桜下の交接
おうげのこうせつ



 唇を触れ合わせていただけの接吻が、次第に深いものへと変わっていく。
「あ……、きさら、ぎ……」
 発作が起こらないようにと、如月はときどき口を離して綾瀬に呼吸をさせる。それに合わせて綾瀬の口からは如月を呼ぶ声が漏れた。
 熱く深く、綾瀬の口腔内を自在に動く如月の舌は、綾瀬を翻弄してやまない。
 逃げまどう舌を捕らえきつく吸ったかと思うと、次の瞬間には宥めるように弱く歯を立てる。舌先で戯れるように綾瀬の舌を軽く突ついたあと、喉の最奥まで犯すように深い場所まで侵入させる。
 それまで必死に如月の身体にしがみついていた綾瀬だが、如月の動きにとうとう全身の力を奪われ、かくんと膝を折ってしまう。そこを狙いすましたように抱き竦めた如月は、着ていた上着を素早く地面に引くと、その上に綾瀬の身体を横たえた。
「綾瀬様……」
 激しい接吻のせいでなく、これから先のことに期待し興奮しきった如月の息も上がっている。自分を見下ろしてくる逞しい男の視線に、綾瀬は自分の体温が上がるのを感じた。
 手を伸ばし、如月の熱を求めると、如月は覆いかぶさるように綾瀬の上にのしかかってきた。再び浴びせられる接吻の嵐。
 如月の唇が顔の至る所に移動し、優しく啄むように触れるたびに綾瀬の口からは声が漏れた。
 やがて如月の唇は耳元へと移動し、そのまま首筋を伝って下へと動いていく。そのあいだも手は動くことを止めず、綾瀬の着物の合わせをゆっくりと寛げ、滑らかな肌へと触れていた。
 如月の動きに反応し、胸の飾りは固く凝る。それを指の腹で撫でると、綾瀬の口からは甘い吐息が洩れた。
「あ……如月……」
 もどかしげに首を振り、心なしか背を浮かせた綾瀬は、如月の肩に手を乗せて力を込めてくる。だがそこに拒絶の意図はなく、如月はさらに行為を続けた。
 手で触れているのとは別のもう片方の飾りに舌を移動させ、固く尖らせた舌先だけでちろちろと舐める。赤く色付いたそこは、さらに如月に舐めてほしいと固さを増した。
「あっ、くっ!」
 両方の飾りを同時に責められ、甘い悲鳴を上げる綾瀬。舞を始めた頃、修行の一貫として通わされた男娼窟で何度かされたことのある行為だが、こんなにもどかしく狂おしい気持ちになったのはこれが初めてだった。
「もう、やめてくれ、如月っ」
「……どうしてです?」
「これ以上されたら、お、おかしくなってしまう……っ」
「おかしくなってください。私はすでにおかしくなっています」
 冷静を繕った如月の声でそう言われるだけで、綾瀬の身体はさらに過熱していく。細く長い指が如月の髪の中に潜り、整えられた髪をぐしゃぐしゃにする。
 それでもなお如月は行為を止めず、綾瀬を快楽の深みへと導いていく。
「あ…あ、あぁ……」
 如月の舌使いにすっかり力をなくした綾瀬だったが、綾瀬の足の間に身体を入れた如月の腹部にはだんだんと形を露にしていくものがあった。
 空いている手を伸ばし、そっとそこに触れると、綾瀬の身体はびくんっと跳ね上がる。それに構わず着物の裾から手を差し入れ、高まった場所をまさぐった。
「だ、だめだ! 如月っ!!」
 焦ったように叫ぶ綾瀬の声を唇で遮り、薄布で隠されたそこへ直に触れる。
「…………っ!」
 他人の手によって明らかにされた自分の欲望に、綾瀬は恥ずかしさのあまり絶句した。
 その様子に気づいた如月は、綾瀬の気持ちをほぐすように諭すような声をかけた。
「大丈夫です。あなただけではありません。……ほら」
 如月は綾瀬の手を掴むと、そのまま自分の下腹へと触れさせた。
 そこは綾瀬以上に熱を昇め、厚い布の上から少し触れただけでもそうとわかるほど力を持っていた。
「あ……如月、も……?」
「そうです。ですから、綾瀬様も恥ずかしがらなくていいのです」
 そう言って、如月は素早い動きで分身を外気に晒すと綾瀬の手の上に自分の手をのせ、やんわりと握らせた。綾瀬の掌に、如月の熱がありありと感じられる。
「き…如月……」
 手を引こうとするのを無理矢理押さえつけ、握り込ませるように手を動かす。それと同時に綾瀬の股間においていた手を動かし、どちらにも等しく刺激を与える。
「あっ、如月っ……」
「どうですか?」
「こんな……こんなこと──っ」
「いい、のでしょう?」
「ぁっ、ああっ」
 乱れていく息を整えることもできず、如月の指の動きと握らされている如月の熱に、綾瀬はさらに声を洩らす。今まで味わったことのない感覚に、自然と腰が揺れるようだった。
「きさ、らぎっ、も、うっ」
 止してくれと訴えようとしたところをさらに昇みへと誘うように手を動かされて、やがて綾瀬の視界はぼんやりと歪みはじめた。
「あ…ああ……っ!」
 聞いたこともないような声がどこか遠くから聞こえてきたと思った次の瞬間、背筋を悪寒のような身震いが走り、綾瀬は熱を放っていた。
 全身から力が抜け切り、ぐったりと地面に横たわっている身体を如月の腕が抱き起こす。綾瀬の身体に宿った熱を逃がさないように自分の身体を地面に敷き、その上に綾瀬の身体を乗せた。
 逞しい胸に頭を預け、耳を打つ如月の鼓動を聞くうちにようやく綾瀬の息は整ってくる。
 他人の前でこのような醜態を見せてしまったことを深く恥じ入った綾瀬は、自分の腿の辺りに堅いものが当っていることに気づいた。
 何かと手を伸ばしてみると、それは綾瀬の手が触れた瞬間びくりと動き──綾瀬の腿を軽く撫でつけた。
「あっ……」
 一瞬にしてそれが何であるか悟った綾瀬は、知らず手を離してしまった。──それは、勢いを失わないままの如月の分身だったのである。
「ああ……申し訳ありません」
 俯いた綾瀬の様子に、自分の愚息が綾瀬を激しく動揺させたのだと気づき、腰を引くことで密着した身体を離そうとした如月。
 ……だが、極限まで張り詰めた如月のそれは綾瀬の腿から完全に離れることはなく、戯れるように穂先だけで綾瀬の腿を撫で上げたのだった。
「やっ……」
 小さな悲鳴は女の泣き声のようなか細さで、そのなんとも言えぬ幼い響きが如月の高まりを再び煽った。
「綾瀬様……っ」
 綾瀬の細腰を挟み込むように両足を開き、開いた足の間に落ちてきた綾瀬の腿へと猛りきった分身を故意に擦り寄せる。
「あつ……っ」
 他人の熱をそんな場所で感じるなど到底初めてで、綾瀬はなす術もなく如月の戯れに震えた。
 腰を大きく回転させるように動かし、熱く硬いそれを擦り続け──自分の悪戯に綾瀬がひどく怯えていると気づくまで時間を要した。
「も、申し訳ありませんでした」
 堪え性の欠片もない自分を恥ながら、今度こそ完全に綾瀬の肌から身を離す。しかし互いの間に浮遊するような形となった如月の分身は雄々しいままで、綾瀬の視線は自然にそこへと注がれていた。
 自分のことを好いていると言い、自分の身体に欲情する人間がいるなどとは考えたこともなかった。だが現実に、目の前の男は自分を欲しがって荒い息をついているのだ────
「…………」
「あ、綾瀬様っ?」
 如月の焦った声など聞かぬふりで、綾瀬は興味を引かれたように白い手を伸ばし如月の猛った欲望に触れた。
「こんなに、硬く……」
 自ら握りこんだ如月は想像以上に硬く張り詰めていて、自分の物がかつてこんな形状になったことはあったかとどこか的外れなことを考える。
「は、離してください、綾瀬様……、っ」
「……どうして?」
「そんなに握られては────その、」
「──ああ……極まってしまうということか」
「っっ!」
 卑猥な言葉を口にされたわけではないが、そういった話題からは遠くかけ離れている綾瀬がそんなことを言うとは思いもよらず、咄嗟に息を詰めて暴発しそうな快感をなんとかやりすごした。
「っ、ふっ、ふっ……」
「我慢することないだろう。……私も、お前にされたのだから」
「それは──そう、ですが」
 だが、触れられていただけで果てるなど、自分の沽券に関わることだ。
 如月は大きく息を吸い込み、綾瀬がそこから手を離したくなるような言葉を考え、切羽詰ったように言った。
「できるなら……あなたの口、で──していただければと思うのですが」
「……え?」
 突然の懇願に、綾瀬は緩く動かしていた手の動きを止める。
「なん……だと?」
 言われた言葉を反芻し、その意味するところを考える。──と、唐突に如月の望んでいるものに思い当たり、触れていた熱を強く握り締めてしまいそうになる。
 過去にもその行為を強要してきた人物は何人もいた。……そして、何度かは抗いきれずにしたことがある。
 だが、気持ちの通った相手にそれをするなど考えたこともなかった。
「………………」
「……冗談ですよ、綾瀬様」
 だからこの手を離してください、と言葉を続けるつもりが、
「…………いいだろう」
 そんな言葉で遮られてしまう。
「────え?」
「私が、口で、してやればいいんだろう?」
 頬を紅潮させながらもすぐさま行動に移った綾瀬を、如月は信じられない思いで見つめた。──まさか、綾瀬がこんな戯言に乗ってくれるとは夢にも思わなかったのだ。
「綾瀬様……そのような、ことは──」
「……今さら、『するな』とは言うなよ」
 躊躇うような声を発した如月を責めるような声音で制止し、綾瀬はゆっくりと身を動かした。
 このような行為を自ら行うつもりなど到底なかったが、好いた相手のものを愛するのは──決して恥ずべき行為ではないのだ。
 如月の身体の上に乗せていた身体を下へとずらしていき、熱く息づいているその場所に顔を寄せる。
 そこは十分すぎるほど成長し、血液の流れがはっきりとわかるほど力強く脈打っていた。
「…………すごいな」
 こんなにまじまじと他人の魔羅【マラ】を見たことはない。自分のものでさえ正視したことがない綾瀬にとって、間近に仰ぎ見る如月のそれは目にも珍しいもののような気がしてならなかった。
「……綾瀬様」
 綾瀬の行動に、誘惑に抗うことができなくなった如月に促すように後頭部に手を乗せられて、綾瀬はおずおずと目的の場所に顔を近づける。そして躊躇いを振り切るように舌を伸ばした。
「ん……」
 目を閉じ舌先だけで触れると微かに味がする。今までに正味したことのない味に、知らず胸が高鳴った。
「……っん、ふぅ・ん……っ」
 鼻から抜ける空気が如月の怒張と自分の顔との間に溜まるのを、ひどく煽情的だと綾瀬は頭の片隅で考えていた。
「根元からゆっくり動かしてください……そう、そこを、もっと……」
「ふっ、うっ、んんっ……」
 指先で舌の行方を導かれ、綾瀬の舌は必死にその後を追う。そしてその動きに誘われるように、如月はさらなる願いを口にした。
「上手ですよ、綾瀬様。今度は銜えてみてください」
「え……」 
「大きく口を開いて、これを……あなたの唇で咥え込んでほしいのです」
 怒張の根元に添えられていた綾瀬の手に武骨な掌を乗せ、直接的な言葉で端的に要求する。綾瀬は言葉の激しさに一瞬かっと頬を染めたが、やがて如月の言葉に従うように如月を咥えたままゆっくりと顔を沈めていった。
「っ……むっん、ぬっ」
 陰茎を吸い上げることもできず頬張るだけで、舌技と呼ぶには拙すぎる動きだが、如月にとっては愛しい者の必死な様子は何物にも変えがたい快楽をもたらしていた。
「んん……、うっく、ん……っっ」
 すぼめられた唇が黒い幹を咥え、幹全体に滑った感触を施していく。──そこまでされて、如月の我慢は限界に達した。
 自分の白濁で美麗な人の唇を汚してしまう前にと、力が入りすぎないように気をつかないながら綾瀬の頬に手を滑らせ、そのまま顔を引かせた。
 陰茎から唇が離れた瞬間、幹に這わせていた赤い舌がのぞいたが、その舌を再び自分のものへと近づけることはできない。如月の射精感は爆発寸前のところまで高まっていた。
「きさ……ら、ぎ?」
「もう……結構です」
 半透明な液体で汚れている口元をそっと拭い、不思議そうな顔で見上げてくる綾瀬の身体を自分の身体の上に引き上げて、力を込めて抱き締めた。
 愛しい人が自分の欲望に触れ、あまつさえ唇で愛撫を施してくれるなど考えたこともなかったため、如月の心は充分すぎるほど満たされていた。
 ──だが、一度昂りきった熱は、快楽の頂点で解放されることを願っていた。
「…………綾瀬様」
 欲望に掠れた声が、綾瀬の臀部にゆっくりと伸ばされる掌が、如月の願いを表しているようだ。
「…………」
 その声に声では応えず、だがゆっくりとした動きで身体を動かした綾瀬は、乱れきった着物の袂から小さな容器を取り出した。
 それは綾瀬が今の仕事をするようになってから常に携帯するようにしている潤滑油だった。不本意ではあるが、そういった物を持ち歩かなくてはならない立場に身を置いていることを綾瀬も自覚している。
 ──そして、それは如月も熟知していることだった。
 如月は無言のまま綾瀬が差し出してきた容器を受け取ると、性急な動きで蓋を開けた。漆塗りが施されている容器は見慣れていたが、中身を見るのは初めてだ。
 半分ほどに減っていた白い軟膏状のそれを指にたっぷりと掬い、綾瀬の秘部へと数度に分けて塗りこめる。少量でも充分伸びるものだが、繊細な肌を傷つけずに済む保証はないのだ。
 冷たい感触が中へ入った瞬間に暖かくなり、執拗なまでに体内を探る如月に綾瀬は声を上げた。
「あ……あ、如月っ……そ、んなに、っ、ん、掻きまわさないで、くれ……っ。もう……平気、だから……っ」
「……いいえ。大事な御身体に、傷などつけられませんから」
「あぁ……っ!」
 すでに幾度となく探られたことのあるその場所は、如月の予想に反してぐずぐずとすぐに解れた。だがもう少しだけその場所の感触を楽しみたくて、嫌がる綾瀬を説き伏せつつ指を動かした。
「あぁ、はぁあぁっっ、もう、嫌だ……如月っ」
 身を捩り、深々と埋め込まれた指をひり出そうと躍起になる綾瀬。その分身が再び頭をもたげ大きく育っている様子を見てとり、如月はようやく指を引き抜いた。
「はぁっ、あっ、」
「もう、大丈夫そうですね」
 平静を装ってみるものの、すぐにでも綾瀬の内に身を埋めたいというのが本心だった如月は、綾瀬の秘部に塗りこめた潤滑油を自身の幹にも擦りつけると、早々に限界まで張り詰めた穂先を秘部へと当てた。
「参りますよ……」
「あ…………ぁ」
 一瞬身を硬くした綾瀬をあやすように抱き締め、そのままぐぐっと穂先を突き進める。熱く湿った襞がまとわりつき、吸いついてくるように収縮して如月の怒張を戸惑いつつも受け止める。
「如月……っ、く・ぅっ……っ」
 さっきまで自分が口にしていたものが深く深く入り込んでくるのがわかる。皺の1本1本が如月の欲望に押し広げられるのが、わかる。
「きさ…らぎ……っ」
 熱が最奥目指して入ってくる。綾瀬は次第に自らの下肢が折り畳まれるように上半身に近づいてくるのを、朦朧とした視界に捕らえていた。
「……あぁ……っ」
 のしかかってくる重さに息を圧迫され、苦しさから逃れるように力強い腕にしがみついた。だがそこに爪を立てることは躊躇われ、すぐに地面へと移動させる。
「綾瀬様……っ」
 如月もまた、熱く締めつけてくる綾瀬の内部に翻弄されかけていた。
 すぐにでも狂おしく腰を振り立てたいのを堪え、さらに奥へと身を埋める。
 やわやわと自分を包み込んでくる襞は、まるで綾瀬本人の慈悲を表しているかのようだ。
 やがて2人の秘部は完全に繋がり、綾瀬の体内には如月の欲望がしっかりと穿たれた。
「綾瀬様、わかりますか? あなたと私がしっかり繋がっていることが……」
 綾瀬のきつい締めつけに息を上げながらも声を発する如月。その声に、綾瀬は緩く首を振りながら喘いだ。
「わ、わからな……っ……あ、如月っ…くるし……っ」
「力を抜いてください、綾瀬様。爪を立てないで……」
 細い指を固い土に食い込ませていた綾瀬をあやすように言うと、両手を地面から引き剥がし土で汚れた指先1本1本に軽くくちづける。微かに震える両手を自分の身体に縋りつかせ、細い身体を労わりながら抱き締めた。
「綾瀬様、愛しております……。あなたが私だけのものになればいいと──ずっと願っておりました。
 今宵、その願いは叶いました。このようにして……あなたは私と一つになったのですから」
 力を込めて抱いていた身体を惜しみ難く感じながらも離し、繋がった部分を綾瀬に見せるためにゆっくりと下腹の位置を高くしていく。
「ああ…っ、こんな、こと……っ」
 細い肩を震わせ、2人の繋がった部分を見る綾瀬。押し広げられた自分の秘部に雄の象徴が埋め込まれている様子に、甘い吐息が洩れてしまう。
「綾瀬様……」
 愛しげに名を呼ばれ、綾瀬は声のするほうに手を伸ばす。すぐさまその手は力強く握られて、熱い唇が押し当てられた。
「は……あ、つい……如月──」
 熱く脈打つ如月に、綾瀬は知らず声を洩らす。
 今までに体感したことがないほどの熱を、自らの最奥で感じていた。その熱でそこからどろどろと溶けてしまうのではないかと思われるほど──如月の雄は熱を発していた。
「ああ…あ、あぁ……っ」
 狭い内壁に、如月の振動がどくどくと伝わってくる。……自分を恋い慕っていると赤裸々に告白した如月の想いが、体内に刻まれているようだ。
「動きますね……」
「あ、待っ……あ、あああっ……!」
 ゆっくりと、だが体内の奥深くまで執拗に打ち突けられ、綾瀬の唇は音を洩らし続ける。
「あ、あ、ぅっ……ああ、や・ぁ……っ」
 か細く掠れた声が如月の鼓膜を震わせる。夢の中で幾度となく聞いてきた声は、想像していたものよりもずっと甘い響きを含んで如月を誘った。
 瞳から溢れて出す熱い雫が綾瀬の顔をしとどに濡らす。泣き顔すら美しいと、淫らな動きを続けながら如月は思った。
 白い肌は薄紅に染まり、如月は誘惑に勝てずその肌にさらに赤い痕を散らした。
「き、さらっ…ぎ、きさらぎぃ……っ」
 湿った音が、自我を手放しつつあった綾瀬の耳にもはっきりと響いてくる。その音をかき消したいという一心で如月の名を呼ぶが、発する声も淫らな響きを放っていて。
「どう……か、なる……っ!」
 気が狂いそうな快感とせり上がってくる射精感に、縋りついてもびくともしない如月の腕に我を忘れて爪を立てた。
「やぁっ……も、駄目だ、だめ……っ!」
 甘い声を洩らしながら喘ぎを洩らし続ける綾瀬に、如月は全身を波立たせながら物思いにふける。
 もしかしたら、綾瀬の持っていた潤滑剤には催淫効果があるのかもしれない。こんなにも感じ入っているのはそのせいなのではないか。
 だとしたら、快楽に乱れた綾瀬を見た人間が自分の他にもいるのかもしれない──。
「…………っ」
 現実にあったかどうかもわからない想像をして架空の者に嫉妬した如月は、綾瀬の身体に打ちつけていた肉槐の動きをさらに早めた。その非道なまでの攻めに細い身体は大きくうねり、完全に解されていたはずの秘部にはうっすらと血が交じる。
「如月ぃ……っ、も、やめ……っっ!!」
「あなたは私だけのものだ。私だけのものだ…………!!」
「いたっっい、も……やめて……っ」
「誰にも渡さない!!」
 甘い疼きが満たしていたその場所に激痛が走り、綾瀬は眉を寄せて如月の動きに抗議するように大きく頭を振った。
 自分に被さっているこの男は何を気に病んでいるのだろうか。こんなにも想いを傾けた相手など、こいつ以外いないというのに。
「綾瀬様っっ!!」
 綾瀬は童子のようにきつく抱き締めてくる屈強な身体を引き離し、何事かと目を見開いた如月に掠れた声をぶつけた。
 普段滅多なことでは表情を動かすことのない如月の、独占欲に支配され憎悪に満ちた瞳がそこにはあった。
 綾瀬はその瞳を真っ向から受け止め、如月の抱いている感情が杞憂以外の何物でもないのだと言い含めるように囁きかけた。
「私は、こうされるのは初めてじゃない。だが……何をされてもいいと思ったのはお前だけだ。お前にだけは、私の全てを預けられると思った」
「あや、せ……さま…………」
「それだけでは、駄目か? それだけでは……私もお前と同じくらいお前のことを想っているのだと──信じてはもらえないのか?」
 静かに問いかけてくる声に、如月の高ぶった感情が沈着していく。
「綾瀬様…………」
「愛しているのだと──信じてもらえないのか……?」
 潔い人が、自分にこんなにも心を砕いて話してくれている。その事実に、如月は自分の醜悪な感情が綾瀬を傷つけるところだったのだとようやく気づいた。
「申し訳ありませんでした、綾瀬様……申し訳……」
 全身を強張らせ、抱き合ったまま何度も謝罪の言葉を口にする如月に、欲しいものはそんな言葉ではないと綾瀬は首を振った。
「いい、から……早く、動いて──」
 お前の気持ちを行動で示してくれ、と言葉にはせずに視線で伝えると、如月はそれに応えようと再び身体を揺さぶり始めた。一度中断された動きが再開すると、それまで以上に大きな波が互いの身を包んでいく。
 再確認した感情が、高まる熱に呼応して寄り添っていくようで。
「綾瀬様っ、綾瀬様……っ」
「あっ・あっ、つっ……ぅあ、んっ」
 浅く深く、強弱をつけて突き上げてくる動きに、綾瀬は確実に追い詰められていく。──愛する男の欲望に支配され、全身で喜びを感じている。
「如月っ、もう……!」
 極限まで膨張した陰茎を意識した途端、解き放たれるのを待っていた熱が堪えられずに放出した。
「あああぁ……っ!!」
 解放感。そして同時に、体内に注がれる熱がもたらす充実感が綾瀬の心を満たしていく。
「綾瀬様……」
 ようやく達することのできたその場所から背筋にかけて甘い疼きが走る。激しい虚脱感に襲われ、指の一本すら動かせない。だが、身を委ねることのできる相手に抱き締められているせいか、しばらくはこのままでもいいような気がしてくる。
「如月……」
「綾瀬様……どうでしたか?」
「そんなこと……聞くな、野暮天」
 腕の中でくったりと力をなくして横たわる綾瀬に、如月は誰にも見せたことがないような笑みを称えて問う。その笑みに、どれだけ如月に想われているのかを改めて実感し、綾瀬は安堵の息をついた。

いつの世もエロは激しく……(殴)

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