後宮庭園〜秘密の恋は皇帝陛下と〜


 幼いころに両親を亡くした李玲は、以来、叔母の元に身を寄せ、弟の李亮とふたり、身を寄せ合うようにして生きてきた。
 李玲の生きがいは、弟の李亮を立派なお役人にすること。そのため、年ごろの娘だというのに身なりにも気をつかわず、毎日身を粉にして働いている。
 その甲斐あって、十七歳になると同時に、李亮は宮中で働く下級官吏に取り立てられることになった。
 手放しで喜ぶ李玲だったが、初めて出仕する朝、李亮は突然家出をしてしまう。
 このまま、李亮が宮中に出仕しなければ、下級官吏として取り立ててもらえるよう推薦をしてくれた町の有力者に顔向けができなくなるし、李亮の出世の道も閉ざされてしまう。
 途方に暮れた李玲は、自分が李亮の身代わりとして宮中に出仕しようと思いつく。
 李玲と、その弟の李亮は、しばしば双子と間違えられるくらい、とてもよく似ていた。男のなりをすれば、きっと、見破られるようなことはないだろう。
 だが、しかし……。
 ちゃんとした教育も受けていない李玲には、秀才である弟と同じように働くことなどできるはずもなく、宮中では失敗ばかり。
 そんな姿を皇帝陛下に見咎められ、気が付けば、皇帝陛下の側近としてお仕えすることに。
 皇帝陛下といえば、残虐で女好きと噂される方。
 そんな方に、身分を偽ったまま、お仕えなどできるはずがない。
 李玲は戸惑ったけれど、知れば知るほど、皇帝陛下とは噂とは違っていて……。

 チャイナ風ファンタジーです。
   文人だった父を失いながらも、弟を一人前にすることだけを夢見てたくましく生きてきた李玲。
 生まれながらの貴公子でありながら、その過酷な運命に翻弄され、心を閉ざしてしまった皇帝陛下。
 手探りなふたりの恋をあたたかく見守る、宦官の瀟泉。
 この三人を中心とした権謀術数渦巻く宮廷でのシンデレラストーリー、でしょうか?
 ちなみに、後宮内のお話はいっさい出てきません。女同士のドロドロな愛憎劇が見たい方には物足りないかも。すみません……。
 その分、皇帝陛下と李玲はちゃんとラブラブしていると思います。えっちも前二作に比べたらたくさん書きました(姫野、がんばりました)。
 誰かを愛することをためらわない李玲と、望む愛のすべてを奪われ続けてきた皇帝陛下が、すれ違いながらも心を通わせていく……、というお話になっているといいなと思っています。
 さて、今回はチャイナ風ですが、一応、二千年ちょっと前くらいの時代を想定して書きました。
 当時の大陸、すばらしいです。
 日本には、まだ、国らしい国もなかった時代に、文字も墨も筆も文書もありました。衣装も絢爛豪華。兵馬俑などの造形もほんとうに精巧で、これが全部一つ一つ手作りされたものなのかと、驚きを禁じえません。
 この世界観を絵にするのは大変だろうなぁ、と書いている時から思っていたのですが、イラストの水綺鏡夜さまが、とってもがんばってくださって、古代チャイナの世界を具現してくださいました。
 資料探しは、ほんとうに大変だったと思います。この場をお借りしてお礼申し上げたいと思います。
 書店でお見かけになった際は、挿絵だけでも、どうぞご覧になっていってください。力作です。姫野は、最後のほうで李玲をお嫁さん抱っこしているドヤ顔の皇帝陛下が超お気に入りv
 また、チャイナということで、名前にはほんとうに悩みました。
 清代までの中国では、本名である諱(いみな)のほかに、通称名である字(あざな)をつけるのがふつうだったそうです。
 でもって、大人になって、字をつけて以降は、家族や恋人、親友以外の人が諱を呼ぶと失礼になるという……。
 特別の人にしか本名を呼ばせないってロマンティック、なんて思ったので、今回、諱と字を両方設定したのはいいけれど、なんだか、わかりにくかったかも……。
 さらに、一文字だと縁起が悪いので、苗字が一文字の時には苗字と名前を続けて呼ぶとか、面と向かって呼ぶときは字だけど、文書に書くときは諱でフルネーム表記とか、いろいろルールもあるみたいで、なるべくわかりやすく書くよう心掛けたつもりではありますが、混乱させてしまったらすみません。
 最後に、今回、一番うれしかったこと。それは……。

 この漢字を使えたこと。 → 鏖

 こういうお話でないと使えない漢字なので、入力する時、無性に楽しかったです。はい。