エリートの転落



 薄暗い部屋に響くのは、パソコンのキーボードを打つ音でも、書類をめくる音でもない。
「う…あ、ぁ……っ」
「はぁっ・はぁっ・はぁっ」
 ひどく耳障りな声と息遣いが耳に届き、それが自分たちの口から洩れているものだと気づくまでに数秒を要する。
 どれくらいこうされているのか……とうに時間の感覚がなくなっていて、自分にもわからない。
 今わかっていることは、自分が部下に手酷く虐げられているということだけで……。

「もう、観念したほうがいいですよ、課長」
 私の背後で蠢いている男が、掠れた声でそんなことを言った。
「課長の中は……俺のことを受け入れて、喜んでるって……わかってますから」
「なっ……あ、あぁっ!!」
 反論しようと声を上げた瞬間、私の体内に侵入していたものがぐぐっと強度を増し──意志とは裏腹に、自分でも聞いたことがないような高い声を上げてしまった。
「もっと……いい声、上げてくださいよ」
「あ、ううぅっ…!!」
「もっと、もっとです……っ」
「ああ、あ、あっ・あぁぁっっ!!」
 内襞を突き立ててくる凶器の力強い攻めに、目の前が真っ赤に染まる。不規則に揺すぶられる身体が──ひどく、熱い。
「いいです、課長……すごく、気持ちいいですよ……!」
「ひっ…ぃ・あ……!」
 捻りを加えながらの動きが私の中枢を適格に差し貫き、敗北感に似た感情が私をさらに窮地へと追い込んでいく。
 なんだというのだ、これは。なぜ男の私が、同じ男で──しかも年下の輩にこんな侮辱を受けなければならないんだ……!?
「あぁ……あったかいです、課長の中……!」
 まるで風呂に入った瞬間のようなことをほざき、言葉の呑気さとは裏腹に動きを早めていく。
 粘着質な音をさせて出入りしているそれが、肉襞に吸着するような錯覚を受けはじめたとき、そいつはそれまでよりもさらに力強く私にしがみついてきた。
「課長、中に……っ、出しますよっ、受け止めてくださいねっ!」
「えっ…………!?」
 突然の信じられない言葉に、全身に一気に鳥肌が立つ。何を、中に、出すって……!?
「やっ、いやだっ、やめろぉおおっっ!!」
 力の抜けた身体を必死に動かし、そいつのもくろみを阻止しようとする。──が、今の私には、そいつを止めるだけの力など残っていなくて。
「────っ!」
「や……ぁっ!!」
 足が浮かび上がるほど深くまで穿たれて、次の瞬間、私の中に侵入していた物体の尖端から熱いものが勢いよく噴き出した。──私の、内に。
「ああ、あっ、あぁぁ……っ!」
 衝撃に合わせ、開いたままの口が音を発する。そしてその熱さにつられるように、熱を持った私自身も解放を訴える。
 だが、熱く滾ったものは根元をしっかり握り込まれ、最後の瞬間を迎えることはなかった。
「まだ、ダメですよ。今のは俺の準備運動ですから……」
 再びぐっぐっと腰を揺らしながら、恐ろしい言葉を私の耳に流し込む。耳の先にねっとりと触れてきたのは、ま…さか……舌、か?
「さあ…これからですよ」
 私の中に埋め込まれたものは、たった今灼熱を吐き出したというのに容積を縮小させる気配もない。
「やめろっ、もう……っ! っ、んっ、ひっん、んぁっっ」
 さっきまでの刺激に、今度は水分が押し込まれる動きも加わって──
「も……やめ、ろ……ぉっ!!」
「冗談でしょう? まだまだ、これからですよ」
「! っは、あ、あぁ!!」
 再び力強い突き上げが始まって、私の意識は瞬く間に激流に飲み込まれていった。

 そもそも、なぜ、こんなことになっているんだろう…………?


 秘書課に配属になってからほぼ習慣と化している残業をしていると、入社2年目の武田が私に声をかけてきた。
『すみません、課長。このデータが見つからないんですが……』
 パソコンの画面に向かっていた私の背後に立ち、大柄な身体を丸めて申し訳なさそうな顔をしていて──そのいつも通りの様子に私はなんの不信感も抱かずに、
『ああ、これだったらすぐわかる。一緒に行こう』
 などと答え、まんまと無人の資料室まで行ってしまったのだった。
 資料室とも長い付き合いとなっている私にとっては、山と積まれた資料の中から目当てのものを見つけることはそんなに難しいことではない。
『確かこっちに……』
 必要最低限の灯りで済むように(省エネは私の会社でも合言葉になっている)と、ドアのすぐ横にある電気のスイッチを1つだけつけて、薄暗い部屋の中を進み一番奥の棚を探った。
 記憶していた通りの場所に目的のファイルを見つけ、
『ほら、これだろう?』
 と、背後に立っていた武田に渡そうとしたとき。
『────課長!!』
『えっ……!?』
 突然ずっしりとした重みが背中にのしかかり、脇腹をがっちりと締め上げられて。
 衝撃で眼鏡が飛んでしまい、はっきりしない目を懸命に凝らして見ると、胴に巻きついているのは鼠色のスーツを着た太い腕だった。
『たっ、武田!?』
 狼狽した私が腕を引き離そうとすると、小判ザメのようにぴったりと私の身体に張りついた武田は、
『俺、俺ずっと課長のことが好きでした……!!』
 肩口にぐりぐりと額を擦りつけながら、そんな血迷った言葉を口走った。
『好きです! 好きです、課長!』
『じょ、冗談はよせ、武田!!』
 抱きつかれたまま、近くにあったデスクに手をつくかたちで押しつけられ、咄嗟にどうすればいいのかわからなくなった。往年の運動不足も手伝って、私の息はすぐに上がりはじめてしまって。
『課長……!』
 熱っぽい声が私を呼び、次いで臀部にぐりっと固いものが押し当てられる。
『なっ……!?』
 肉の柔らかい部分に当たる棒状のそれは、すぐにはなんだかわからなかった。
 だが、擦りつけられるたびに棒の一部が張り出ているように私の肉に引っかかり……頭の中でその棒の形状を思い浮かべたとき、ある物体の形にそっくりだと気づいた。
 そう、それは────武田の、興奮時の男根だったのだ!!
『夢みたいです。課長が……俺の腕の中にいるなんて』
(押さえつけておいて何を言ってるんだ!?)
 がっしりした身体は私の身体をデスクに押しつけたまま捕らえて離さず、私は抗うことすらできずされるがまま状態となっていた。
『やめろ……やめろぉ……』
 うわ言のように呻く私を尻目に、武田は次なる行動へと移る。
 ぴったりと身体をつけたまま、私の身体の前に回していた両手をもそもそと動かしてスラックスのベルトに手をかけてきて。
『なっ、なにしてるんだ……!? やめ、やめろっっ』
 信じられない行動を制止しようとした声を、チリリ……という小さな金属音が引き裂き、
『なっっっ!!』
 と声を洩らしている間に、下半身が一気に外気に晒されていた。下着ごとスラックスが下げられたのだと気づいたのは、武田の暖かい手が私の男根を握ってきたときで!!
『あは、足もここもあんまり毛深くないんですね、課長。色も白いし』
 寿司飯を握るように私の男根をやわやわと握り、屈辱的な言葉を叩きつけてくる。
(こいつは、誰だ!? 目上の者を立て、常に冷静で頼れる部下はどこにいったんだ!?)
 どうすることもできず固まっていた私に、再び身体を摺り寄せてくる武田。臀部に直に触れてきた武田の固い男根は、擦りつけられた途端に私の肌をじっとりと濡らした。な、なぜ、何によって湿ったんだ!?
『やっぱり俺好みです、課長は……性格も、身体も……ね』
 顎をとられ、顔を武田の方へと向けられる。正面から視線を合わせてきたその瞳が、一瞬ギラッと光ったように見えたのは……本当に私の気のせいだったんだろうか────?


「あっ、はあっ、っ・く、んっ、ああっ!」
 デスクに乗っていた資料は無惨に床に散らばり、こうしている今も踏みつけてしまっているものがある。
 脳の一部は冷静さを失ってはおらず、その様子を目の端に捕らえ、資料が汚れたらどうするべきかとぼんやり考えている自分がいた。
 だが決して余裕があるわけではなく……切羽詰まった状態は以前として続いていた。
「あ…ああ、あっ、あ、くっ……っ」
 武田の動きに合わせ、力の抜けた体が上下左右に揺れる。
 思いのままに陵辱されて、私のプライドはもはや無に等しくなっていた。
 溶かされる……どろどろに、身体の芯まで熱く侵蝕されていく。
 私の内側を力強く穿つものは、勢いを衰えさせることなく出入りし続ける。
 達したばかりだというのに、どうして武田の男根は、こんなに大きいままなんだ……?
「もう……やめてくれ……ぇっ!」
 全身を這い回る掌の熱さに表面からも溶かされていくような気がして、最後の抵抗とばかりに細く声を上げた。
 だが返ってきたのは小さく笑う音と、私の自尊心をさらに痛めつける言葉で。
「卑猥な格好ですね。いい、眺めです…………課長」
 熱のこもった声とともに太腿を指先だけで撫で上げられ、剥き出しとなっていた下半身が震えた。
「や・はっ……っ」
「靴下だけ着用しているところが……なんだか可愛らしいですよ、課長」
「ふっ…ざ、ける、な……!!」
 威厳を発揮して言ったつもりが、まるきり力の入らない声はただの負け犬の遠吠えにしかならなかった。
 身体を支えるために踏ん張っている足は、ふくらはぎの筋肉がくっきりと浮かび上がっている。その様子を楽しげに見つめた武田は、大きく腰を振って下から突き上げるように私の最奥を強く突いた。
「ああうぅっっ!!」
 いつもは一方的に排出するだけの気管に、いつものものとは比べ物にならないほど太く固いものが出入りしている現実は、恐怖心と……言い知れない感情を私にもたらし始めていた。
「あぁ……あ、あう、んぁ……っ」
 洩れる吐息が熱くなる。机にしがみつく腕にも力が入る。
 普段はスラックスにきっちり収まっているシャツの裾が、武田の動きに合わせて小刻みに揺れて私の昇ぶったものに触れる。そのわずかな振動すら、過敏になった身体には堪え難いほどの刺激となって私の理性を狂わせていく。
「あう、ん…ぁあ、はあぁ・ん……っあ、ああっ」
(こんな……こんなことがあっていいのか…………っっ!?)
 男に犯され、あまつさえ気持ちいいなどと感じはじめてしまうなんて──私の経歴に傷がつくことは必至だというのに!!(などといっている場合ではないのかもしれないが!!)
「ほら……やっぱりいいんでしょ、課長」
 武田の声がびりびりと身体に響く。怖気だけではない感覚は、瞬く間に全身を飲みこんだ。
「あっ! ああっあ、っんんぁああっ!」
「さあ、もっと感じてください……!」
 張り切ったように(何に張り切ったのかは知らないが)最後の追い込みと云わんばかりの攻めを繰り出してくる。
「あくっ、ぅっ!」
 結合した部分はみっちり塞がれているために、中に注ぎ込まれた液体が逆流して外に流れ出るということはない。つまりそれは、出口をなくしたそれらが腸の中へと押し戻されていくということで……。
「だ、だめだっ、もう……!!」
 握り込まれたままのそこと、内臓が破けてしまいそうな感覚に、だんだん全身が麻痺してきたような気がして、私は頭を激しく振って行為を終わらせるように懇願した。
 ……だが、武田の動きは止まらない。
「まだ、まだイケますよ、課長!」
「ぐぁっ…あ、ああっっ!!」
「もっと、もっと気持ちよくしてあげますから!」
 聞くに堪えないと思っていた音が大きくなる。断続的に響いてくるこの音は、耳の奥に残ってきっと一生忘れることができないだろう。
「く、くるし……ぃ、っつ、あっ、あぅううううっ!!」
 腸の中を武田の吐精したものが激しく行き来し、腹が張っていくような感じがする。……実際に、そうなのかもしれないが。
「っく、あ! あ、あぁ、あぅっっぐ!!」
 吐き気に似た感覚が喉元までせりあがってきて、これ以上はもう我慢できないと思った瞬間。
「もう、イッてもいいですよ! …………くっ!」
 詰まったような響きの声が言い、なんの前触れもなく先ほどとなんら変わりない強さで大量の熱が体内に注ぎ込まれた。そしてそれと同時に、せき止められていた枷が外されて──
「ああ、あああっっっ!!」
 私の内側で昇まっていた熱も、一気に暴発してしまった。
「あ、ああ・んぅっっ」
 脳の中で細かい星がスパークし、それまでひたすら我慢を強いられてきた場所からどぷどぷっと粘性の強い液体が噴出した。それまでの苦しさが嘘だったのではないかと思うほど清々しい、開放感…………。
「ああ、あぁぁ……」
 細い気管から断続的に放出される熱は、デスクの足にねっとりと絡みついて蝋燭の蝋のように垂れていく。
 快感と、何かが終わってしまったような到達感に全身から力が抜け、弛緩した肛門は武田の男根をあっさりと手放して。
 武田が身体を離したせいで私の身体はずるずると崩れ落ち、フローリングの冷たい床に尻をついてしまった。
 極限まで広げられた肛門は感覚をなくしていたが、ひくひくと小刻みに痙攣し、暖かい液体を垂れ流しはじめたのはしっかりと感じられた。体内からとろとろと流れ出したそれは、汗で湿っていた肉丘をさらに濡らしていく。
「綺麗ですよ……課長」
 声に促されるように顔を上げると、ぼんやりとしか映らない視界にブラブラと揺れる土気色の棒が写った。
 それから目が離せないまま、半開きの口の端からは何かを欲するように唾液が零れた。



救われねぇなぁ……課長(合掌)
キリ番ゲッター・つばきさんのリクエストでした。


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