─ アンティーク・終わらない饗宴 ─


これは「西洋骨董洋菓子店」とドラマ「アンティーク」の登場人物・設定を利用したパロディです。
時期的には千影がまだ橘の家に居候していた頃のこと。
そのあたりを
踏まえた上でお読み下さい。




『はぁ……はぁ……』
 眠っていた私の耳に、聞き慣れた吐息が聞こえてくる。苦しそうな……どこかセクシャルな響きを帯びた声。
 私はその音に過剰反応し、ベッドから素早く起き上がると若が寝まれている部屋へ大股で向かった。
「いや……っだ、やめ――っ」
 閉められていたドアを開けた瞬間そんな声が聞こえて、心臓が軽く跳ね上がる。
(またか……)
 夢の中でどんな目に遭っているのか。喘ぐ声がだんだん大きくなっていき、決して古くはないベッドのスプリングが軋む音も耳に届くようになる。見慣れた光景とはいえ、ただ悪夢にうなされているだけとは思えないその様子に、私はいつも胸が張り裂けんばかりの心痛を感じる。
「若……?」
 汗ばむ身体。細い肩は小刻みに震え、きつく閉じられたまなじりには涙が浮かんでいる。
「あっ……ああっ、あああっ!!」
 それまでじっと我慢していた私だが、それ以上いてもたってもいられず、若の身体を揺さぶった。
「若――若っ!?」
 布団の中で丸まっていた身体を抱き起こし、多少力を込めて左右に揺らす。しかし若は目を覚まさず、苦しげな呼吸はさらに音が大きくなった。
 私の声は若を呼び覚ます起爆剤にもならない。こういうとき、自分がいかに無力かを思い知らされるようだ。
「若、若!」
 それまでよりもさらに大きな声で、細い身体を乱暴なくらい強く揺する。
「ぁ……っ!」
 するとようやく夢に侵入することができたのか、若が小さく身動ぎした。
「気づかれましたか? 若?」
「ぁ……ぅ……」
 私の呼びかけに気づいたわけではないらしいが、それでも深い眠りからは脱出したようだ。その様子を見て取って、私は若の身体から離れるとベッド脇に置かれているサイドボードの引き出しを開け、錠剤の入った小瓶を取り出した。
 素早く蓋を開け、薄ピンク色の粒を3粒手に取ると、それを若の口元に持っていく。
「若、これを飲んでください」
 苦しげに歪められた口を開けるよう要求したが若に私の声は届いていないようで、汗ばんだ頬を軽く叩いてみた。
「……う、」
「飲んでください」
 顎を掴み、ほんの少しだけ開いていた唇をさらに割らせ、半ば強引に口に含ませる。
「ぁ、ぐ……っ」
 口の中で瞬間的に溶け始めたのだろうそれに違和感を感じたらしく、若が軽く呻き声を上げる。その声を聞かぬフリで聞き流し、若の耳元に短い言葉を吹き込んだ。
「飲みなさい」
 普段若に対して決して使うことのない命令形の口調。だが、この寝室で……この状態の若にだけは使えるもの。
 そして、誰が発した言葉か理解していない若は、疑うことを知らない子供のように私の言葉に従った。
「ん……っ」
『ごくりっ』
 唾液を誘発する成分を含んでいるらしいおかげで、簡単に喉に落ちていった錠剤。
 ……そしてこの薬を飲んだ若は、何かのスイッチが入ってしまったかのような行動をとるのだった。
「気づかれましたか、若」
「…………」
 ゆっくり開いた若の目はどこか焦点が合っていない。
「はぁ……はぁ……」
 悪夢から解放されたときに落ち着いたはずの呼吸が、再び荒いものになっていく。
「若」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
 力の入りきっていない身体を起こし、掛け布団を跳ね除けながらずるずるとベッドの上を移動する。
「若」
「はっ、はっ、はっ、はっ」
 そしてベッドの縁に座っていた私の腰に手を伸ばしてきて――私の寝間着を下着ごと引きずり下ろした。
「若、」
「んっ」
『ぴちゅっ』
「ん、んぐ……」
 下着の下から出てきた私の性器を掴み、その場所に顔を近づけて躊躇いもせず口に含む。
「若……」
「んふ、ん、んくっ」
 ちゅぷちゅぷと音を立てながら、次第に大きさを変えていくそれを舐めしゃぶり続ける。もちろん私のそれは加えられる刺激に誘われるように先走りを吐き出し始め、口内に収まりきらなかった私の淫液が若の唇の端から垂れ流れ始める。
 私が若に飲ませた錠剤。それは俗に『催淫剤』と呼ばれる代物だった。とあるきっかけで手に入れることができたこれを、私はいつからか使用するようになっていた。
 若は私がこんなものを使っていることに気づいていないだろう。……気づかれたら、そのときは本当に殺されるかもしれない。
 だがこの薬のおかげで、一時だけでも若が苦痛から解放されるのだ。そう思うと、今さら薬を使わずにはいられなくなっていた。
『ゴソゴソ、スル……ッ』
 若は私の陰部から顔を上げようとせず、器用な動きで自分の衣類を脱ぎ捨てていく。汗ばんだ肌が艶かしく、私は思わずその肌に手を伸ばしていた。
『ぺたっ』
「あ……」
 体温の上がった肌に私の掌は冷たかったのか、若が小さく声を洩らす。その声を軽くいなし、さらに掌を移動させて肌をまさぐる。
 女性のそれと比べるとやはり硬さが否めない双丘を軽く鷲掴み、谷間へと指先を移動させ――さらに高い体温を発しているその場所に軽く侵入した。
『くちゅっ』
「あっ……!」
『くちゅっ・くちゅっ』
「ん……ん……」
 慣らしたわけでもないのに私の指をすんなりと飲み込んでいく若のアナル。まるでそうされることがごく普通のように受け入れ、柔らかな襞が吸いついてくる。
『ぷちゅっ・くちゅっ・くちゅっ』
「んあっ、あっ、あぁ……っ」
 指先を軽く曲げ伸ばししながら抜き差ししてやると、若は可愛らしい声を上げながら足を踏ん張る。
 しかしすぐにそれだけの刺激では物足りなくなってしまったのか、欲望を直接言葉にして私に伝えてきて――昂ぶっていた私もすぐに同意したのだった。
「い……挿れ、て……」
「……ええ」
 若の言葉に導かれるように、私は若の身体をベッドに押し倒し、自分もベッドに登ると若が元気にしてくれた分身に手を添えた。
 そして、
「いきますよ……」
 若には聞こえていないだろう小声で呟いてぐっと腰を突き出す。痛いくらいの締めつけに息が詰まるが、それも一瞬のことだった。
『ぬちゅぶ……っ』
「はあう……ぅっっ」
『ぬちゅっ・ぬちゅっ』
「あ……あ……」
 若のアナルは私の大きさを受け入れ、次第に弛緩していく。そしてさらに奥まで飲み込もうとするように、ひくひくと動いて吸いついてくる。
『くちゅ――ちゅっぷ、ちゅぷ』
「ぁ……ぃぃ……っ、い、い……っ」
「若っ……」
 若の暗く閉ざされた過去に、私がしているこういった行為が実際にあったかどうかはわからない。
 わからないが……だが、悪夢から目覚めたばかりの身体にあの薬が瞬発的に効くのは、その記憶のせいなのだろうと思わずにはいられないでいる。
 それに若が私の肉体を――というより、男の象徴を――求めているのは紛れもない事実なのだ。
「ああっ、もっ……と、もっと……!」
 若の足を担ぎ上げていた私の両腕にしがみつき、自ら下腹部を揺らし刺激を求める。
『ぐじょっ・ぐじょっ』
「もっと強く――もっと、擦って、ぇ」
「もっと? こう……?」
「ひ・ゃああっ!」
 若が求めるまま、埋め込んだペニスの張り出したカリで敏感な内壁を何度となく擦ってやる。すると若の口からは甲高い喘ぎ声が洩れ始め――その声に誘発された私の動きはさらに早く激しくなってしまう。
『ぐぢゅぐちゅぐちゅっぐちゅっ』
「あぁ! ああっ、ああん、あん、んぁん……!」
「いいですか……いいんですか、若っ」
「いい、いいっ! もっと、もっと……もっと!!」
「いやらしい人だ……こんなに腰を振るなんて。ペニスがぶるぶる揺れてますよ?」
『ぎちゅっぎちゅっぎちゅっ』
「あぁん! はん……!」
「ほら、あなたの身体がいやらしい液でどんどん汚れていきますよ? ……ああ、糸まで引いている。本当にはしたない人だ」
『ぎゅうっ!』
「あうぅっ!」
「安心してください、勝手に射精してしまわないように握っていてさしあげますね」
「やだ、やだぁ……っ!」
 私の言動に恥じ入ったように頬を染め、顔を緩く振って抵抗する。だが、さらに熱く脈打つペニスの様子を見れば、若が本心では嫌がっていないことなど一目瞭然だ。
「ああ、千影、千影――っ!」
「……なんですか?」
「それ……もっと・あっ・もっと、ぉ!」
「これですか?もっと?」
『ぷぐちゅっ・ぶじゅ・ぶじょっ』
「あぁん……! い、い――っ!」
「本当に好きですね、若は……」
「あああ!!」
 激しい抽入と若の吐き出し続ける体液によって室内には独特な匂いが充満し、その芳しい匂いが私の興奮もさらに煽る。
「若、身体を起こしてください」
「え……っ」
「犬のように這ってごらんなさい。後ろから犯してさしあげますから」
「あ……」
 ペニスを抜きながら指示すると、若は一瞬ためらったもののもぞもぞと身体を動かし始め、私の言った通り身体を反転させた。
 そして私に向かって尻を突き出し、滑った液体で濡れそぼった蕾を開いて私を誘った。
 潤んだ瞳。舌先を覗かせた可愛らしい唇。上気した頬は、男を誘う男の顔とはとても思えない。
「あなたという人は……そんな格好で男を誘って、犯り殺されたいんですか?」
『くぷっ』
「あん…………」
「そんなに簡単に腰を振って……どこでこんなふうに仕込まれてきたんですか……っ」
「あひっ・ひっ・くっん、んっ、ん……っ!!」
 私の声など聞こえていないのだろう。若は私が突き刺すペニスの動きに意識を支配され、その動きと感触、刺激と快感に我を忘れて喘ぎ続けた。
「もっと、もっと深く――深く突いて、突いて、突いてぇ!」
「……っ」
「いいっ、はやっ、早く、もっと早く、奥に――――っ!!!!」
 ベッドに強くしがみつき、身体を揺らしながら極限に向かって突き進む若。私の身体も若につられるように、急速に射精感を高めていく。
「若、イキますよ……!」
「ん……っ、ん、うん……きてぇっっっ!」
 私の宣言にガクガクと首を振る若はどこか無邪気な子供のようだ(……子供の求める行為ではないが)。
 ――だが、そうだ。私はいつもこの瞬間に思うのだ。
 私より先に、若の中に何者かが精液を注ぎ込んだことがあるのだろうと。
 そしてそれはきっと――――若を誘拐した犯人なのだろうと。
「……っ」
「っく、いく、イク……ッ、あ、アアッ、あああっっ!!」
『ドグンッ!』
 幼い日の若を思い出し、その顔が初めて妖艶な笑みで私を見つめた日のことを思い出した瞬間私の欲望は弾け――若もその熱に限界を迎えたのか、悲鳴をあげながら射精した。
「あ…………あ………………あ、」
「若……」
 若の身体からガクリと力が抜け、手足がだらりと伸びてしまう。私はそのまま若の身体をベッドに寝かせ、その身体を上からじっくり見下ろした。
 全身いろいろな液体でドロドロになった若。情事の後の汚れた身体など決して綺麗とはいえないはずなのに(しかも男の裸体なのに)……なぜこんなにも惹かれてしまうのか。
 私は横にしてあげたばかりの若の身体をもう一度腕に抱き留め直し、そのままの態勢でしばしの間私も寝ませてもらうことにした。
 昔から、若の身体を抱き締めて眠るのが実は好きだったのだ。
「……これくらい激しくすれば、今夜は夢など見ないですよね」
 ゆっくり眠ってくださいと呟いて、そっと目を閉じる。


 今夜もなんとか乗り切ることができた。
 だが、この淫靡な饗宴に終焉の日がくるのかは……私にもわからなかった。


これって下克上……ですよね?(汗)
キリ番ゲッター月芽さんのリクエストでした。


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