触慾・本文紹介




「二ノ宮さん、今日はちょっと違うマッサージしますねー」
「あぁ、はい……」
 マッサージを始めて約十五分。気持ちよくて眠くなってきたのか、二ノ宮さんの声ははっきりしないものだった。よし、仕掛けるには一番いい状態だ。
 肩から腰にかけて適度に力を加えて動かしていた両手の動きを止め、一拍置いてまた動かす。ただしそれまでのようにじゃなく、指先だけで撫でるように肌を触りまくる。
 腰骨のあたりからスタートさせ、背骨に沿って指先をつーっと滑らせる。凝っていた部分は掌全体で撫でるけど、あくまでソフトタッチしかしない。
「……ん……?」
 指が首まで上がり、撫でる範囲が増えてきた頃。二ノ宮さんはやっとおかしいと思ったらしく怪訝そうな声を出した。
「あの……」
「はい、どうかしましたか?」
「い、いえ……」
 でも、おかしいと気づいてもそれを指摘できないのが気弱な人たちに共通してるウィークポイントだろう。俺みたいな人間には付け入りやすい隙でしかないけど。
「続けていいですか?」
「あっ、はいっ」
 文句を言われなかったのをいいことにさらに続けようとすると、予想通り拒絶の言葉は返ってこなかった。これだからお人よしなヤツはいいんだよな。
 俺のしていることがマッサージじゃなさそうだと気づかれたからには遠慮する必要はない。むしろどんどん意識させるために、手の動きを大きくしてさらに強い刺激を送る。
「っ、ぅ……っ」
 俺の指の動きがくすぐったいのか、それとも俺の期待通りもう感じてくれているのか。枕に顔を埋めている分聞き取り辛かったけど、彼は俺の手が動くたびに呻いてるようだった。……そろそろ本格的に攻めてもよさそうだな。
 ひとしきり動かしていた両手を二ノ宮さんの肩におき、体重をかけないよう気をつけながら上半身を倒して彼の頭部に顔を近づける。
 それから深く息を吸い、項に向かって「ふーっ」と細く長く吹きかけた。
「うひゃぁ……!?」
 その途端奇妙な声がして、俺の下に寝ていた身体がビクッと跳ね上がった。これは――かなり感度が高そうだ。
「あああ、あの……っ!?」
「動かないで」
 上半身を起こそうとしたところを押さえつけ、短く言ってからすぐに愛撫を再開する。上半身は十分楽しんだから今度は下半身だ。
 俺の指示に抗っちゃいけないと思ったのか、二ノ宮さんは素直に抵抗をやめて枕に頭を戻した。身体に入った力は抜けてなかったけれど、気づいてない体で構わず続ける。
「今、全身の筋肉の付き具合を確認してますからね」
「そ、そうなんですか……っ?」
「ええ。少しくすぐったいでしょうが、ちょっとだけ我慢してください」
 もっともらしく言ったがさすがに信じてないだろう。マッサージの一貫で息を吹きかけるなんて、いくらなんでも信じるわけがない。
 だけど疑念を抱いても、それを決して口に出せないのが彼らなんだ。
「わかりました……」
 本当は問いただしたいんだろうにそれをせず、強張った身体を横たえ物分かりのいい返事をする二ノ宮さん。まるで蛇に睨まれたカエルみたいだな。
 獲物が大人しくなったのを見計らい、さっきまで撫で回した上半身をもう一度簡単に触りまくる。ゲイでもこんな骨ばったような身体を好むヤツはあまりいないけど、俺はこれくらいのほうがそそられる。
 昔から女のぽちゃっとした身体や筋肉隆々のマッチョにはまるで興味が湧かないんだよな。ま、人と違った好みのおかげで狙ったヤツは簡単に手に入れられることが多いんだけど。
(さて、やっと目的地到着だな)
 いつも無防備に投げ出されていた下半身こそが俺の本当の狙いだ。今まで我慢してた分、今日はじっくり堪能してやる。


成人向けにつき短めですいません


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