襲慾・本文紹介




「……兄貴」
 囁くような声で兄貴を呼び、小刻みに動いている肩甲骨に両手を乗せる。そしてそのまま勢いよく兄貴の身体を前に突き飛ばした。
「っ!?」
 直立の状態で前に倒れた兄貴は目の前にあったベッドに沈み、筋肉のついた重い身体は布団に埋もれたままなかなか起き上がらなかった。
 その間に俺もベッドに近づき、兄貴の履いていたスリッパを床に落とす。
「なにするんだ、栄太っ!?」
 身体を反転させることでようやく顔を上げた兄貴。その無防備に投げ出された身体をじっくり見たあと、俺は抑揚のない声で言った。
「早く服脱げよ。それとも脱がしてもらうのが好きなのか?」
「なっ!」
 俺の言葉に、兄貴は上半身を素早く起こし着ていたシャツの襟首を掴む。まさかそんなリアクションが見られるとは思ってなかったから思わず笑うと、男らしい顔が一気に赤くなった。……可愛い反応しやがって。
「……ってのは兄貴の口癖だったな。悪いな、一度言ってみたかったんだよ」
「──────っ」
「からかって悪かったって。けど、脱がないと何もできないぜ?」
「そ、れは…………」
「それとも俺に脱がせて欲しいのか? だったらそのままでもいいけどな」
 そう言いながら着ていたシャツを脱いでベッドに上がり、兄貴との距離を一気に詰める。
「っ!」
「どうする? 脱がせてやろうか?」
 ベルトを外しながら近づこうとすると、
「い……いい。いいから──自分で脱ぐからっ!」
 軽く後退りしながら狼狽したように叫び、ようやくシャツのボタンに手を掛けた。
 そのゆっくりした動作に焦れて文句を言いそうになったが、手が震えてうまく動かないんだろうと理由をつけて急かしたい気分を納得させる。
「────っ」
 やがて脱ぎ落とされたシャツの下からはっきりと凹凸のついた身体が現われて──俺は軽く唾を飲み込んでいた。
 今までは俺を征服しようとする強靭な身体って印象しかなかったけど……違う視点で見ると、なんか妙に色っぽく見えるな。
「……これでいいか」
 シャツを床に置き、どこかあらぬ方向に視線を逸らしながら言う。もちろんそれでいいわけがない。
「ズボンも脱げよ。パンツは穿いたままでいいから」
「えっ!?」
「ほら、早く」
「わ、わかった! わかったから引っ張るな!」
 そう言わせるために俺がわざとベルトを引っ張ったことにまるっきり気づいていない兄貴は、俺にされる前にと慌てて自分でベルトを外し出す。その勢いでジッパーも下ろしたものの、そこから先の行動は再び亀の歩みのように遅くなる。
「っ……っ、」
 俺に顔を見られたくないのか、深く俯いてもじもじする兄貴。いつもは潔く全裸になるくせに、自分がネコ役ってことになったらこんなに煮えきらない態度になるのか。
 手持ち無沙汰のまま待つのも退屈で、俺はふと目についた兄貴の頬に手を伸ばし、耳の際から顎までのラインをゆっくり撫でながら言った。



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