ためらう唇


 麻生朋之(あそう・ともゆき)はデザイン事務所に勤める25歳。憧れの建築家、倉持一史(くらもち・かずふみ)からパースを依頼され、天にも昇る気持ちで倉持のオフィスを訪ねた朋之だったが、倉持の顔を見て驚く。倉持は、以前、人違いをして朋之を呼び止めたことがある人物だったのだ。その時の倉持の瞳があまりにも印象的だったから、朋之は、今でも、はっきりと覚えている。
 しかし、倉持は、朋之のことを覚えていないのか、その態度はあまりにも冷たかった。意固地で、無愛想で、親しみの欠片も持てない倉持に落胆する朋之だったが、ある日、倉持が同僚の津田という男を長年想い続けていたことを知る。そして、その津田と自分の後ろ姿がよく似ていることも……。いつか、倉持が朋之を呼び止めたのは、津田だと人違いしたせいだったのだ。
 あくまでも意地の悪い態度を取ろうとする倉持に反発するように、朋之は「僕が代わりに慰めてさしあげます」と言ってしまう。けれども、津田の身代わりとして倉持に抱かれる日々は、朋之に新たな苦悩をもたらし……。

 こちらは、まだ記憶に新しいかも。小説ラキア、2004年夏号に掲載していただいたものを大幅加筆修正しました。
 雑誌で書いた時、雑誌サイズではちょっと足りなくて、ストーリーがどうしても走り気味になってしまい、「こりゃ、ノベルズ・サイズでもいいお話だったかも……」と、無能な自分がものすごーく悲しかった思い出があるので、今回、リトライのチャンスを与えていただいてラッキーでした。
 だが、しかし。
 最初と最後ができあがっているお話に、真ん中だけを書き足すのって、意外と難しいんですねぇ(涙)。とにかく、つじつまを合わせて、心理状態の流れが不自然にならないようにするのが難しくて……。頭から書いていくほうが楽なんだということを思い知りましたです。はい。
 そんなわけで、かなり苦労はしたのですが、最初と最後は同じだし、ストーリー自体の流れは変わっていないので、お読みになっても、「あれ? どこが変わったの?」って、お思いになる方も多いかもしれません。
 雑誌をお持ちの方は、よかったら、読み比べてみてくださいまし。
 ちなみに、できあがっちゃった恋人同士がいちゃいちゃするだけの短めの続編(なんか、もう、お約束だな……)『愛していると言ってくれ』も同時収録となっております。
 本編では、しっとりとしたアダルトなロマンス(笑)を披露してくれた朋之と倉持先生ではありますが、出来上がっちゃったら、やっぱり、バカップルだったよ(涙)。おまけに、こいつら、所かまわずだし!!よく考えたら、オフィスの机の上も、車の中も、初めて書いたかも……。ストイックな攻めと清楚な受けのはずだったのに、なんでこんなことに……(おまけに、一冊で6回もエッチのシーンがあることに、今日、初めて気がつきました。冒頭入れたら7回かよ……。嗚呼)。
 それから、ラピス版では、天禅桃子さんがイラストを描いてくださっているのですが、朋之が美人さんなんですよー♪ほんのりと赤く染まった目元が色っぽい感じの美人。倉持先生は、なんか、北欧か東欧のプリンスっちゅー感じ(笑)。非常階段の前で抱きすくめられて困っている朋之が妙に好きです。
 そういえば、これ、初文庫なんですよねー。おお!書いてる時とか校正している時は、あんまり新書と違いは感じませんでしたが、本になったら、やっぱり、小さかったです(当たり前なんだけど……)。
 あと、この本、帯がキラキラなんですけど、スキャンしたら、黒くつぶれてしまいました(涙)。せっかくのキラキラだったのに。よかったら、本物を本屋さんで見てやってください。