Mix Juice・本文紹介




 リョウジを帰してから改めて市郎の様子を見に行くと、ベッド脇に近づいた俺の気配を感じたのか市郎が目を開けた。
「市郎?」
「あ、にき……?」
 俺の呼び掛けにもすぐに応え、しっかり焦点の定まった視線で俺を見上げてくる。それだけのことでも妙に嬉しくなり、起き上がろうとした市郎を支えてやった。
「気分はどうだ?」
「はい、もうだいぶいいです。……あの、」
「どうした?」
「すみませんでした、いろいろご迷惑をおかけして……」
 良くなったと言いつつ、どこかふらついているように見える市郎の身体。そんなに長く寝込んでいたわけではないのに肩が薄くなった気がして、本当に大丈夫なのかと医者の判断を疑ってしまう。
「腹は減ってるか? リョウジがお粥を作っていってくれたが」
「あ、いえ、今はまだ……」
「そうか。……喉は渇いてないか?」
「はい、大丈夫です」
 気を回していろいろ聞いたが、そのどれも必要ないと言う市郎。……まさかとは思うが、警戒されているのか? いやそんなはずは──三日前のあれは市郎も合意していたんだし──やはりまだ体調がすぐれないのか……。
 しかしそのとき、俺の腕の中でもぞもぞと動いていた市郎が小さな声で訴えてきた。
「あの、兄貴」
「ん?」
「俺、シャワー浴びて来ますんで……ずっとフロ入ってないから、その……」
「────」
 そこまで言われ、俺はようやく市郎がフロに入っていなかったことを気にしていることに気づいた。リョウジが身体を拭いてくれていたらしいが、汗をかき続けた身体にはそれだけでは心地悪いのだろう。
「そうか。そうだな」
 綺麗好きな市郎の最もな訴えに、俺は即座に立ち上がり風呂場へ向かうことにした。
「少し待っていろ。すぐにお湯を溜める」
「えっ? いえ、大丈夫ですっ。シャワーだけで──」
「ゆっくり湯船に浸かったほうが身体も落ち着くだろう。すぐに戻ってくる。脱げるところまで脱いでおけ」
 そう言い残し、俺は足早に寝室を出ると浴室へ向かった。
(風呂の準備をするなんて、何年振りだろうな)
 市郎がこの家に来る前は遠藤が用意してくれていたし、一人のときはシャワーを使うのみで浴槽を使ったことなどなかった。まさかこんな形で風呂の用意をすることになるとは。
 しかし足を踏み入れた浴室は隅々まで綺麗に掃除されていて、完全に水気の飛んだ浴槽は軽く洗い流すだけで使えそうだった。……市郎が常に掃除してくれていたおかげか。
 入浴に必要なものも一揃い揃えてあり、俺は自動で湯が溜まるのを待つ間に市郎を連れてこようと、手早く衣服を脱いで再び寝室へ戻った。
「待たせたな」
「あ、兄貴……っ?」
 市郎は俺が部屋を出て行ったときと同じようにベッドの中にいた。しかし俺の指示に従ったのか、その上半身には何も身につけていない。──よく見ると、布団の上に脱いだ寝巻きが置いてあった。
「兄貴、どうして──あっ、じ、自分で脱ぎますっ!」
 布団を捲ると中に残っていた下半身には寝巻きが残っており、まずはそれを脱がせようとベッドに上がったところ市郎が慌てたようにベッドの上を後退った。


兄市話、風呂場エッチ(笑)


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