Treacherous Blood・本文紹介




「ダリエル様……本当にいいんですか?」
 第一天では見かけることがほどんどないような、可憐な花が咲き乱れる茂みに忍び込もうとするダリエルに、トルシェリアンが咎めるように小声で問いかける。トルシェリアンは最神界に居住していた期間が短かったため、この世界の立ち入り禁止区域や禁止されている行為などを把握しきってはいなかった。
「大丈夫だろ。な、シルフィア?」
 トルシェリアンよりは長く最神界にいたシルフィアも、ダリエルの問いにははっきりと応えられず、横にいたエミリオに確認する。
「え? …え、ええ、大丈夫だと思いますけれど……。そうよね、エミリオ?」
「……え? あ、うん……」
「なんだなんだ、頼りねぇな二人して」
 呆れ顔でエミリオとシルフィアを見つめる。が、シルフィアは困ったような顔でダリエルに弁明した。
「と言われましても……最神界のことを知り尽くす天使はそうはいないんですのよ、ダリエル様。私たちは最上級神の邸宅からほとんど外出しませんから」
「へ? そうなの?」
「ええ。最神界とはいえ危険な場所は多くあるそうです。そういった場所へ不用心に私たちが近づかないよう、最上級神たちは屋敷から勝手に外出することを許さないんです」
「ほえ〜〜」
「ぼっ、僕も知らなかったです、そんなこと」
 シルフィアの言葉にエミリオは小さく頷き、ダリエルとトルシェリアンは驚くべき事実に目を丸くした。
「じゃあエミリオが第一天に来てたときも、ちゃんと最上級神に許可をもらってたってことか?」
 エミリオとミカエルが出会ったのが、第一天の南領の外れだったとラファエルに聞いたことをダリエルは思い出す。
「ええ。私は薬師をしていたので、他の者よりは外に出る機会が多かったですが……やはりシルフィアと同じで、最神界の地形には詳しくないんです。むしろ第一天の地形の方が馴染み深いようなものでしたので……」
「なーんだ、そうなのか。ま、なんにせよここは安全だろ。危険な場所にこんな綺麗な花が咲くわけないしな」
 細い茎の小さな花を潰さないように気をつけながら、ダリエルは芝生の上に寝転がった。
「柔らけぇ芝だなー。お前らも突っ立ってないで、座れよ」
「……そうですね」
 その行動を咎める者はなく、ダリエルに従うように三人も芝生に腰を下ろす。
 この四人はいつもこうして最神界探索をしている訳ではない。普段は会議室に程近い建物に用意された待合室でじっと待っているのだが、今日ここまで案内してくれた熾天使の一人が、
「今日の会議はいつもよりもお時間がかかるそうです」
 と言い残していったため、暇を持て余すのが何より苦手なダリエルが
「だったらどっか行こうぜ」
 と言い出したのである。
 最初は誰も乗り気ではなかったが、待合室でじっとしているよりはどこか外で時間を潰すほうが確かに退屈な思いをしなくて済むのではないかと思い直し、こうして全員がついてきたのだった。
「なんか、気持ちいいな」
「そうですね」
 爽やかな風が髪を揺らす。第一天とそう変わらないはずなのに、胸に吸い込む空気がおいしく感じられる。
 穏やかな時間がゆっくりと過ぎていくのをそれぞれが全身で感じていると、
「あのさぁ、俺から一個提案があるんだけど」
 首の下に腕を回し、空を見上げたままでふいにダリエルが口を開いた。

                             

本文P20〜P21から


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