Last UpDate (09/07/01)
「ハピリアによくぞ来た! 席はあちらの方が空いている。好きな席に座るがよい!」
と、来る客来る客をあしらってきた旋璃亜店長。
その接客の所為か、Happy Realize西小江戸店はほんの数週間前までは閑古鳥が鳴いていた。
どんなに料理の味が良くとも、従業員のサービスが悪ければ、お客は寄りつかない。
最高級の味の料理も、一口目を食べなければ人に知られることはないのだ。
しかし、他店からスカウトした鏑屋 夕美が来てから、店の雰囲気は少しずつ変わっていった。
異界から来た事を差し引いても、旋璃亜の根本は魔族の姫……人にやって貰う事が当たり前の給仕。
「食べに来て貰う」のではなく、「食べに来る」のが基本。
来たからにはねぎらいの言葉をかけ、それぞれに席の仕度をさせることは当然のことだった。
この店をまかせられた時、HappyRealizeの元締めMr.Realizeは旋璃亜に何も言わなかった。
他の従業員も、旋璃亜に意見しようとはしなかった。
旋璃亜はこういった店が本来、どういうものなのかも知らなかった。
バトルフィールドにもこういった店はあったはずだが、旋璃亜は王族故に人間のこういった店に入る機会は無かったのである。
夕美は旋璃亜の接客態度に迷うことなく意見をぶつけた。
どう対応するのか、それは何故か? 懇切丁寧……とはほど遠いが、彼女のまじめな態度と熱意は確実に旋璃亜へと伝わった。
(これまで私は、人と対等の立場に立って考えてこなかったのかも知れない。人間とと魔族の共存を望みながらも、力ある者と無き者を別に考えていた様に思える)
夕美の言葉に耳を貸したのも、彼女が力ある者だったからかも知れない。
力のない者はある者を頼るべきであり、ある者はそれに応えるべきだと考えていた。
それが彼女にとって民であり王であり、人々であり勇者だった。
力ある者も無い者も元を正せば同じ存在であり、あるかないかなど少しの差違でしかない。
それぞれがくくりに纏められる存在ではなく、それぞれに長けた事があり、劣った所がある。
(それを学ぶために、私はこの世界に来たのかもしれないな……)
夕美には感謝していた。それに気がつかせてくれたことに。
この世界に来たときは寄り道に焦りを隠せなかった。
「魔王姫」や魔王である父との戦いから突然この世界に来てしまったことに。戻れないことに。
日々この店にいることにいらだちを覚えた。平和なこの世界を観ることをできなかった。
「店長! サボっていないで下さい!」
旋璃亜と同じ、白と黄の制服を着た、腰まである黒髪少女が声を上げる。
「ああ、すまない。少々考え事をな」
言葉はきついがそれはまじめさ故だと最近気がついた。
ピン ポーン
扉と連動した呼び鈴が鳴る。お客が来た報せだ。
旋璃亜は誰よりも素早く対応に向かった。
「HappyRealizeへ良く来てくれた。で、お前達は何人だ?」
彼女の対応は以前に比べて格段にやわらかくなった。さすがに口調までは直らなかったが。
いつか自分の世界へと戻る時が来ても、きっと胸を張って帰ることが出来る。
旋璃亜は確信を持って、今日も店長としてハピリアで働くのだった。
Copyright(c)2005~2009, オリジナルイラストサイト 「勇者屋本舗」 All rights reserved.