★月○日
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今日の夕刻にリュミエールが私の邸宅に来て、笑いを含んだ声音でこんなことを言いました。
「ルヴァ様があれだけゼフェルを可愛がる気持ちが、私にもやっとわかりましたよ」
何かあったのかと尋ねると、リュミエールはこんなことを私に話してくれたのです。
リュミエールが祈りの滝の麓を通ろうとしたとき、茂みから小さな声が聞こえてきたそうです。
その声に引き寄せられるようにそっと茂みを覗くと、そこにはゼフェルが1人でいて。
人の姿はないのに誰と話しているのだろうと首を傾げたリュミエールは、ゼフェルの目の前に小さな話し相手を見つけたそうです。
真っ白い毛皮にゼフェルと同じ赤い瞳の、耳の長い子を。
ゼフェルはその小さなお友達に向かって、嬉しそうな声で話しかけていて。
『ほら、見てみろよ! これが俺の新しい発明品、名づけて「無重力体験マシン」だ!
この中に入ればおめーでも無重力体験ができるんだぜっ? すげーだろ!!』
小さなお友達は目をくりくりさせながらゼフェルの話を聞いていて、ゼフェルはそんなお友達を喜んでその機械の中にいれました。
……が、ゼフェルがスイッチを押した途端、中に入れられたその子が激しく鳴き始め──思わずリュミエールが止めに入ろうとしたそのときに、驚くべき行動をゼフェルがとったようなのです。
『わりーわりー、怖かったか?』
慌てて機械を開き、中から震えたお友達を取り出すと、労わるように抱きしめて。
『わるかったな、暗い所も狭い所も嫌いだったんだな、おめー』
そう言ってお友達を抱いたまま、それまで大事そうに扱っていた機械を無造作に掴むと、2人でどこかに行ってしまったそうです。
「実験のためならば、友達に害があるとしても気にせず結果を得ようとすると思っていた」というリュミエールは、ゼフェルの一連の行動に唖然として……そして可愛いと思ったようなのです。
「これからゼフェルを見る目が変わりそうですよ」
と、問題発言を残してリュミエールは帰っていきました。
そんな微笑ましい光景をリュミエールに見られてしまったなんて……私としてはちょっと複雑です。
本当はゼフェルは無邪気で素直な心の持ち主であるということは、私だけが知っていればいいことなのですから。
ああ、そんなことを考えていては、ジュリアスに叱られてしまいますねぇ。
私がこんなことを考えているということは、誰にも知られないようにしなければ……。もちろん、ゼフェル本人にも、ね。
さて、就寝前にゼフェルに会いに行ってきましょうか。もしかしたら小さなお友達と楽しげに遊んでいるかもしれませんから……にんじんでも持っていってあげましょうかね。 |
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