ザ・オヤジ受3



「……大丈夫かよ」
 汗と、それ以外のものでしっとり濡れたシーツに身を横たえ、上がりきった息を整えようとしていると、頭上から低い声が降ってきた。
「拭いてやるよ」
「ああ……ありがとう」
 今や私の家の中を完全に知り尽くした彼は、洗面台の横の棚からタオルを出して固く絞って持ってきてくれたようだった。
 全身をくまなく拭っていく温かい布に、安堵の息が洩れる。本来ならば自分でするべきことなのに、何もかもを委ねて彼にしてもらうのが、最近では当たり前のようになりつつあった。
「……っ」
 先ほどまで彼を受け入れていた部分にタオルが伸びてきて、中から溢れてくるものをそっと拭いていく。その動きにまで反応しそうになり、慌てて自分を戒めた。
 台所まで行ってタオルを濯ぎ、何度かそれを繰り返して私の身体を綺麗にしてくれた彼は、まともに立ち上がることができずにいる私の身体を敷き布団の上から畳の上に移動させると、どこから見つけてきたのか真新しいシーツを広げて汚れたものと取り替えた。
 それからすぐに私を布団の上に乗せてくれる。
「あ…ありがとう」
 気恥ずかしいような、照れくさいような気持ちが胸に押し寄せるが、それは決して不快なものではなかった。

 ──彼に優しくされるのは、嫌いじゃない。
 こうして私の身体を気遣ってくれる彼の優しさは……どこまでも深く、温かい。
 最初の頃とは比べることもできないほど、私の彼に対する感情は変わっていた。

 夕方彼が来てから一緒に夕飯を食べ、いつものように布団の中へとなだれ込んで……気づけばすでに深夜と呼べる時間になっていた。身体の節々が痛むわけだ。
 全裸のまま部屋の中を動き回っていた彼は、ひとしきり私の身の回りのことを済ませてくれると部屋の隅に置かれていた枕を持ってきて、私が横たわっていた布団に潜り込んできた。
 当然のように腕枕をされ、今ではそれもすんなりと受け入れてしまう自分をおかしく思いながら、ゆったりと彼の腕に頭を預けた。
 軽く触れた胸から、彼の鼓動が伝わってくる。……私の鼓動も彼に聞こえているのだろうか。
 鳶職をしているという彼の身体は、どこもかしこもしっかりと筋肉がついている。意図的に鍛え上げて手に入れたものではなく、仕事柄自然と身についた感のある適度な筋肉は、一度も手に入れることができなかった私には羨ましいものだ。
 若々しい肉体。貧弱な私の身体とは、比べようもない。
 私は彼の鼓動を耳朶のすぐ近くで聞きながら、常々気になっていたことをついに聞いてみることにした。
「……聞いていいかい?」
「なに?」
「君は私のどこに魅力を感じているんだ? どうして私を抱きたいと──思うんだ?」
「…………は?」
『なんだ急に?』と顔にしっかり書かれて、私は自分がどれだけ恥ずかしいことを聞いたのか自覚する。
(な、何を言ってるんだ、私は!?)
 慌てて取り繕おうとして、ぶるぶると首を振って前言撤回しようとする。
「な、なんでもない! 聞かなかったことにしてくれっ!」
 だが、そんなふうに狼狽えた私の様が可笑しかったのか、彼は口の端を上げて笑った。
 そして、ゆっくりと身体を密着させてくる。
「そうだな、例えば──」
「え? ……あっ!」
 もぞもぞと身体を動かし、私の胸元に頭を寄せてきた彼は、突然胸の突起に触れてきた。
「ちょっ……やめっ……っぁ!」
 右の突起は爪の先で引っ掻くようにして弄くり回し、左のそれには歯を立ててくる。
「女に舐められてたのか? 感じやすいんだよな」
「そんなこと…あるわけないじゃないかっ」
「ん?」
「あぁっっ!」
『ちゅうっ』と音をさせ、力いっぱい吸い付かれて、背筋に電流が走ったような感覚を覚える。
「やめろ…って……言ってる、だ、ろっ」
「ここは言ってないみたいだぜ?」
『ちゅくっ、くちゅっ、ちゅっ』
 彼が唇を動かす度に、湿った音が私の胸の上でする。
「あっ、だめ、だっ……んっ」
 口ではそう言いつつも、彼の頭を押し返す手に力が入らないのは紛れもない事実だった。
『ぴちゃ、ぴちゃっ、……きちゅっ、ぢゅうっ!』
「うふっ……んっ!」
 一際強く吸われ、唯一動かすことのできた足の指がシーツをきつく掴んだ。
「きょ、今日はもう終わりだって……っ!」
 明日も早朝から仕事の彼は、家に戻る時間を惜しんで泊まるということにしたのに……これではただ体力を浪費するだけじゃないのか!?(私の体力などとうに底を尽きている!)
「そんな可愛いこと言われて、何もしないわけにはいかないだろ。
 それに知りたいんだろ? あんたのどこに、俺が感じてるか……」
 胸元から顔を上げ、私の目を見上げてきた彼は、そのまま素早く私の唇を唇で塞いだ。
「んんっ…っ」
 固い舌が私の舌を絡め取り、根元から取れてしまうのではないかと思うほど強く舌を吸われる。
 少し伸びた彼の髭が、私の顎をちくちくと刺激するのが……ひどくセクシャルに感じてしまって。
『くちっ・くちゅ、ちゅ、ちゅく…』
「ん……、は、ふ……」
 そんなつもりなどなかったはずなのに……いつものように彼にされるがまま感じ始めている私は、こんなに快楽に弱い人間だったのだろうか。
 口づけを止めることなく、手だけを動かした彼は、すっかり力を失っていた私に再び触れてきて……
「あ……」
 濃い愛撫を施されはじめた身体にはいつのまにか再び火がついていたらしく、彼の指の動きに合わせて反応しはじめてしまう。
『きちゅ・きちゅ・きちゅっ』
 彼の手が私のものを擦り上げるたび、尖端から滲み出て幹まで伝い落ちていた液体が布団の中で卑猥な音を立てる。
「はっ……あ、あぁっ……」
 次第に高くなっていく声を止められない。……腰が揺れるのを、止められない。 
 突然、彼は掛け布団を剥ぎ取り、腕の中に捕らえていた私の身体をひっくり返してうつ伏せにした。
「なっ、なにっ?」
 放り出された熱がシーツに染みを作ってしまわないように、両腕と両膝でなんとか身体を支えた私を、彼は
「そのまま這ってろよ」
 と言って尻を持ち上げさせて四つん這いにした。……まるで犬のように。
「なにっ? なんでこんな格好……」
 自分の背後に彼が回るのが見えて慌てて身体を起こそうとすると、背中をぐっと押されて起き上がることができなかった。
「いいから、じっとしてろって」
 どこかからかうような、子供がはしゃいでいるときのような弾んだ声でそう言われては……動くことなどできなくなってしまう。
 だが彼が始めた行為は、子供の無邪気な悪戯にしては刺激が強いものだった。
「慣らす必要はないみたいだな」
 私の秘部に指を突き立て、思う様に抜き差しをする。
「やっ……そんなのっ、あ…っ」
『じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ』
 すでに彼を受け入れて広がっていたせいか、いつもと少し違う音が洩れる。
 身体を起こす気などすぐに失せて、私は彼の指を味わいはじめてしまう。それどころか、さらに──
「駄目っ……足りな…ぁっ」
 例え彼の指が太めだとはいえ、先程何度も容量の大きいものを挿入されたそこは、1本ではとても満足できなくて。
「あ、してっ…、早く……っ」
 強請るように首だけ動かして彼を見ると、彼もすでに準備万端で私に近づいてきていた。
 彼の手に支えられた熱は、ひどく大きくなって……幹を細く流れ落ちているものが、天井からの明かりで反射して光っていた。
 直視することができずすぐに視線を逸らすと、あとは体内に訪れるだろう熱を待った。
 待つというほど時間を開けず、すぐに熱が押し入ってくる。
『ぬち……っ』
「んっ……」
 彼が入ってくるのは、全身が粟立つような感覚をもたらす。ぐぐっとゆっくり侵入してくる固いものが、何故だか私に安堵感を与える。
「は……は、あ……っん……」
 奥へ奥へと侵入してくるものを締めつけるように、少しずつ私の中が窄まっていく。それを咎めるように、軽く臀部を弾かれた。
「まだ締めるなよ……」
「だっ…て、あっ……」
 締めつけて、彼の形すべてをその場所で確かめたかった。彼を、強く感じたかった。
『ずちゅ…ずちゅ、ずっちゅ』
 やがてゆっくりと彼が動き始めると、すぐに湿った音が響きはじめる。私の中に残されていた彼の残滓が、彼の熱に絡まっているのだろう。
『ずちゅっ、ずちゅっ、ずっ、ちゅっ、ずっ、ずっ』
「あぁ、あ、あ、は、ぁ、んっ、」
 彼の動きが早まっていくにつれ、洩れる音も速度を増していく。
 これまでに幾度となく刻まれた彼のリズムに、私の身体もそれに合わせるように前後に揺れる。
 がっしりと腰を掴まれ、さらに強く熱を打ちつけられて。
『ぱんっ・ぱんっ・ぱんっ・ぱんっ』
 肉と肉のぶつかり合う音。本当にこんな音がするなんて、今まで知らなかった。
「うっ、うっ、うっ、うっ」
 彼の動きに合わせ、枕に押しつけていた私の口からも呻き声が洩れてしまう。ふっふっとせわしない彼の呼吸も聞こえてきて、その声に呼応するように声はさらに大きくなっていく。
 昇りつめていく感覚はとてつもない快感だったが、腰を高く持ち上げたままの体勢というのは、長年の座り作業に慣れきった私の身体には負担が大きかった。
「あ…も、駄目……っ、腰、腰がっ……」
 ぎしぎしと軋みを上げて腰骨が限界を訴え、私は早々に降参の声を上げた。
 だが彼は動きを止めず、
「もう少し、我慢しろよっ」
 と言うと、私の背中にずっしりとのしかかってきて。繋がった部分がさらに深く交わるのを感じた。
「あ、うっ、ふか……いっ」
「いいだろ……」
 そんな言葉とともに首筋に息を吹きかけられて、びくっと身体が跳ね上がる。
 再び打ちつけてくる彼を、私は受け止めることしかできない。
「ああ、あっ、だめだっ……!!」
 気が遠くなる。こんなにも深く彼を受け入れて──いいのだろうか?
 この熱を手放す日が来たら……私はどうにかなってしまわないだろうか?
「……イクぞっ」
 低く掠れた声が、私の耳元で囁く。促されるように、私の中の熱は一気に放出へと向かう。
『じゅっ!じゅっ!じゅっ!じゅっ!』
「はっ、あっ! わっ、私も……!! い、くっ……!!」
 大きく割り開かれた足の間を出入りしていたものが、大きく膨張して──
「あっ────ひっ!!」
『どぷっ!どぷっ、どぷっ、どっぷっ!』
 音がするほど勢いよく、私の中に熱い液体が放たれた。……いや、もしかしたら音はしていないのかもしれないけれど、私の内側は確かに彼のものを受け入れる音を聞いていた。
 そうして私のものも……
『びゅる・るっ!』
 全身を震わせるような勢いで、出すものなどもうないと思っていたのにしっかりと吐精していたのだった。──新しく敷いてもらったばかりのシーツに。
「……おっと」
 力が抜け切った身体が、たった今汚してしまったばかりのシーツに倒れこむのを彼が防いでくれる。
 私の腹に両腕を巻き付け、そのまま精液が飛んでいない部分に自分の身体を横たえると、その上に私の身体を乗せた。
「……すまない……せっかく綺麗にしてくれたのに……」
 容易には戻ってこない体力を、それでも呼吸をゆっくりすることで回復しようとしながら謝った。
「また取り替えればいいだろ、気にするな」
 私の頭に手を置いて、子供にするように軽くぽんぽんと叩く。
 こんなにいい年になって、そんなことをされて喜んでいるのは……この世の中で私だけだろうか。
 だが彼の手はいつも温かくて、こうされるといつもふんわりと幸せになれるのだ。
 そのまましばらくは、私の乱れた息遣いだけが部屋の中にこだました。彼の回復力には本当に脱帽してしまう。
 ──やがて、
「今度……クリスマスだろ」
 私の呼吸が落ち着いたのを待っていたように、彼の掠れた声が唐突にそんなことを言った。
「…え?」
 子供が大きくなってからはイベントというものに疎くなっていて、すっかり忘れていたが──
「ああ……そういえば、そうだね」
「予定、入れるなよ」
「え?」
「家にいろよ」
「それって……」
 すぐには彼の言っていることがわからずに、考えてしまう。
 これは、いったい……どういうことだろう。
(でも、予定も入れずに家にいろってことは──)
「私と…一緒に過ごしてくれるのかい?」
 思わず彼の顔を仰いでそう言った私に、彼は照れたようにそっぽを向いてしまう。
「別に、特別何かするわけじゃねえぞ」
「……うん」
「勘違いするなよ、クリスマスだからってプレゼントなんか買って来ないからな」
「わかってるよ」
 ひどく投げ遺りな言葉に、だが笑いは止まらない。
 彼のこういうところが、私は好きなのかもしれない。……本当は優しいのに、思っていることを素直に口にしない、少し意地っ張りなところが。
「……待ってるから」
 身体を反転させ、彼の首に両腕を巻き付けながら、私は久しぶりに人と過ごすクリスマスを楽しみに思う自分を感じていた。


衝撃の事実! オヤジに子供がいるなんて……!!(爆)

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