「もう一度奪って」千夜の愛を王子は貪る


ウィリディスの王女セラフィーナは、昔、ひとりの奴隷を買った。
奴隷の名は『名無し』。セラフィーナよりも、ほんの少しだけ年上の少年だ。
名無しは賢く有能だった。なおかつ、控えめで、従順。
そんな名無しを、セラフィーナは密かに自慢にさえしていた。
やがて、月日が過ぎ、ふたりが少しだけ大人になったころ。
セラフィーナは、名無しから思いを打ち明けられ、戸惑う。
誰とも打ち解けようとはせず、いつも、極端なくらい自身を律し感情を抑制している名無し。その名無しのまなざしが、自分を見る時だけ熱を帯びる。
その事実は、セラフィーナの心をひどく揺り動かした。
だが、名無しは奴隷だ。王女である自分が奴隷と『恋』なんてできるはずがない。
たとえ、名無しの情熱に流されるまま一夜を共にすることはあっても、名無しと一緒に、城を抜け出して、どこか知らない土地でふたりで暮らすなんて考えられない。
セラフィーナの思いを知った名無しは、それっきり、姿を消した。
そして、数年の後。
たまたま出かけていた修道院で、セラフィーナはウィリディスの城がアルドモアに襲撃されたと知って驚く。
アルドモアは、もうずいぶんと昔に滅ぼされ、今は地図から消えたはずの国だったが、生き延びていた末の王子が、国を再興させ、その余勢を駆りウィリディスに攻め込んできたのだ。
修道女のふりをしてなんとかアルドモア兵をやり過ごそうとしたセラフィーナは、アルドモアの司令官の顔を見て更に驚くことになる。
その司令官は、かつて、奴隷としてセラフィーナに仕えていた名無しだった。
名無しは、自分はアルドモア王エセルバートだと名乗り、セラフィーナのことを「今、この瞬間から俺の妻だ」と宣言する。
セラフィーナには、エセルバートの意図がはっきりとわかった。
昔、セラフィーナは名無しのことを奴隷として支配した。
今度は、エセルバートがセラフィーナのことを道具として政治に利用するつもりなのだ。
セラフィーナは、ウィリディスを守るために、愛のない結婚を承諾するが、すっかり変わってしまったエセルバートに、昔の名無しの面影はない。
手ひどく抱かれるたびに、心は乱れて……。


と、書くとわかりにくいですが、ぶっちゃけ、王女セラフィーナが奴隷の名無しと深い仲になるんだけど、その時はすれちがっちゃってうまくいかず、何年か経って、奴隷だった男の子が敵国の王さまになってセラフィーナを略奪しにやってくるっていう感じのお話、ですかね???
最初にお話をいただいた時に、ティアラ文庫さまといえばいろいろと濃厚なイメージだったので、一応「エッチ多めがいいですか?」とお伺いしたところ、「そんなことないですよ」とのお答え。「一回あればいいです」っておっしゃられて、むしろ、こちらがビビりました。
いいの? ほんとに!?(って、もう書いちゃったけど)
それと、タイトルは編集部さまがつけてくださいました。
おお。なんか、昼メロみたいです。ドキドキです。
なんにしても、初めてのレーベルさまは、やはり、ちょっと緊張しますね。
お話のほうは、とにかく回想シーンが多くて難しかったです(泣)。なるべくわかりやすく書いたつもりではいますが、混乱させちゃったらすみません。
姫野的には、初めての思いに戸惑う初々しいふたりの恋と、それから数年経ってちょっとだけ大人になったふたりの恋の両方を書けて、大変ではありつつも、とても楽しかったです。
あと、今回は、一番最後のところの、セラフィーナとエイムズの会話が自分では気に入っています。
イラストは……。
いや、もう、何も言うことはありませんよね。
表紙も口絵も本文イラストも、とってもステキです。
大人エセルバートと少年名無しの両方とも、すごく、カッコいい!
これぞ、一粒で二度美味しいですよ。
数年の年齢差をちゃんと描き分けてくださっていて、ほんとうに、すごいです。
姫野は、セラフィーナとエセルバートの初めてのキスのイラストが特に好き。名無しの切羽詰ってる感(笑)が伝わってきて、ほんと、ドキドキします。
それと、一番最後の本文イラスト。エセルバートは、これ以外のところは全部鎧姿なんですよね(エッチの時除く)。
でも、最後だけ鎧姿でない。
それを見ると、「ああ。平和になったんだなぁ」というのが実感できるようになってるんですよね。
もちろん、姫野がお願いして描いていただいたのではなく、椎名さまがそのように描いてくださっていました。
そこのあたりも、是非、チェックしてやっていただけるとうれしいです。
椎名さまには、きちんと物語世界を捉え創り上げてくださったことを、この場をお借りしてお礼申し上げます。ありがとうございました。