ザ・オヤジ受



 どこか遠くから祭囃子が聞こえてくる。……正確には『どこか』ではなく、私が向かおうとしていた場所から聞こえてくるのだが。
 予定通りならば今頃は私も祭りの輪に混じり、盛大に騒いでいるはずだった。
 それが何故、こんな人通りのない路地裏で、自分より20は年下だろう青年に暴行されているのか。
 何年か振りに袖を通した浴衣が見るも無惨にはだけられて、今の私の姿はこのうえなく酷いものだった。
 青年も祭りに行く途中だったのか、この季節に何度かお目見えする法被姿だった。鍛えられた腹筋には、しっかりと晒しが巻かれている。
「はぁ、はぁっ……」
 先程まで抗おうと無理していたせいか、いつまでたっても息が整わない。……いや。青年の行為に、さらに息が上がっているのか。
 壁に押さえつけられたまま、全身を弄られる。穿き古したブリーフの中に忍び込んだ手が、私の分身を強く握っていた。
「や、やめてくれ……もう……っ」
 どうにも整わない息をそのままに懇願すると、肩口に擦り付けられていた青年の顔がふいに動き……唐突に、私の首筋に激痛が走った。──硬く尖った歯が噛み付いてきたのだ。
「うっ!」
 あまりの痛みに一瞬意識が遠退きかける。それを阻止するかのように、粘着質なものが激痛の走った場所をねっとりと這った。
「あ、ああ……!」
 出すつもりのない声が漏れ、背筋を電流のようなものがぞくぞくっと走る。感じたことのない感覚。これは、なんだ?
 首筋から鎖骨へと移動した舌は、そのまま私の胸元まで動いて──そこにあった小さな突起がちりっと痛んだ。
「あっ!」
 思わず声を出し、慌てて青年の頭を退けようと肩を押す。だが青年は私の胸から顔を外しただけで、身体は離れてくれなかった。
 青年が強く吸った跡が、私の胸に色濃く残る。それを見ただけで、私の中に喩えようのない感情が広がっていく。
 ブリーフの中を動いた手はふいに後ろへと回り、私の尻を揉みしだくように撫でてくる。悪寒なのかなんなのか……背筋を走るぞくぞくは、止まらない。
「いい硬さだな。俺好みだよ」
 年に似合わない親父くさい口調で言うと、その手をさらに奥まった場所へと移動させてくる。
(そ、その先は──っ!!)
「やっ、やめてくれっっっ!!」
 自分でもほとんど触れたことがない場所へと指を運ばれて、私は渾身の力で青年を振り切ろうとした。だがまったくびくともしない。鍛えられた肉体と、あとは老化していくだけの肉体の差が如実に現れたといった感じか。
 青年の指は私の秘部を数回叩くと、すっと手を引いて私の尻を解放した。しかしほっとしたのも束の間、青年は今まで私の秘部に触れていた指を口に含んでたっぷり濡らすと、再び同じ場所へと触れてきたのだった。
「初めてだろ、ここに突っ込まれるの。ちゃんと慣らしてやるからな」
 決して綺麗ではない場所にためらいもなく触れる青年に、私は呆然とされるがままになりつつあった。
(あんな場所に触れた指を口にするなんて……どんな細菌がついているかわからないのに──)
 もはやそんなことは問題ではない気もしたが、窮地に立たされると人はそんなことしか考えられなくなるのだろう。
「うっ!?」
 やがて、青年の指が少しずつ私の秘部を抉じ開けて入ってきた。そのなんとも形容し難い感触に耐え切れず、じたばたともがいてみたが、結果はそれまでと同じ、何も変わらなかった。
 尺取虫のように、くねくねとゆっくり侵入してくるそれは、間違いなくさらに奥へと進もうとしていた。
「う……うう、」
 声が洩れる。信じられないことに、嫌悪だけではない感情が、私の胸を支配しはじめていた。……それどころか確実に、身体の芯を熱くするような何かが駆け抜けはじめて──
 いつしか私は荒い息をついて、青年の指の動きを追っていた。
「……濡れてきたぜ」
 私に確認させるように言うと、青年はずるっと指を引き抜いた。気付かぬうちに指を増やされていたのか、体内から出ていったのは指一本だけではない感じがした。
 ようやく圧迫感から解放され、安堵して息をついたのも一瞬のことだった。
 突然足を割り開かれ、青年の腹部に正面から座らされるように腰を持ち上げられて……尻に熱い棒が当てられたと思った次の瞬間、
「挿れるよ」
 という掛け声と共に、熱が私の中へと押し入ってきたのだ!!
「なっ、やっ、やめてくれっ……あう、うぅぅっっ!!」
 とてつもなく大きなものが、私の身体を引き裂くために侵入してくる!
 あまりの衝撃に、全身が強張ったまま動かなくなってしまった。
 熱の塊が、私の中で暴れている!! ぐいっぐいっと、さらに奥まで開通しようと……!!
「いた、痛いっ! いたっ……」
 全身が痺れる。このままでは、死んでしまう。本気でそう思った。
 そのとき突然、耳元で囁きが聞こえた。
「力抜けよ。そんなにガチガチだと楽しめないぜ?」
「そ、そんなこと……っ」
 言われても、どうしたらいいのかなんてわからないのだ。こんな経験は初めてなのだから。
 声にならない非難を感じ取ったのか、青年は笑いを含んだ声で言った。
「1人じゃリラックスもできないか? じゃあ俺が手伝ってやるよ」
 そう言ったかと思うと、突然私の分身に手がかかり、ゆるゆると刺激が送られてきた。
 触れるか触れないかくらいの位置で、指先だけで弄ばれる。そのもどかしい感覚に、私は自分の腰が勝手に揺れてしまうのを感じた。
 人間とはなんと弱い生き物なのか。身を走る快楽の前では、どんな自制心もないに等しくなってしまう。
「あ…は、あっ……」
 やがて私の口からは、熱い息が洩れていた。
 声が止められない。何も……考えられなくなって、いく──。
「あっ、あっ……!」
 前に送られる刺激は、やがて後ろまで広がっていき……気づけば私の身体を包んでいるのは痛みではなく、大きな快感となっていた。
「はあっ、はぁっっ」
 青年の分身に身体を押し上げられて、信じられないことに、壁に押し付けられたままだった私の身体は地面から浮き上がりかけていた。私より軽そうな青年の身体に持ち上げられている自分を朦朧とした視界の中で確認すると、足元に転がった私のブリーフが見えた。
「あ、あうぅっっ!」
 青年が私の両膝の裏に手を当て、そのまま一気に抱え込む。重力が働いて下に落ちようとした私の中に、青年の分身はさらに深く侵入してくる。
 ずくっずくっと狭い場所を掻き分けて入ってくる熱は、私の身体を決して手離そうとしなかった。
 ぬちゅぬちゅと卑猥な音が響き、私の秘部から尻の割れ目に向かって、生暖かいものが流れるのを感じた。
 青年の刻むリズムに合わせ、私の身体も上下に揺すられる。
(長年生きてきて、こんな感覚は初めてだ。自分の身体の中に異物が入ってくるのがこんなにも……)
「い、いい……」
 私の唇からはそんな言葉が洩れていた。意識して言ったのではない、本当に無意識のうちに零れ落ちた言葉に、私自身が大きく動揺した。
 そんなはずはない、そんなふうに感じるはずはないとすぐに否定しようとするが、そのときにはすでに次に訪れた新しい波に流されている。
 飽和された頭で本心など、自分にもわかるはずがなかった。
「あ、ああっ、あぅ……っ」
 壁に押さえつけられ、擦られている背中が痛みを訴える。しかしそんなものは気にならないも同然だった。
「ああ、ああ、そ、こ……!」
 青年の背に両腕を回し、法被がしわくちゃになるまで強く握りしめる。青年の肩は思っていたよりも厚く、私はそこへ額を擦り付けていた。
「も…っと! もっ、と、ふかく……っっ!!」
 私の声に、青年が激しく突き上げてくる。密着しきった身体の間で、私の分身が悲鳴を上げる。青年が突き上げてくる律動に呼応して、少しずつ尖端を湿らせていくのがわかった。
 大きく広げられた足が、ぴくぴくと限界を訴えはじめる。
「もう、だめだ…っ! くっ……ぅっ」
 最近ではすっかり馴染みがなくなっていた感覚が近づいてきて、私は青年にしがみついたまま欲望を解き放ってしまった。
「俺もイクぜ……っ」
 脱力した私の身体を抱え直し一際強く腰を振ると、私の最奥まで貫いたところで動きを止め、そのまま熱い迸りをぶちまけたのだった。
「あ…ああ…………」
 どぷっどぷっと熱い奔流が私の中を満たし、その熱の心地よさに思わず意識を飛ばしかける。今までに味わったことのない充足感を、私は全身で感じていた。
 着衣の乱れもそのままに地面に座らされ、青年も分身をしまいも隠そうともせずに私の隣に座り込んで息を整える。
 気だるい空気の漂う中、私はふいに口を開いた。
「な、なぜ君は、私に声をかけたんだ?」
 目が合った瞬間突然私の腕を掴み、この場所まで引きずってきた青年の様子を思い出す。
 すると青年は、思いもよらぬことを言ったのだった。
「あんたが浴衣で歩いてるの見て、発情したんだよ」
「は、発情って──」
「ホントのことだぜ? 浴衣とか着物とか、体に布巻きついてるだけって思ったら脱がさずにはいられないんだよな、俺。あんたの浴衣乱して、俺のこいつを突っ込みたいって、そう思っちまったんだよ」
 今は半分ほどに勢いを抑えている分身を、青年は指先でぴんっと弾いた。ぷるんと震えたそれは、それだけの刺激でもむくむくと元気を増していく。たった一度きりの放出ではまだまだ足りないようだ。
 私は知らず喉を鳴らし、その様を見ていた。──さっきまで自分の中に埋め込まれていたそれが、恋しくて……。
 私の様子に気づいたのか、青年は私の肩に腕を回して耳元で囁いてくる。
「それに、そんな色気全開で歩かれてちゃ、理性なんか吹き飛ぶさ」
「色気なんて……」
 こんなおじさんを捕まえて何を言っているのかと笑い飛ばしたかったけれど、今の私にはそれができなかった。
 久方ぶりに私を快楽へ導いてくれた青年に、たとえ嘘でもそう言ってもらえて……内心、嬉しかったのかもしれない。
「あんたもけっこう気に入ったんだろ? 俺に突っ込まれるの……。これからはいつだって抱いてやるよ。あんたが好きなだけ、な」
 青年はそう言うと、力をなくした私の分身をゆっくりとセクシャルに撫で上げた。
「あ…………」
 私は自分の身体の中に、再び火が灯るのを感じていた。


オヤジも頑張ったでしょ?

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