調慾・本文紹介




「ふぁ〜、さすがにもう飲めねぇや〜〜〜」
 家飲みを開始して約一時間、手当たり次第に買ってきた酒の半分ほどを消費した頃には俺は完全にへべれけになっていた。居酒屋を出たときの比じゃない、ちょっとしたことで意味もなく爆笑してしまう程度には世界が面白くてたまらない。こんなふうに酔ったのは、酒を覚えた若い頃以来かもしれない。
「俺も、です〜〜〜」
 俺と同じように床に座っていた久保井君は、ソファを壁代わりにぐったりと両腕を広げている。でもその顔は幸せそうに緩んでいて、きっと彼も俺と同じようにこの酒宴を楽しんでくれたんだろうなと満足感に浸る。
「久保井君、もう遅いから泊まっていきなよ。すげー飲ませちゃったから歩いて帰るの危ないし」
「ええっ、いいんですかぁ?」
「もちろんだよー。人が泊まってくのって久しぶりだから、俺も嬉しいし」
「え〜、須賀さんて彼女いないんですか〜?」
「いないいない。だいぶいない」
「ぷっ、なんですか〜それぇ」
 長いこと彼女がいないって言いたかったのに、酔ってるせいでうまく言葉が出てこなくて笑われてしまう。自分でも何を言ってるのかよくわからなかったせいで、彼の笑い声につられてまた笑ってしまう。
「それじゃ久保井君はいるの〜?」
「俺もいないっすけどぉ」
「ぷふっ、じゃあおあいこじゃーん」
「そーっすね、ふふふっ」
「つっても俺、今はあんま欲しくないんだよなー彼女。一人が気楽すぎちゃってさー」
「ああー、なんかわかるっすー」
「マズいよ久保井君、わかるなんて言ってると、俺みたいなおっちゃんになっちゃうよ」
「須賀さん自分のことおっさんて言い過ぎっすよ」
 そんな会話をしてまた笑い合う。あー、男同士だと言いたい事が何でも言えて気楽でいいな。
「はーっ、俺久保井君とだったら付き合いたいかもなぁ」
「ええっ、俺っすかぁ?」
「だって久保井君すっげー性格いいし。礼儀もしっかりしてるし、女の子だったら即付き合っちゃうよ俺」
「あはははっ、そう言ってもらえるなんて、光栄っす」
「あー、でも女の子にはその胸板ないんだっけ……」
 そう言いながら俺はテーブルに寄りかからせていた上半身を起こし、ずりずりと身体を移動させて久保井君の横に座る。
「? 須賀さん?」
「ねぇ、ちょっとだけ顔乗っけていい?」
 どこに、とは言わず、さらに彼からの返事も待たず、俺は自分のしたいように行動した。すなわち両腕をソファに預けて寛いでいた彼の胸板にぺっとりと顔を乗せてみた。
「うっわー……なにこれマジやべぇ〜」
 程好い弾力が頬を押し返す。かと思えばぐりぐりと頭を押しつけてもフニャフニャしない。女の胸とは大違いだ(あれはあれでいいんだけど)。
「気持ちいいっすか?」
「うん。すっげー気持ちいぃ……」
 酔っているせいか久保井君は困った様子も見せず俺の好きなようにさせてくれる。俺はそれに甘えてさらに顔を押しつける。なんて最高な胸枕……一家に一個必要だろこれ。
「いいな〜この胸板マジでいいな〜」
 夢心地でうっとりしてきた俺は、欲求のままに動いた左手で彼の右胸を触る。ちなみに頭を乗せているのは左胸。彼の心音が心地いい。
「ふはっ、また触るんですか?」
「うん触る。触っちゃうよ〜気持ちいいんだもん」
 まるで子供のような口振りだなと自分でも思いつつ、久保井君に非難されないのをいいことに厚い胸に縋りつく。形がはっきりわかるほど盛り上がった胸を掌全体で揉んだり、硬さを確かめるように指先で突いてみたり。ときどき頭を揺らして頬に当たる弾力を楽しむのも忘れない。
 そうこうしているうちに小高い丘のある一点が突出してきて、俺は目の前のそれを凝視した。


成人向けにつき短めですいません


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