欲望は留まることなく



 久しぶりの夜遊びだからと、慣れていそうな奴を引っかけたのが失敗だった。
「ああ……いい、いいよ、サイトウさん……」
 甘ったるい声を上げながら、俺の下で身悶える青年。……いや、少年だろうか。40代半ばともなると、10代も20代もそう変わりなく見えるようになってくるからよくわからない。
 年も名前も聞かない一晩限りの関係。わかったことといえば、妙に場慣れした雰囲気が似合いのこいつが、相当の場数を踏んでるんだろうってことくらいだ。
「あっ、俺そこ弱いんだ。もっと触って……?」
 自分でも知り尽くしているらしいスポットに俺の手を導く。お望みのままに触れてやると盛大によがり、その声の甲高さがさらに俺を冷めさせた。
(こんな奴抱いてもつまらん……)
 大げさすぎるほどデカい喘ぎ声。恥じらいの欠片もない、いかにもな手つきで俺の身体を弄るところなんか、はっきりいって興ざめだ。
 だが、せっかく引っかけた奴(……しかも、顔の好みにうるさい俺を納得させるだけの美形)を、手を出さずにみすみす帰すつもりなど到底なくて。──一言で言えば、俺は一刻も早く『アナルに挿れたくて』たまらなかったのだ(……我ながら獣じみた性格だと思う)。
 多少鼻につく部分はあっても我慢しようと、ホテルに入ってすぐに服を脱がせた白くて細い肉体に貪りついたのだった。

「ね、もう欲しいよ……」
 おざなりな舌技、おざなりなフェラチオ、そしておざなりなペニスへの愛撫。セックスに没頭しているときの熱心さを半分も発揮せずにいる俺に気づいているのかいないのか、そいつは早くも挿入を懇願してきた。ベッドインしてからまだ10分も経っていないというのに。
「あ……ん…………」
 俺の前に惜し気もなく(惜しまれても困るが)勃起したペニスを曝け出し、その奥に息づいているのであろう尻の穴を自らの指で探る。感じる部分に触れた瞬間ペニスが大きく横に揺れ、尖端から粘着質な液体が吐き出された。
「何が欲しいって?」
 俺の半分程度の大きさしかない手の上に掌を乗せ、人指し指と中指を穴の中に突っ込む。そいつは「あうっ」と声を洩らしたものの、嫌がる様子もなく俺の指を受け入れていた。……淫乱め。
「あ……あ、っ、ふ・んっ……っ」
 指を鈎の形に曲げたまま内部を掻き回す。柔らかい肉襞を引っ掻いてしまうかという懸念が一瞬脳裏をよぎったが、別に痛い思いをするのは自分ではないし、どうでもいいかとそんな考えはすぐに払拭した。
「やっ、あんっ、それ……い・いっ」
 そいつ自身、自分の中が傷つく可能性などまったく考えていないらしく、俺が与える刺激にただ酔っているようだった。
「もっと……もっと、あ、あっ」
 含まれた指をさらに奥まで誘い込もうとしているのか、官能的な踊りを踊るように腰を緩く振りながら身悶える。ストリッパーにでもさせればたちまち人気が出そうな色気だな。
「あぁっ、あ、あんっやっ、も……指じゃやだぁっ」
「……何が欲しいって?」
『答えなければ与えない』──そんな意を込めて同じ言葉を繰り返すと、そいつも焦れたように言葉を返してくる。
「サイトウさんの、おっきいペニス…………」
 俺の顔を見ていた潤んだ目が視線を落とし、俺の股間部を凝視して、
「これ……これが欲しいよ…………っ」
 咥えこんだ俺の指を締め上げながら、指先だけで俺のペニスに触れてくる。……甘え方を100%心得てる奴ってのは、どうして手技まで巧みなんだ。
「サイトウさん……早、ぅん……っ」
 埋め込んだ指に高い熱が絡みつき、その熱を他の部分で味わいたいという欲望が限界まで膨らんだところで俺は指を抜いた。
 指についたぬめりを怒張したペニスの先端に塗り込んでみたが、スムーズな挿入にはもう少し濡らさなければ無理そうだ。さっきこいつに根元までたっぷりしゃぶらせたんだが、やはり唾液ではすぐ乾いてしまうな。
(潤滑ゼリー持ってくればよかった……)
 こいつがそんなものを持ってるとは到底思えず、俺は仕方なく身を屈めてそいつの身体に張りついた。早いとこ挿れて全部吐き出したいってのに……!!
「どうしたの……?」
 そいつもすぐに挿入してくるものだと思っていたらしく、突然の俺の行動に驚いたように目を見開き、次いで小さく息を飲んだ。
「サイトウさん……、あっ」
 俺は自分のペニスをそいつのペニスに擦りつけて、そいつの吐き出した我慢汁をローション代わりに使うことにしたのだ。
「あっ、あっ」
 にちゃにちゃと音をさせながら擦り合わせていると、その刺激に煽られるようにそいつのペニスはさらに汁を垂れ流す。止めどなく溢れる液体はまるで小便のようだ(例えが汚すぎるか?)。
(──もういいか)
 先っぽから根元までしっかり濡れたのを確認して、待ちわびるように俺をじっと見つめていたそいつを見下ろす。
「挿れるぞ」
「……うん」
 俺の宣告にぽっと頬を染め(俺にはそう見えた)、急かすように足を広げはじめたそいつの両膝をぱっくりと割り開き、細い身体を2つ折りにするように胸へと近づけて。
「やだ、ぁ……恥ずかしいよ……っ」
 甘ったれたような声は無視して、ひくひくと収縮しているその場所が丸見えになるまで身体を折り込んだ。
「……いい眺めだな」
 使い込まれたアナルは窄まりが少し黒ずんでいて、その締まりのよさそうな色に思わず喉が鳴ってしまう。男の味を知らない奴のアナルは入り口が柔らかく綺麗だったりするが(もちろん汚い奴もいる)、俺はこれくらい卑猥なほうが好きだ。
「早く……はや、くぅ……」
 甘えた声がねだる。その声に従うのはなんとなく癪に障ったが、はちきれんばかりに膨れ上がっていた股間が『しんぼうたまらん!』と脈打つのはどうにも抑えられそうになく、そいつのアナルにペニスを当てがった。
「あ…………っ」
 窪みに触れただけで尖端部がぬるっと埋まり、ほんの少し体重をかけるとペニスの半分近くが埋まってしまう。
「あっ……あ・あ、んっ」
 見た目で受ける印象よりずっと楽に入っていく。……さてはこいつ、俺の前に他の男と寝たのか?
「はぁっ、はぁん、んんぁ……っ」
 スムーズな動きでペニスを飲み込んでいくアナルの持ち主は、妖艶な笑みを浮かべながら熱い息を吐いている。
「すご……サイトウさんの…………」
「何がだ」
「太くて、──あ、あっ! ……カ、カリが張り出てるの……はっきり、わかっちゃ……あ、あぁんっ」
 感じながらもしっかりと俺のペニスの感想を述べるあたり、こいつがかなりのタマだってことを証明しているようだ。……だが、こんな若造に負けるほど俺は落ちぶれていない(つもりだ)。
(冷静に話してられるのも今のうちだぞ)と内心囁きつつ、ゆったりとした動きから徐々に速度を上げる。
「ひっ・あっ、あん、早い、早いよっ、っ、っ!」
 小刻みな突き上げでペニスを最奥まで突き立て、そいつの中を征服し尽くすように幹を左右にも揺らす。
「だめ、だめだよ、そんなのっ……、い、いい、いいっ、いぃ!」
 ペニスを包む柔らかい肉の感触と高い熱に、一瞬脳裏が遠のきそうになる。
(これは……なかなかだな)
 使い込まれてる割に締まりがよく、吸いついてくるだけじゃなく柔らかい襞が自在に蠢いているようで──『名器』ってのはこういうやつのことをいうんだろう。初めてだな、こんなのは。
「あっ! サイトウさんっ…………んっ、んんぁん!!」
 俺の責めに必死の声音で叫びながら、いつの間にか俺の背中に回されていた両手で爪を立てる。かなり痛い……が、やめさせようという気にならないのはなぜだろう。
「あっ、俺……壊れ、そ…ぅ、んぁんっ!」
『壊れるものなら壊れてしまえ』
 そう言いたいのをぐっと我慢して、さらに激しく腰を使ってやる。みっちりと旨そうに俺をくわえこんでいるこの淫乱穴が、これだけの動きで切れたり裂けたりするわけがないのだ。
「も、やぁ……っっ、サイトウさん、サイトウさんっ・あぁ・あぁんっ!」
 正気を失ったように俺が教えた偽名を連呼するそいつに、下の名前だけでも本当のものを教えてやろうかと思い──すぐにその考えを打ち消した。どうせプレイが終われば二度と会わなくなる相手だ、必要ない。
「あっ、もっ、やっ、やぁっ!、いっく……!!」
 卑猥な音を立てるアナルに渾身の突きをかましつつ、細長いペニスの下でぷるぷる揺れている玉袋をぐっぐっと力強く揉みこむ。球状の固形物が掌の中で暴れ、その動きに合わせるかのようにそいつの身体も跳ね上がった。
「そんなのだめ! でちゃ、出ちゃうっ! 熱いの出ちゃう……っ!!」
 よく見ると、そいつのペニスの先端から流れていた透明の液体は白く濁りはじめていた。限界が近いのは本当らしい。
「イケよ。思いきり飛ばしていいぞ」
 腰の動きを止めないまま射精を促すことにした俺は、玉袋を掴んでいた手で細長い幹も一緒に掴み、両方を揉み扱きながらさらに激しく下半身を打ちつけた。こいつより先に射精しまいと心に強く誓いながら。
 そしてその祈り(?)が通じたのか、ほどなくしてそいつはフィニッシュを迎えたのだった。
「あ、だめ、も、いっくっ、あ、あっ、でるっ、ああっ、あああんんっ!」
 一際高い声が部屋中に響き渡り、同時に俺のペニスをこのまま握り潰そうとしてるんじゃないかと疑いたくなるほどの締めつけが襲ってきて。
「──く……っ!」
 しかしそれは一瞬で、腹部に熱いものを感じたときには俺のペニスは痛みから解放されていた。
「はあっ、はぁっ、はぁ……」
 くったりと力をなくした腕が汗で濡れた俺の身体からずり落ちる。抱え上げていた両足もそれまでとは比べられないほど重さを増したため、俺はさっさとそいつの足を投げ出した。
「すご……サイトウさんて、エッチ……上手だね」
「そりゃどうも」
「俺、こんなに感じちゃったの、……初めてかも」
「……………………そりゃ、どうも」
 それが例え嘘であったとしても、自分のテクを褒められれば男なら誰だって嬉しく思うものだ。
(やっぱりやらずに帰さなくて正解だったな)
 胸に込み上げてきた歓喜に似た感情を悟られまいと顔を伏せたまま、それでも口の端が上がってしまうのは止められなかった。
 ──────しかし。
 そいつのイキ顔に見とれていたせいで俺は達するタイミングを逃してしまい、ギンギンにいきり立った俺の股間だけが取り残されてしまったのだ。
(くそ……なんで一緒に出しておかなかったんだ!)
 力をなくした身体に猛ったものが埋まっている図はなんとも滑稽で、勢力を誇示したままのそれを早いとこ引き抜いて自分で扱いて射精しようとした。本当は、相手が達した瞬間の強い締め上げを感じながら中出しするのが好きなんだが……今日は仕方ないだろう。
 だがそいつは、俺がペニスを抜こうとしているのに気づくと、内壁にきゅっと力を入れて再び俺を締め上げてきた。
「ぬ、抜かないでっ」
「……なんで」
 不意打ちの強い刺激に思わず発射しそうになり、柄にもなく声が掠れてしまう。……が、そんなことには気づかなかったようで、赤くなった顔はどこか照れたように呟いたのだった。
「俺、中で出してもらうの好きなんだ。だから……このまま、俺の中でイッて?」
 予想していなかった言葉に、埋め込んだままのペニスがさらに膨張してしまう。確かこいつ、ベッドに入る前にも『ゴム使わなくていいからね』なんて危険発言をしていたな。そんなことではいつか病気を移されるぞ。
「ね、出して? サイトウさんの熱いの……俺の中に注いでよ」
 一度離れた両手が再び俺の背中に回され、半開きの唇から赤い舌がのぞき誘うように舌先が揺れる。
「…………っ!」
 その様子を見た途端、俺は自分でも信じられないほど機敏な動きでそれにむしゃぶりつき、無我夢中で腰を振っていた。
「んっ・んっ・ふ、んっ!」
 軽いピストンでペニスの包皮に刺激を送り、しばらく抽入を繰り返してから小便をするような勢いでペニスの尖端まで溜まっていた精液を放つ(……俺は別に『小便』が好きなわけじゃない)。
 全身に鳥肌が立ち、電流のような刺激が脳天まで突き抜けていく。
「あ・はぁ……んっっ!!」
『ドグッドグッ』と音が聞こえそうなほど力強く注ぎ込むと、そいつは全身が痙攣したかのように身体を波立たせてそれを味わっていた。
「あぁ……あついの……さいこぉー…………」
 蕩けるような表情で、心の底から気持ちよさそうにそんなことを言うものだから、俺の股間はインターバルなしで復活しそうになる。──もちろん理性で抑えたが(サル並みの精力を持つガキじゃあるまいし、そんなみっともない姿は見せられないだろう)。
 控えめな容量になったペニスを俺の精液で湿ったアナルから引き抜き、ベッドの空いていたスペースに横たわるとそいつに背を向けて深い呼吸を繰り返した。息が上がっているところを見られるのは好きじゃないんだ。
 快感の余韻に浸れるような短い沈黙が流れ、この後どうしようかと考えを巡らせ始めたとき。
「……ねえ」
 声と共に肩に何かが触れてきて、何かと視線を流すと──それはそいつの細い指だった。
 縋りつくような視線が俺の目を捕らえる。そのままじっと見入られて、身じろぎすらできなくなる。
「……もう、終わり?」
「……………………」
「俺、もっとサイトウさんのこと感じたいよ。……ダメ?」
「…………っ!」
(〜〜〜〜くそ! こいつ、わかっててやってんのか!?)
 俺は上目遣いに弱いのだ。女のそれは媚びを売っているようにしか見えないのに、なぜか男のそれには色気と愛らしさを感じてしまう。……つくづく俺は『可愛い』タイプの男が好きらしい。
「…………壊れても知らないぞ」
「いいよ。サイトウさんになら、俺……壊されてもいい」
 肩先に触れていた指先を胸板にまで滑らせ背後から抱きついてくる。同時に俺の左足に左足を絡ませて、お互いの密着度を上げた。
 臀部に触れたそいつのペニスは、すでに固くなり始めていて。
(こいつとは1回だけだと思ってたのに……)
「強がっていられるのも今のうちだからな」
 口の中でそんなことを毒づきながら、俺が二度三度とそいつの体内に欲求を吐き出したのは……言うまでもないだろう。


短いですけど濃かったでしょ?(殴)

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