続・襲慾・本文紹介




「あーあ、ホント兄貴って……」
 栄太はひとしきり笑うとようやく落ち着いたのか、持っていたバットをテーブルに置くと唐突にソファから立ち上がり、ゆっくり歩いて俺に近づいてくるとソファ越しに俺の背後に立った。
「?」
そして、何事かと俺が振り返った瞬間、腰を折って俺の顔に顔を近づけてきて──唇に軽くキスしてきたのだ。
【チュッ】
「えっ、な……なん、だっ?」
 突然のことに動揺して、俺は素早く身を引きながら顔を手で覆った。間近に迫った栄太の視線に、急激に顔が熱くなってくる。
 そんな俺の反応がおかしかったのか、栄太はまた声を上げて笑いながら身体を起こす。
 それから、
「兄貴があんまり可愛かったからさ。ついキスしたくなったんだ」
 なんて、とんでもないことを言って!
(か、か、可愛いだと!?)
 今まで誰にも言われたことのない単語を面と向かって言われ、しかもその表情が冗談を言ったのかどうか判別することが難しく、俺は全身が燃えるように熱くなるのを自覚した。
 こいつは昔から、俺など到底口にできないような恥ずかしい台詞を平然と言うところがあった。が、まさかその恥ずかしい台詞を俺も言われることになるとは……。
「────────」
 あまりの衝撃に石化したように固まった俺を栄太はしばらく面白そうに見ていたが、やがてその視線が俺の顔からソファの脇へとずれていき──何かを発見したらしくある一点で止まった。
「で──持ってきたよな?」
 それまでのどこか明るい調子を含んだ口調からほんの少しトーンを下げた声を出され、俺の心臓は軽く跳ね上がる。
「あ、ああ…………」
「見せてくれる?」
「っ!」
 拒否できないような威圧感を持った言葉に嫌とは言えず、俺は吸いかけの煙草を灰皿に押しつけゆっくりと身体を動かして自分が持ってきた紙袋に手を掛けた。



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