ザ・オヤジ受2



「よお」
 突然声を掛けられて、執筆に集中していた私はびくっと全身を竦ませた。
「なにびびってんだよ、今さら」
「──あ、ああ、君か」
 見慣れた青年の顔に、跳ね上がった心音が徐々に静まっていく。
 祭りのあったあの日。彼に路上で犯されたにもかかわらず、私たちはよく会うようになっていた(というより彼が私の家に押しかけてくるのだが)。
 この家の合鍵を自分で作った彼は、その鍵を使って自由に出入りするようになり、追い返すこともできないまま、私も今では当然のように彼を迎え入れてしまっていた。
「仕事中だったか?」
「うん。……ああ、もうこんな時間か」
 時計の針は午後6時を少し回っていた。昼から一服もせずこんなに長時間書き続けたのは久しぶりだ。
 ──もしかしたら、彼がしばらく訪ねてこなかったからだろうか。
「そろそろ休めよ。ずっとやってたんだろ?」
 かけていた眼鏡を外し、大きく伸びをした私の肩に触れて、青年はそんな優しい言葉をかけてくれる。
 だがその言葉の裏に隠されている意図を知っている私は、素直に休むつもりなどなかった。
「いや、もう少しやるよ。締め切りが近いんだ」
「締め切り? 大丈夫だろ、そんだけ頑張ってんなら」
「今いいところなんだよ。このまま勢いに乗って書けそうだから……」
 私は外したばかりの眼鏡を慌ててかけ直し、万年筆を持って机に向かった。
 だが手を動かそうとしたところを、彼の手に止められてしまう。
「だから、少しだけ休めよ。な?」
 背後から手を伸ばしてきて、私の眼鏡を器用に外し、シャツのボタンに手をかけようとする。
「やっ、やめてくれっ!」
「なんだよ、久しぶりじゃん。いいだろ?」
 じゃれつくように私の首に抱きついてくる彼の重みに頬を染めて、それでも断固として拒み続けた。
「君に抱かれてしまうと仕事にならなくなるんだっ。若くないからね!」
 これまでの自分では考えられないような直接的な言葉を口にしてしまい、途端に羞恥心に襲われる。
 私の言葉ににやっと笑った彼は、
「仕事には差し支えるけど、嫌じゃないんだろ?」
 と勝手に決めつけ、私の体を自分の方へ引き寄せた。そのまま両手をすべらせ、至る所を弄る。
「あっ……!」
 ズボンの上から内腿を撫で上げられて、その気もないのに熱い息が洩れてしまう。私はここが弱かったらしい……。
「もう……やめてくれっ」
「無理だな」
「原稿の締め切りが──あっっ」
「平気だって。1回だけだから」
 たとえ1回と言えど、彼の行為の激しさは身を持って体験させられている私だ。すんなりと「うん」とは言えない。
 ────はずなのに。
「1回……だけだからな」
 素直に彼を受け入れようとしてしまったのは、私自身が彼に餓えていたからなのかもしれない。彼の熱に。
「1回な」
 彼は嬉しそうに顔を緩ませると、私の唇に唇を合わせてきた。いつも思っているのだが、彼は私のようなおじさんのどこがいいのだろう。しかも自分と同じ男にキスなんかして……気持ち悪くないんだろうか?
『ちゅく…ちゅっ……くちゅっ』
 お互いの唾液が絡み合い、淫らな音が部屋にこだまする。私は彼の背中に手を回し、もっと貪ってくれと口を開いた。
 彼の熱い舌の感触は好きだ。これまでに、互いを貪りあうほど深く激しいキスはしたことがなかったが……悪くないものだと思わされてしまう。
「んっふ……」
 私の口腔に忍び込んでいた舌がずるっと出ていき、私は名残惜しさに舌を追い掛けようとした。
「あ……」
 透明な糸が私と彼の舌を結び、やがて切れてしまう。
 彼は私の体を支えて畳の上に敷くと、慣れた手つきでシャツのボタンを外しはじめた。私はされるがままで、そのまますべての着衣を脱がされてしまうまで固まったままだった。未だに自分から手を伸ばして、彼の服を脱がせることはできなかった。
 彼の舌が私の全身を走る。骨張った体のどこがうまいのか、熱心に舌を這わせてきて──洩れてしまいそうな呻き声を必死に抑えた。
 やがて彼の手が私の秘部に伸びてきて、入り口をくすぐるように指が動かされた。
「あっ……」
 くぷくぷ……と、少しずつ指が入ってくる。──久しぶりの感覚。
「いろいろ言ってたわりにはすんなり入ってくけど?」
 浅ましく彼の指を飲み込む私の秘部に、彼は含み笑いを洩らす。
「君が……っ、いじるからだ…あっ!」
 指を追加され、ぐっと奥まで入れられて、スポットに指先が触れた瞬間に甲高い声を上げていた。
『くちゅくちゅっ、ちゅくっ、くっちゅ、ちゅぽっ』
 彼の指が動く度、私の中が音を立てる。彼自身を早く受け止めたいという欲望がどんどん高まり、私は無意識のうちに膝を曲げて自分から足を開いていた。
 彼にそこが見えやすくなるまで開くと、指を締め付けるようにきゅっと力を込めてみる。彼の熱を思っただけで思わず吐息が洩れた。
 そんな私の様子に彼は勢いよく体を起こし、急いた様子でズボンを脱いだ。
 見慣れた感のある彼の分身は、今日も雄々しくそそり勃っていた。──いけない、喉が鳴ってしまった……。
 彼は自分のものを数回扱き、尖端を光らせていた先走りを根元までまんべんなく塗り込めた。
 それから私の両足を抱え上げ、尖端をぴたりと秘部に当てがって……
「……いくよ」
 そう言うが早いか、ぐっと腰を進めてきた。
「んっ…ふ、うっ……くっ」
 彼の熱が私の中に少しずつ侵入してくる。久しぶりの押し広げられる感覚に、私は全身の力を抜いて受け入れ体勢に入った。少しでも体に力が残っていると辛いと、もう知っているから。
「あ……あ…あ、ああっ」
 数カ所あるスポットをすべて刺激しながら、彼の分身は私の一番深い場所まで収まった。
 どくんっどくんっと内壁を叩く振動に、私はうわ言のように叫んでいた。
「う、動いてっ、早くっ!」
「ああ、いくぜ!」
 彼は私に答えるように、ものすごいスピードで動き始めた。息が止まってしまいそうなくらいなほど。
『ずっちゅ!ずっちゅ!ぐっちゅ!ずっぽっ!』
 私の中を彼が激しく出入りする。その度に結合した部分が大きな音を立てて──
「あっあっ、いやっだっ、ゆっくりっっ……!」
 あまりの激しさに脳が混乱するようで、私は彼の腕にしがみついて懇願していた。だが彼は、
「今さらっ……止まるかよ!」
 私の耳元に掠れた声を吹きかけると、さらに腰の動きを早めただけで。
「あふっ…ああっ!」
 ずりずりと、彼の動きに合わせて体が上に押し上げられていく。背中を強く畳に擦り付けられて、ぴりぴりした痛みが走る。
 それすら快感に感じてしまうほど、私の体は彼を求めていた。
「あ、いいっ! いい、ああっ」
 私の声に触発されたようにさらに激しくピストンしてくる青年を、閉じていた目を薄く開いて見る。
 すると、私を見下ろしていた視線とぶつかった。
「…いいのか?」
 額に汗をかいて、達しそうなのをやりすごしているのかくっと眉を寄せている。大人の男を感じさせるその姿に、私の胸は高鳴った。
「いい、よ……」
 本音を洩らし、彼の首に腕を回す。再び唇を重ねあい、全身で快楽を感じあう。
「んっふ、ん、はっ!」
 舌を絡め、吸い上げながら下半身でも繋がっている。粘着質な音がさらに大きくなる。
(雄を受け入れるのがこんなにいいなんて……!)
 人生の分岐点に立ってからようやく知った快楽は、それまで感じてきた快感とは比べ物にならないほど狂おしく、そして刺激的だった。
「あっ、もうっ……いくっ!」
「まだだ! もう少し……っ!」
 彼の体に必死にしがみついていた私を引き剥がすと、彼は繋がったままの部分をぐっと持ち上げ、上から叩きつけるように突いてきて。
「あああっ!」
 老体にはかなり厳しい姿勢のまま貫かれて、一瞬意識を失いそうになる。
『じゅっ!じゅっ!じゅっ!ぐじゅっ!じゅぐっ!』
 彼の早い動きに合わせて、私の秘部も音を立てる。いやらしい音に合わせて、私の口からも喘ぎが洩れる。
「いくぜっ……!」
 彼が言うのが聞こえ、私もようやく解放されるのだと塞き止めていた体から力を抜いた。
「はあ………っ!」
 私の中に彼の熱が解き放たれ、それを感じた瞬間に私も熱い迸りを放っていた。
「ああ…ああ……」
 久しぶりの射精は、体内に溜まっていた膿をすべて放出してくれたような爽快感を私にもたらした。
『ぬちゅ…っぽ』
 そんな音を立てながら彼が私の中から分身を引き抜き、私は全身を痙攣させて彼の精液が外へと流れていくのを感じていた。
 若い分私より回復が早い彼は体を起こし、
「いっぱい出たな」
 2人の下腹を濡らしていた私の精液を指で掬うと、そのまま口へと運んでしまう。
「──うまい」
 そんなわけがないのに、少し幼い笑顔で言われて、私は愛しさを感じ再び彼へと手を伸ばしてキスを求めていた。
 1回で終われるわけがないのだ。いつも、2回目をせがむのは私の方なのだから……。


オヤジが愛らしい…

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