Oasis City・本文紹介




「き…来てしまった……」
 なんの変哲もない街の一角。金曜日ということもあってかわりと人通りはあるものの、それらしき人はいない(ように見える)普通の通りに、俺は立ちつくしていた。
 普通の街並み。だけど、ここが一部でウワサの『ゲイストリート』だと俺は知っている。──なぜなら、実際ここに来ている人物から詳しく場所を教えてもらってきたし、なにより俺の横を通り過ぎていく男たちの視線が、まるでこっちを「値踏み」するかのように熱く感じられるから。
(あの視線のイミがわかっちまうってことは…やっぱ俺もそうだってことなのか?)
 それを確認するためにもここに来たんだけど……ま、まさかあいつらの目には、俺はすでに仲間として映ってるのか!?
 自分自身の考えに大きな衝撃を受けていると、
「──君、一人?」
 突然後ろから声をかけられて、ぎょっと振り返ると、そこには俺より15センチは背が低い(俺の身長は180)頭の禿げ上がったおやじが立っていて。
「よかったら、僕と飲まないか?」
 肩になれなれしく触れてきた手と、セクハラ上司(実物は見たことないが)のようないやらしい笑みに、俺の顔は思いきりひきつった。
「いや、あのっ……けっこうです!!」
 あまりの動揺で、そいつの手を必要以上に力強く振り払うと、俺は全速力で逃げ出した。
「こえ〜、こえ〜よ〜〜」
(ぼーっとしてないで、教えてもらった店に直行すりゃよかったっ)
「その店の中なら安全」って言われたわけじゃないけど……もしかしたら店の中のほうがヤバイことになってるかもしれないけど、それでもまるきり知らないおやじにベタベタされるよりはマシだ!!
 大通り(といってもそんなに広いわけじゃないが)から少し入った細い道を覗きながら走っていたら、何本目かの路地に探していた看板を発見した。
「青い看板、白い文字……あった!!」
 話ではショットバーだと聞いている。そんなに大きな店じゃないらしく、中から大騒ぎしている音は漏れてこない。心配していたような危険なことはなさそうだ、と一安心。
「店名は『Oasis city』。…おし、合ってるな」
 俺にこの街を教えてくれた人物が、この街で一番最初に入るのに最適だと言っていた店。
『もしかしたら、君の相談に乗ってくれる人がいるかもしれないよ?』
 たとえばオレとかね、と付け加えた、ここに来ることを勧めてくれた彼がいますようにと願いながら、俺は古びた木製のドアを開けた。

                             

本文P6〜P7「テツの苦悩」から


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