☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
君に話したいことがあるんだ。……ううん、そんなに難しいことじゃないよ。
だからちょっと、そこに座って聞いてよ。
君はいつも、僕の話すことは難しいって言うけど、僕にしてみれば君の話のほうがよっぽど難しいんだよ?
テレビの話とかゲームの話とか、みんなの間で流行ってるものの話とか……。
毎週大量に発売される新曲の話なんて、僕には誰が誰だかさっぱりわからない。3年前から、君にいろいろ貸してもらっているのにね。
君は、僕が育ってきた環境は『異常だ』って言って──それは僕自身そう思うけど、それでも僕のことを『自分とは世界の違う人間だ』って切り離さないでくれたのは、君が初めてだったよ。
僕と君の間にあった大きな溝みたいなもの──というより、僕とみんなの間にあった溝なのかな──を、君は必死で埋めようとしてくれたよね。
だから僕はこの高校に入って、一度も疎外感を感じたことがなかった。中学の頃までは、一人でいるのが当たり前だったのに。
……全部、君のおかげだよ。ありがとう。
結局僕の生活環境が全然変わらなかったこと……君がすごく残念に思ってるって、知ってるよ。
口うるさくて変に頭の固い父さんと母さんがいるから仕方ないけど、僕にはたくさん制限があって。そのせいで、君にも何度も嫌な思いをさせたんじゃないかな。
僕とどこかに出かけても門限の8時までには家に帰らなきゃいけなかったことも、僕の家に遊びにこれなかったことも……本当はすっごくすっごく悔しかったんでしょ。
なんで知ってるのかって? だって、顔にちゃんと書いてあったから。
……僕だって、いつも君と離れるのが寂しかったしね。
君に借りたCDも、夜寝る前に布団の中でこっそり聞くことしかできなかったんだ、本当は。……信じられない? ふふ、そうだろうね。
君が誕生日プレゼントにくれた指輪も、母さんに見つけられたらすぐに捨てられちゃいそうで、だからこうして毎日肌身離さず持ってるんだ。これの存在を知っているのは、僕と、君だけだよ。
父さんと母さんのことを知っても僕のことを軽蔑しなかった君に、心から感謝してる。
君が話しかけてきてくれるたびにすごくドキドキして、会話が成り立つようになるまで時間がかかったけど……だんだんと君に近づいていく気がして嬉しかった。
最初は緊張して返事もろくにできなかったんだもんね。……思い出して笑わないでよ、恥ずかしいんだから。
君と同じものを共有して、君とたくさん話をして……どんどん距離が短くなって、それで──……。
初めて結ばれたときのこと、忘れないよ。
君が、僕のことを本当に好きでいてくれてるんだって、実感できた日だから。
……ねぇ、好きだよ。
君は、もう言ってくれないの?
最近全然言ってもらってないから、久しぶりに言ってもらいたいな。
君に飽きられちゃったんじゃないかって、僕が不安になってるって……思いもしないんでしょ。
君みたいに誰にでも好かれる人にはわからないかもしれないけど、ホントはいつも心細いんだ…僕。
家族以外の人とこんなに長く付き合うのは、君が初めてだから……どうしたらいつまでも一緒にいてもらえるのかって、ずっと考えてたりするんだよ。
ホントに根暗だね、僕って。
……ごめん。僕お得意のマイナス思考になっちゃうとこだった。
この高校を卒業したら、僕ら、どうなってしまうんだろう。
僕は大学。君は就職。……生活が、すれ違っちゃいそうだね。
毎日電話するって言っても、いつかめんどくさくなってしなくなるかもしれない。
週末は会いたいなって思ってても、君の仕事はきっと週末にもくいこんできそうだし。
そうしたら、そのまま会わなくなって……終わっちゃったり、するのかな。
ねぇ…………。
……僕と、これからも付き合っていく気……ある?
…………ありがとう。
そう、言ってくれるって……信じてた。
本当は、すごく怖いんだ。僕が高校生活に馴染めたのは君のおかげだし……3年間楽しく過ごせたのは、毎日君と会えたからだよ。
君のいない学校に通って、君と話せない時間が増えて……そう考えただけで、今から胸がつぶれてしまいそうだ。
昔みたいな、誰からも話しかけられない生活なんて、二度とゴメンだ。
だから……これからも僕のことを支えて、ね。
僕が頼れるのは……世界で君だけだから。
いつまでも……君の隣にいさせて…………。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
|