(わけわかんねぇオヤジ……)
『先にシャワーを使っていいよ』と言われ、汗を流す程度にシャワーを浴びて部屋に戻ると、緊張した面持ちのオヤジは『じゃあ私も……』と言ってシャワーを浴びに行ってしまった。
「俺が逃げるとか考えねぇのかよ〜」
すでに報酬はもらってるんだ。普通だったらその可能性を一番に考えるだろ? しかもあのオヤジ、財布の入った背広の上着をこの部屋に脱ぎ捨てていっちまったし……残りの金も盗もうと思えば簡単に盗める状態ってことだ。ったく、ホントにこういうことに関してドシロウトなんだな。
念入りに身体を洗ってるのか、なかなか風呂から出てこないオヤジに手持ちぶさたとなり、備えつけのテレビをつけてセットされていたエロビデオを眺める。
『あっあ・あ〜ん、あぁん』
『ふっふっふっふっ』
いつもは喘がされてる女しか見ないものの、今日は貧乳のAV女優と絡んでいる男優に目がいってしまう(なんでこの俺が男の身体を凝視してんだろ)。
「ここまで腹出てなさそうなのが救いかなー」
シャワーを浴びに行ったオヤジの、服の下の身体を想像してそんなことを呟いてみたりして。
(あー……気が重くなってきた)
今までに俺がしてきたのって、だいたいが声をかけられた近くのトイレとか茂みでペッティングとかフェラチオするっていうのが多かったから、こうやって改まって男と二人でラブホに来たことってないんだよな。
しかも今日はどこまでするのか決まってないし……ホントどうなるんだろ?
【ガチャッ】
そのとき風呂場のドアが開く音が聞こえてきて、俺はつけていたテレビを消した。とりあえずざっと自分の身体を見回して、相手を幻滅される部分はないだろうと確認してみたりして(なにやってんだ、俺……)。
ベッドに座ってオヤジが入ってくるのを待とうかとも思ったけど、そんなふうに相手を待ち構えるのもなんか違うような気がして──女と来たときと同じようにベッドに横になったままオヤジが戻ってくるのを待った。
「ま、待たせてごめん」
オヤジはどこかおどおどした様子で部屋に戻ってくると、ぼそぼそと呟くような声で俺に話しかけてきた。髪が湿ってる……ってことは、頭まで洗ってきたってことか。念入れすぎだろ。 俺はゆっくりと顔を動かして、気になっていたオヤジの身体を見た。
(……なんだ、わりと引き締まってるな)
もちろんタオルを巻いた腹は少したるんでるし、腕や足の膨らみもハリがない。けど、必要以上にぶよぶよしてる身体に比べれば何倍もマシだろう。
オヤジは俺の視線に照れたように俯いたけど、俺の身体が気になるのか俺の方へチラチラと視線を伸ばしてくる。
そしてその状態のまま数分後、ようやく覚悟を決めたように俺に話しかけながらゆっくりと近づいてきた。その途端、俺の身体も軽くこわばる。──なんか、妙に緊張するな。
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