二人のお出かけは、いつも兄の思いつきから始まる。

「あっち〜! こりゃ海が気持ちいいぜ。なぁ、オメガ?」

そんな一言で決まった日帰り旅行。
毎年、夏は犬や猫、動物たちと山や森で過ごしているオメガに水着など有るはずもなく……結果、去年の水着を着ようとしたのだが……。

(胸が……胸が大きくなってる!)

もう、かなり前から成長が止まっているオメガにとって、これは本来有り得ないこと。しかし、胸が控えめなオメガにとって、それは長いこと忘れていた成長の喜びだった。

その勢いで急いで新しい水着をオーダーメイド。その日のうちに水着をうけとる。準備も万端だ!

(明日のお兄ちゃんの驚く顔が楽しみ♪)

明日の兄の驚き喜ぶ顔を想像しながらオメガは床についた。


……

「ふぁ?」

未だ強い夏の日差しが照りつける浜辺で、ビーチパラソルの下、オメガは目を覚ました。
頬に砂を付け、眠気眼をこすりながら身を起こし、周囲を見渡す。
いくつものビーチパラソルと人々の姿、そして日差しに照らされ、輝く砂浜と青い海が広がっていた。

「……」

出来るだけ見ないように見ないようにそっと胸に手を置く。

……ない。

何度も確認するが、どうやら、やはり夢だった様だ。

「どうかしたのか? オメガ」

ため息をつきそうな所に、後ろからイプシロンの声がかかった。
振り返り兄の顔を見て、全てを思い出した。

イプシロンが思い立った日帰り海水浴。あまりに急だったが、市販の水着で何とか間に合わせ、何とか今日、ここに来ることが出来た。
しかし、あまりの人の多さに、場所取りだけでオメガは疲れてしまい、そのままここで眠ってしまったのだ。

「あぅ〜」

無くなった胸に未練を思い、ため息をつくオメガ。そんな彼女をみてイプシロンは、肩を叩き、

「そんなにがっかりするなよ、夏だからまだ日は高いし、遊ぶ時間はたくさんあるさ♪」

空を見てニッとわらった。
どうやら寝て時間を過ごしてしまったことを残念がっているとおもったらしい。

「そうだね。うん、遊ぼう♪」

的は外れていたが、こんなに嬉しそうな兄を見るのも久しぶりだ。
それを見られただけでも、たまらなく嬉しく、「ここに来て良かった」と、オメガは思うのだった。



(勇者屋キャラ辞典:「炎の」イプシロン「幻の」オメガ
文:若菜綺目羅
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