幸せの温もり・本文紹介 ![]()
| 真面目に答えようとしてくれない大輔さんに、僕は頭に血が上るのを感じた。 「どうして話してくれないんですか? 僕には話せないことなんですか?」 「別にそうじゃないけどなぁ」 「じゃあなんで? 僕には関係ないことだから? 大輔さんがどこかに行こうと、僕には関係ないからですか?」 「……なんだそりゃ?」 「大輔さんがいなくなっても僕が悲しまないと思ってるから──だから何も話してくれないんですかっ?」 息が上がり、鼻の奥がつんとする。手を伸ばすと、いつのまにか僕の頬には熱いものが流れていた。 (どうして涙が流れるんだろう? なんでこんなに苦しいんだ? 大輔さんが自分のことを考えてここから去るのも仕方のないことなのに) 彼は僕の身内でもなんでもない。ただ親切な幼なじみのお兄さん、それだけなのに……。 「僕が一人になっても……っ」 「落ち着けよ雅実、いったいなんの話だよ」 洗い物を途中で止めてリビングに戻ってきた大輔さんは、僕のとなりに腰を下ろすと優しく肩を抱いてきた。大輔さんの温もりは僕をさらに高ぶらせ、僕は彼の胸に顔を埋めて泣きじゃくってしまった。 「大輔さんがっ、ここからいなくなったら…、僕はひとりっに、なってしまう……っ」 「俺がここからどこへ行くって?」 ん? と聞かれ、僕はためらったけれど──東京行きのことは僕の口からではなく、おじさんたちが直接大輔さんに話すべきことだろうから──それでも言わずにはいられなかった。 大輔さんがそれを知ったら、なんて言うか聞きたかったから。これからどうするのかも、もしかしたら合わせて話してくれるかもしれないと思ったから。 伏せていた顔を上げて大輔さんの顔を見上げ、口の中に溜まっていた唾液を飲んでから口を開いた。 「おじさんとおばさん、来年東京へ戻るそうです。大輔さんが高校を卒業したら……」 「────え?」 僕の背中を撫でていた手が、止まる。 「大輔さんにも話さなかったのは、大輔さんが高校を卒業してからどうしたいのか、二人も知らなかったからだって言ってました。……家を出るとも言っていたからだって」 「……」 「本当に家を出るつもりだったんですか? 家を出てどこへ……ここから遠く離れたところへ行く気だったんですか? ──僕にも内緒で」 「それは──」 「教えてください、大輔さん……っ」 戸惑ったような表情の大輔さんにしがみつき、本当の気持ちを聞き出そうとする。だけどそのすぐそばから両腕を掴まれ、大輔さんの身体から引き剥がされてしまった。 「すまん、ちょっと……俺も混乱しちまった」 僕と目を合わせようとしないまま立ち上がり、せわしなく視線を動かすと、 「今日は帰るわ。悪いけど、片づけの残りやっといてくれ。そのままにしておいてもいいから」 と言うと、さっさと部屋を出ていこうとした。 「大輔さんっ!! 話はまだ……っ」 「悪い雅実、またにしてくれ。今度ちゃんと話すから」 そう言い残し、大輔さんは僕のほうを一度も振り返らずに出ていってしまった。 「大輔、さん……」 一人取り残された僕は、突然押し寄せてきた孤独感をひしひしと感じ始めていた。 |
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本文P18〜P19から |
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