グリルガードの危険性について |
『クラッシュバーを装着したオフロード車の交通弱者に対する潜在的危険性について』 "Potential Risk for Vulnerable Road Users from Crash Bar Equipped Off-Road Vehicles"という1994年の第38回 Stapp Car Crash Conferenceという会議で報告された論文にもとづいて考えてゆきましょう。
研究の背景
ドイツでは、94年時点で新規登録のオフロード車の60%が大きく頑丈な作りのグリルガードを装着しています。なにぶん新しいトレンドなので、その危険性を実際の事故データによって示すことはできません。そこで、グリルガードの交通弱者に対する潜在的有害性をよりよく理解するためにEEVC-WG 10(*1)の提案している歩行者保護に関する試験方法にそったテストをグリルガードを装着したオフロード車で実施した結果がドイツの連邦交通研究所(Federal Highway Research Institute)のZellmer,Harald さんとFriedel,Bernd さんから報告されています。
グリルガードに子供の頭が衝突したら...
まず最初に、表1に示した4種類のグリルガードについて、ヘッドフォーム(*2)(子供の頭を模擬した球)を射出衝撃試験器を用いてぶつけて、その時に発生する加速度を計測評価するテストを行っています。その結果、HIC(*3)の値は図1に示すように、(40 km/hの衝突で1000以下であることがEEVC-WG 10で規制値として提案されているにも拘わらず)、20km/hの衝突速度ですでに1000を超えてしまうことが分かりました。
これらの問題点を改善するために、グリルガードの支持部材の部分をを緩衝材で覆い、ヘッドランプをカバーする部分を変形しやすいプラスチック材で置き換えた試作品を作り、子供の頭の模型で40 km/h での射出衝撃試験を行い評価しています。その結果、図2に示すようにプラスチックに置き換えたところでは、HICの値は性能要件を十分に満たすほど改善されています。また、支持部材の部分については緩衝材を注意深く選定することでもう少し改善できると述べています。
グリルガードの有り/無しでどのくらい違うか
つぎに、グリルガードの装着/非装着のテストを、子供の頭・大人の膝・上脚部(大腿部や骨盤)を模擬した模型をぶつけるテストを行っています。試験したクルマは上記テストでのテスト車1とテスト車3で、それぞれ、ボンネットが比較的低くグリルガードのパイプ径が小さいものと、ボンネットが比較的高くグリルガードのパイプ径が大きなクルマです。子供の頭についてのテストの結果は(図3)、非装着車ですらEEVC-WG 10の提案している性能要件を満足することは出来ず、そのうえ、グリルガードを装着したものはさらにひどいものとなっています。非装着のものと比べると、テスト車3の場合では最大6倍となっています。
想像力をはたらかせれば...
グリルガードの危険性を子供の頭の損傷という観点から論文データで指摘しました。しかし、このようなことはデータでものを言うまでもなく、ちょっと想像すればわかることでしょう。そして、もし、あなたに子供さんあるいはお孫さんあるいは甥っ子や姪っ子がおられるならば、その子をグリルガード付きのRV車の前に立たせてみては如何でしょうか...? バーがちょうどその子の頭の位置に来るかも知れません。そして、きっと空恐ろしい気持ちになるでしょう。
RV車のグリルガードは大変危険です。そして、グリルガードが装着されていなくても、ボンネットの高いRV車はやはり危険なのです。だとすれば、RV車には、車体を守るためのものではなく、歩行者を守ることを目的とした緩衝性能の高いガードが装着されてしかるべきと言えましょう。
最後に、少し古いですが1992年度版交通統計より、交通事故死者数の状態別構成比を示します。このデータは歩行者保護対策の必要性を語っています。
(*1)EEVC-WG 10 ─ European Experimental Vehicles Committee
衝突時の歩行者保護に関する規制値や試験方法の案を検討した(すでにWGは解散)ワーキンググループ。
(*2)子供用ヘッドフォーム ─ 子供の頭を模擬した球で中に加速度計が埋め込まれていて、これをボンネットに射出して衝撃の強さ(あるいはどれだけ衝撃を緩和できたか)を評価する。大人を模擬したもう少し大きくて重たいものもある。また、脚部を模擬したレッグフォーム、上脚部を模擬したアッパレッグフォームもある。
(*3)HIC ─ Head Injury Criteria 頭部傷害値
衝突時に頭部に発生した加速度の時間履歴データを下に示す評価式に代入して求めた値。HICが1000を越えると通常の人間の生存確率は18%と言われている(雑誌「モーターファン」より)。ちなみに、日本での乗員保護の規制値は50 km/h でコンクリート壁に衝突させたときにベルトを着用したダミー人形で測定したHICが1000を越えないこと。米国では、ベルト無しで1000を越えないことが条件です。ただし、現在エアバグの子供や小さな女性への加害性が社会問題になっているので、この規制は見直されています。