったいこの身体の中にはあとどれだけのアルコールが残ってるんだ……?
「あ……あ、っく」
 緩やかな突き上げは続き、そのわずかな刺激を味わおうと全身の神経が敏感になったような気さえする。
「ん、んぁ……っあ、ああっ」
 きりきりと尖った乳首が痛い。吸ったり舐めてもらって癒されたい。
 だけど兄貴がそれをしてくれることはないだろうと、俺はその小さな突起を自分でいじった(ほとんど無意識のうちにやってたけど、きっと酒のせいだ!)。
 両手でそれぞれの乳首に指先だけで触れて、それから爪の先で引っかいて。
「あ……」
 ぴりっぴりっと走る刺激では足りなくて、親指と人差し指で固くなった部分を摘まみ、思い切り強く握る。さらに中指を追加して三本の指でこねるような動きを加えると、いつも兄貴がしてくれてるような痛痒い刺激が広がっていって。
「あっ……ああぁっ!」
『これは兄貴にしてもらってるんだ』って考えただけで十分気持ちよくて──いつもだったら途中で兄貴が俺の動きを中断させるのに今日はそれがなくて、俺は下半身をくねらせながら両手の動きを続けた。
 だけど、そうするのもすごく気持ちいいけど、兄貴のくれる刺激はもっともっと欲しくて仕方なくて、朦朧とした頭でどうしたらいいかを考える。
 すると、何ヶ月か前の出来事がふっとよみがえってきた。
(俺……確か兄貴の誕生日のときも、しこたま酔っ払って醜態をさらしたんだったっけ……)
 思い出したくもないことだけど、あのときも俺は兄貴にいろいろワガママを言って迷惑かけたんだった。
(──けど今日の俺は、あの日よりもさらに酔ってる)
(つまり、あの日よりもおかしくなっても仕方ないってことか?)
 そんなとんでもない考えが正論として頭に浮かんできて。

 ──そうだ、俺はただの『酔っ払い』なんだ。
 酔っ払いはおかしな行動をとっても、ワガママ言ってもいいんだ。

 最終的に下された結論はそんなもので、気づくと俺は胸にぽっと浮かんだ言葉をそのまま言っていた。
「…………して」
 乳首をいじっていた両手を兄貴の割れた腹筋に乗せて、軽く爪を立てる。
「兄貴……俺を、抱いて」
「もう抱いてるじゃないか」
「もっとっ、もっと強くっっ、強く抱いてっ!」
 身体を前に倒し、兄貴の首にしがみついて、酔っ払った俺が戯言を繰り返す。
 脳は『やめろ!』と命令してるはずなのに、俺の口は止まらない。
「兄貴のチ○ポ、俺のここでもっと感じさせて……っ」
 正気じゃとても言えないようなことを口走ると、兄貴に何も言わせずに唇を唇で塞いでしまう。『自分で動いたらどうだ』なんて言わせない。だって……今日は俺の誕生日なんだから。
「ぬぅ……っ」
 舌を兄貴の口腔へと押し込むと、すかさず歯を立てられる。それにも怯まずさらに濃い口づけを仕掛けると、ようやく兄貴が動いてくれた。
 俺の背に両手を回して骨が軋むくらいに強く締め上げてきて、そのまま唐突にピストンを開始して!!
「ぐぅっ!?」
 ずんずんっと腹の底まで響くような突き上げに、俺は嬉々として兄貴の身体を跨いでいた足を広げた。
(いい……気持ちいい!!)
 舌を絡ませていたせいで声が上げられず、だけど粘膜の繋がりを解く気にならなくて。
 鼻から必死に呼吸をしながら兄貴のチ○ポを貪った。
(このまま兄貴と一つになれたら。兄貴の一部になれたらどんなに幸せだろう──)
 もちろんそんなのはかなわない願いだけど、こうして全身をがくがくと揺すぶられていると、いつかそんなときがくるんじゃないかって……そんな錯覚を起こしてしまいそうになる。
「っ、っ……!!」
 そのままの状態を1、2分続けていると、体内に酸素が足りなくなってきたのかだんだんと意識が遠のいていくような感じがした。そしてそれに気づいた兄貴が俺の舌を解放してくれて、俺は酸素を吸い込んだその口でさらなる欲望を訴えていた。
「動いて、もっと激しくして! 俺の中ぐちゃぐちゃにしてぇ……!!」
 自分から腰を振りながら、兄貴にももっと動いてもらいたくて甘えたような声を上げる(正気じゃとても考えられないような言動だ! そうだ、俺は酔っ払ってたんだ!!)。
 俺の声に応えてくれたのか、それともただ兄貴がそうしたかっただけなのか──真意はわからないけど兄貴の動きはさらに激しくなった。
 内臓をえぐるような動きに合わせて俺の口からもデカい声が洩れる。抑えることなどできない声が、部屋の中に響き渡る。
「あんっ・ああんっ・はぁ、んっ!」
 ぎっしぎっしと音を立ててベッドが軋む。その音と、ぐちぐちと音を立てる結合部に俺の意識が集中する。
 気持ちいい……気持ちよすぎてこのまま死んでしまいそうだ!!
「兄貴っ、いい、いいっす!! 気持ちいぃ……!!」
 無我夢中で兄貴にしがみついたまま、兄貴のくれる快感に酔う。こんな俺に、兄貴は呆れてないだろうか。『またか』って思われてたらどうしよう。
 ああ、だけどもう何も考えられない。何も考えたくない……!!
「市郎……」
 耳元で囁かれる声が脊髄をびりびりと駆け抜けていき、俺は早い限界を迎えてしまった。
「あぁああんんんっっ!!」
 鼻から抜けるような声が勝手に洩れて、声と共に膨張したチ○ポから大量の精液がどぷどぷっと出て兄貴の胸や下腹部を汚してしまう。
「…………っ」
 兄貴も俺の中で限界を迎えてくれたみたいで、俺の腰を掴んでいた両手にさらに力を入れて根元までチ○ポを突き入れると、熱い液体を俺の腹の奥へとぶちまけた。
「…………っっっっ!!!!」
 その衝撃は俺に声にならない悲鳴を上げさせ──俺は兄貴の胸板に倒れこみながら、そのまま気を失ってしまった。


「……ん」
 気がつくと、俺の身体はベッドに横たえられていた。
 枕とは違った固さが首の後ろにあるような気がして小さく身を捩ると、聞き慣れた低い声が「起きたか」と耳元で囁いてくる。
 その声に驚いて、慌てて重いまぶたを開けて自分がどんな状態になっているのか確認しようとすると、目の前にあったのは張りのある肉肌で。
 兄貴の腕枕で寝ていたんだとわかった瞬間、俺は身体を起こしていた。
 ──と同時に、意識を飛ばす前の自分の暴挙を一気に思い出して、俺は勢いよく頭を下げていた。
「すっ、すみませんでしたっ、俺……!!」
(兄貴、絶対怒ってる!!)
 いくら酒のせいとはいえ、あんなにいろいろワガママを言って許されるわけがない!! し、しかも、兄貴の膝の上であんなことやあんなことをしまくっちゃったし……(思い出したくない〜!!)!!!!
 だけど兄貴はしらっとした様子で、
「なんのことだ?」
 ……なんて言って! その反応を逆に怖く思うのは、俺が小心者だからなのか!?(いや、きっと誰でも怖く思うよなっ)
「いや、あの、その……っ」
 まともに兄貴の顔を見るのがためらわれて、跳ねのけた上掛けを股間に引き寄せながら口の中で呟くように謝罪の言葉を口にした。
「俺、その……ガキみたいにワガママ言って、すみませんでした」
 今さら謝ったって遅いかもしれないけど、とても言わずにはいられなくて「すみません」を何度も繰り返してしまう俺。
 でも、それでも兄貴は怒った様子もなく、ただ忍び笑いを洩らしただけだった。
「ガキが、あんなにやらしく男を誘うか?」
「ええっ!?」
「なかなか見物だったぞ。酔ったお前はスケベで大胆だな」
「えええ〜〜っっ!!??」
 兄貴の口から出てきたとはとても思えない言葉の数々に目を白黒させていると、兄貴もベッドに身体を起こして俺のほっぺたを軽くつねってきて。
 そのままベッドを降りて部屋から出て行ってしまった兄貴(もちろん全裸のまま)に、俺は痛みではなく頬が熱くなるのを自覚した。
(兄貴って、俺が思ってたよりも硬派じゃないのかもしれない……)
 ちょっと前から思い始めていたことが再び胸をよぎり、だけどそうだとしても、そんな兄貴も悪くないかな……なんて思ってる俺。き、きっとまだ酒が残ってるんだっ。
 頭に集まり始めた血を下げるためにぶるんぶるんと首を振ってるとそこに兄貴が戻ってきて、「なにやってるんだ」と苦笑しながらまたベッドに近づいてくる。
 そして、
「誕生日プレゼントだ。受け取れ」
 と何かを投げてきて、俺は慌てて両手を広げてそれを受け取った。
 薄暗い部屋の中で一瞬きらっと輝いたそれは小さくて、どこにいったのか見失ってしまう。兄貴の投げ方がよかったからちゃんと俺の手の中に落ちたけど。
(──なんだ?)
 細長くて冷たい感触に恐る恐る掌を開いてみると、そこにあったのは一本の鍵だった。
 どこか見慣れたような形の、持ち慣れたような重さの鍵。
 すぐにはわからなかったけど、もう一度その鍵を握ったときにぴんっとくるものがあって。
「これ…………」
(もしかして…………この家の?)
 そうだ。最近は自分の家の鍵よりも使う機会の多い鍵だ。
「こ、これを、俺に……?」
 呆然と兄貴を見上げると、俺の呆けた顔がおかしかったのか「そんなアホ面さらすな」なんて言われてしまった。
 だけど、
「今だってお前が持ってるようなものだがな」
 そう言って口の端だけで笑った兄貴の顔が、『ズギュン』と胸にくるほどセクシーでカッコよくて……
「そこのクローゼットが空いてるから、お前の家に置いてある服を一部入れておけ。──何かあったときに必要だろう」
 さらにそんなことを言われて、俺は思わず頬をつねりたくなった。
 合鍵をくれて、さらに服を持ってきてもいいって……それってつまり、この部屋に一緒に住んでもいいってことか? 兄貴とずっと一緒にいてもいいって、そういうことか……?
(これは夢か? 俺は悪い夢を見てるのか?)
 いいや、夢じゃない。だって……ずっと兄貴のチ○ポを咥えてたケツ穴が、今も熱をもってじんじん疼いてるんだから。
「あ……ありがとうございます、兄貴……っ」
 震えそうな声を押し殺してやっとそれだけを伝え、目の縁にじわっと盛り上がってきた涙を溢れさせないように必死に歯を食いしばる。あ、ダメだ、鼻水が出そうだ……っ。
 俯いて鼻を鳴らしていると自分の肌が目に飛び込んできて、いつの間につけられたのか俺の身体にはそこかしこに赤い痣がついていた。……兄貴がきつく吸ってつけた、キスマークが。
「…………っ」
 それをじっと見ていると、今も兄貴の唇が身体を這いまわっているような気がしてきて──情けなくも俺の股間は、再びモリモリと勢いを持ち始めてしまったのだった。
 そして兄貴もすぐにそれに気づいたようで、俺の下半身の半分を覆っていた上掛けをはいできて!!
「あっ!」
 と叫んだときには、完全に勃起したチ○ポがしっかり凝視されていた。
「元気だな」
 ……って、兄貴には言われたくないけど……でも確かに俺も元気なほうなのかもしれない(自分で認めるのは恥ずかしいけどさっ)。
「もう一運動するか?」
 ベッドに上がりながら俺を見下ろしてきた兄貴の誘いに、俺は間髪入れずに「はい……」と頷いていた。

 もしも一緒に住むようになったら、今まで以上の頻度でセックスすることになるのか……? そうだとしても──俺、壊れちゃわないよな?


とっても幸せな市郎さんの誕生日でした(熱い熱い)。

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