生徒×先生 part2.5



『愛するほど 臆病になる』

 そんな使い古されたフレーズが 最近になって脳裏をかすめることが増えた
 何に臆病になるのか
 何を恐れるようになるというのか
 幼稚だった俺には 理解できない言葉だった

 だが
 あの人との関係を深めていくうちに 俺の胸に暗い感情が広がっていって……


 俺はあの人から離れた ──何かから逃れるように




 子供の頃から必死に作り上げてきた『優等生』という仮面は
 あの人にはまったく通用しなくて
 無邪気な笑顔と見返りを求めない無償の優しさに 
 それまで抑圧してきたものが瓦解していくように 自分自身を解放できた

 俺と同じ目線で物を見て まるで申し合わせたように欲しい言葉をくれた
『もしかしたら、この人は俺の運命の──?』
 そんな錯覚を幾度も感じ 一人胸を熱くした

 この世でたった一人 俺を理解しようとしてくれたあの人のすべてが欲しくなって
 ──気づけば夢中で貪っていた



 最初は あの人を抱けたことが嬉しくて
 突然の出来事に抵抗するあの人を押さえつけると ただひたすらに興奮して 

 こんな想いに身をやつすことになるなんて 考えもしなかった


『徹……と、おる…ぅ…ん…………』

 回数を重ねていくうちに 抗うことがなくなった
 俺の背に手をまわし 甘い吐息を洩らすのが早くなった
 固く閉ざされていたその場所は 俺を受け入れるのに慣れていった


『徹…………』
 俺を見上げるあの人の瞳に 「抱かれたい」という欲望を見つけてしまったのはいつのことだったか
『抱いて……ここで、して』
 俺の身体にしがみついて 性急な動きで俺のペニスを勃起させる姿に違和感を覚えたのは──
『徹……ここに、来て…………』
 俺の前にすべてをさらし 俺を咥えこんで湿った音を立てる穴を広げてみせる姿に 俺の脳は真っ白になった


【この人はいつからこんな顔をするようになった?】
【すぐに顔を赤くする 極度の羞恥心はどこにいった?】
【俺が本当に手に入れたかったのはこんなものだったのか?】



 この人はセックスに溺れるような俗物ではなかったはず
 でも 目の前で嬌声を上げているのは間違いなく  彼だ


『徹の……おいしい……』
 俺の吐き出した精液を 喉を鳴らして飲み下す
『僕のも、擦って……握って──扱い、て……』
 恥じらうように小さな声で だが俺にしてほしいことをはっきりと口にする



【何も知らなかったこの人を こんなにも淫乱にしてしまったのは誰だ?】



 ────俺、か…………?





『あ……太い、太いよ、徹…………』
 俺を根元まで咥えこみ じっくり味わうように深い息を繰り返す
『動いていいよ……?』
 シーツを握り体勢を整えると 小首を傾げて俺に催促する
『もっと、徹、もっと奥まで突いて……!!』
 俺が叩き込んだ腰の振り方を忠実に再現し 俺の上で淫らに弾む
 ──まるで下等な娼婦のように


『徹……とおる……っ!』
 俺の名を呼びながら 欲望に従って腰を振るあの人を 浅ましい奴だと思いたくなかった
『徹、イクっ、イクぅっっっ!!』
 俺の背中に爪を立て 仰け反りながら射精するあの人を 嫌悪したくなかった
『ああぁぁぁああ!!』
 悲鳴に似た声を上げ 快感の導くままに気を失うあの人を ──殴ってしまいたくなかった



 あの人にも欲望があって当然なのに
 日に日に激しく乱れていく姿を 正視するのが辛くなっていった

 穏やかな空気をまとったあの人を 『そう』変えてしまったのは自分なのだと思うたびに
 胸の中にどろどろとした感情が溜まっていって
 学校で声をかけてくれるその顔すら 俺の欲望を突き立てられて悦んでいる表情にしか見えなくなって


 自己嫌悪とも 罪の意識ともわからぬものに押し潰されてしまう前に 俺はあの人の傍から離れた








 あの人の醸し出す空気が好きだった

 あの人の優しさに救われていた

 だからなおのこと あの人を抱いてしまった自分が許せなくて
 あの人を変えてしまった自分が 憎くてたまらなくなった


 ──いや
 あの人は何も変わっていないのかもしれない
 だが今の俺にはそれを確認する手立てがない
 俺が傍に寄ればそれだけで あの人の体温は上がってしまうから
 ……そう 俺が仕込んだのだから



 あの人の俺を見る瞳が 何かを訴えかけるようなものだと気づいても
 俺にはどうすることもできない


『何も感じていなかった頃の自分には戻れない』と 警報のような声が胸の奥で叫び続けていた


 シリアスとエロをまとめるのって難しい……(疲)

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