続・触慾・本文紹介




 話しながらロビーに移動すると、次の時間の予約客二人が椅子に座って待っているのが見えた。向こうもこちらの声が聞こえたらしく顔を上げていて、そのうちの一人は驚いたように目を瞠っていた。
「あ、二ノ宮さん」
「お疲れ様ですー。二ノ宮さんも今日予約されてたんですね」
「あ、あれ? 君たちどうして……」
「川西さんから聞いて、気になって来ちゃいました。マッサージすごく気持ちよかったです!」
「私もここの常連になりそうですよー」
「はは……そう、それはよかった……」
 よかったと言いつつ口元は引きつっていて、この状況に誰より驚いているのが彼だというのがよくわかる。なんというか……こういうところも可愛いとか思ったら、それはもう末期なんだろうか。
「こんばんは、二ノ宮さん」
「沢井先生……こんばんは」
「今、姿勢気にしてませんでしたね?」
「あっ、その──すみません……っ」
 座っているときに背を丸めていたことを指摘すると、ぽっと頬を染めて恐縮したように頭を下げる。その姿に女子二人が「カワイ〜」と言っているのが聞こえ自分の失言に気づいた。くそ、他の奴らにまで見せることなかったのに……。
 ベッドの準備を整えるまで少し待つように言い、自分たちも休憩するため奥に引っ込む。
「このところ新規のお客さんが多かったのは、二ノ宮さんのおかげだったんですねぇ」
「そうみたいだな」
「こんなこと言ったら失礼ですけど、二ノ宮さんって会社で他の方とコミュニケーションとれてるんですね。ちょっとビックリしました」
「……お前、本当に失礼なヤツだな」
「あ、二ノ宮さんには内緒ですよ?」
 専門学校時代の後輩で、俺がここの院長として働き始めた当初から一緒に働いてくれている土田は言いたいことをはっきり言う。施術師としての腕以外にそういう面も気に入っているんだが、客に対して辛らつなことを言わないかとたまにヒヤヒヤするんだよな。とりあえずトラブルを起こしたことはないが。
「で、僕は坂上さんを担当すればいいんですよね?」
「ああ、頼む」
 マッサージ客に関しては特に担当を決めていない。が、二ノ宮さんに関しては俺が常に施術しているから土屋も心得たもので、自分の担当する客をすぐに見極めてくれた。
 こういう頭の回転が速いところもこいつを気に入ってる点の一つだ。……俺が客をつまみ食いしてることに気づいていながら目を瞑ってくれているのかもしれないところも、な。

「お待たせしました、二ノ宮さん」
「沢井先生……よろしくお願いします」
 施術着に着替えベッドに座って俺が来るのを待っていた二ノ宮さんは、俺が顔を出した瞬間パッと表情を明るくした。くそ、そんな顔されたら股間が元気になっちまうじゃねーか。
「では横に……なる前に」
「え? ちょ──っと、っ」
 不意に顔を近づけ、声ごと飲み込むように唇を重ねる。音を立てないよう注意しながら舌を忍ばせると薄い身体が大きく跳ね上がったけれど、腕の中にすっぽり包んで逃げられないようにする。
 沈黙が不自然じゃない程度の時間だけ唇を楽しみそっと身体を離すと、ふにゃふにゃの軟体生物が出来上がった。
「大丈夫ですか?」
「せ、先生…………困ります」
「これ以上はしませんよ」
 首筋まで赤く染め、潤んだ目元と唾液に濡れた唇を隠すように深く顔を伏せる。筋張った首筋すら俺の性欲を煽るんだってことをこの人はまだ理解していないようだ。
 さすがの俺も、他に人がいる状況でこれ以上のことはしないけどな。
「ではマッサージします。力を抜いていてくださいね」
 俺の胸にもたれかかっていた身体をベッドに横たえ、いつものようにマッサージを開始する。施術室は厚手のカーテンで仕切りを作りベッドを並べているだけだから、普段は潜めた声で必要最低限の会話しかしない。でも新規の客のことは土田も気にしてるだろうからと、普通の声のトーンで話しかけた。


本文途中抜粋。成人向けにつき短めですいません


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