ATTENTION:ネタバレ内容が含まれていますので、未見の方はご注意ください。
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英雄〜HERO


原題「英雄」 2002年 中国作品
監督:チャン・イーモウ
 


定価:3,980円(税込)
時間:99分
音声:中国語/日本語
字幕:日本語/英語/中国語

 
レビュー

何かと話題であった「英雄〜HERO」ですが、ようやく拝見いたしました。
中国の監督なら一度は撮っておくべきだと言われる武侠物。
楽しみだったのですが、正直な感想を申し上げるともうちょっと何とかならなかったものかと・・・
チャン・イーモウのこれまでの作品と比べて、ストーリーの薄さにガッカリでした。
映像美というか、色彩感覚の素晴らしさは今更言うまでもなく、配色バランスがずば抜けてよろしいです。
CG多様のせいでイマイチ迫力に欠けるのですが、まあそれもよいでしょう。
結果印象として、中国映画というよりもハリウッドの作品を見ているようで・・・。

赤は無名の語る創作の世界、青は秦王の語る創作の世界、緑は実際にあった過去の世界、白は真実の現在と分けられ
それぞれの色でエピソードが語られ、最後にやっと真相が明らかになるのです。
この作り方は黒澤明監督の「羅生門」を思い出させます。
このごろアジア系の作品を多く見てきて思ったことの一つとして、
ロケーションやセット、音などに民族性が出ていて美しいものが多いということがありまして、
「HERO」もやはり砂漠や湖のシーンなどがとてもよかったです。
特に雨の中闘うシーンは音が効果的に使われていて素晴らしいと思いました。
スバ抜けた感覚美の持ち主。これは彼の監督作品どれを見ても明らか。
最もわかりやすいものとしては、本物の紫禁城を使った「トゥーランドット」でしょうか。
中国が舞台のプッチーニのオペラを北京で上演するなんていう話題の舞台でしたが、
中国人でしか表現できないだろうという圧巻の舞台でしたね。
そういう独特の優れた美的感覚というものが、この「HERO」でもここかしこに見られます。
ここまで素晴らしい感性を見せ付けられてもなお、私の中で消化し切れないものがあるのです。
俳優として高い評価を受けてきたイーモウらしい「赤いコーリャン」「初恋のきた道」など、
シンプルな人間の感情を力強く描きあげ数々の名作を世に送り出してきた監督です。
これだけの俳優陣ならばもっと掘り下げた人間を描けたのではないかと残念です。
この作品が今までのチャン・イーモウとは少し方向性が違うと感じずにはいられない理由は
やはりエンターテイメントを強く意識した創りになっているからかもしれません。
それならば思いっきりそちらに力を入れていただきたかった。
せっかくの映像のスケールの大きさに話がついていけてない。もったいないです。ホントに。


−−−

無名(リー・リンチェイ)
この方・・・中村繁之に似てるわ。(そんなことは関係ないですが)
数々のアクション映画に出演している人らしいので(スミマセン。見たことないのでわかりません)
やはりアクションシーンが一番の見せ所となるのでしょう。
が、私はこの人の一番最後のシーンが好きです。
私怨を超えて、国のため、民族の未来のため、大王に背を向けて歩き出す無名の覚悟が感じられる背中が
「男だなぁ〜」って思わせる。潔い良さってのは現代廃れつつあるので、なおさらそう思うのかも。
この人っていうのは、もう絶対に秦王を仕留められるって距離にきて迷い始めるわけですよね。
だけど心の内を顔に出してはいけないわけで、それが秦王と無名の間に置かれたたくさんのろうそくの灯で表現されてる。
それはいいんだ。いいんだけど、彼が迷い始めたきっかけというのは殘劍との出会いであって
秦王と向き合い言葉を交わし、送られた文字に託された殘劍の思いってのに触れてからなんですよ。
文字を見て、そこから何を感じたか・・・
ここがあっさりすぎるんだよなぁ。殺す気満々から迷いはじめる過程が見えないんだって。
だから最後「そのお気持ちを忘れずに・・・」とか言ってわざとはずすシーンが唐突なんですよ。
もしここが上手く描かれていたら、ラストシーンももっとジーンときたんだろうけど。イマイチ感情が乗り切れなかったです。
あぁ。もう消化不良すぎてダメだ。私の理解力では限界なのかもしれない。


殘劍(トニー・レオン)
トニーの武侠物というと「楽園の瑕(東邪西毒)」の盲目の剣士くらいなんですが
あちらはアクションシーンがイマイチはっきりしない感じだったので、初めてまともに見ました。
とは言っても、リンチェイと比べるといかにも闘ってる感じの場面はあまりなかったですけど。
彼の持ち味とも言える受け身の演技は殘劍の個性と重なり違和感はないのですが、
トニーの魅力としては今一歩足らずというという印象を受けました。
殘劍は剣の腕も確かで、思慮深く、徳もある。
個人的な感情から離れて、国を見ることができる懐の深い人物であり、
だから戦乱の世を終わらせるため、秦王が中国統一することで天下泰平の時代を願う。
大王の暗殺をすべきではないと彼の心は決まった。その人間の大きさはある意味秦王も越えるところがあるはず。
この人のセリフ自体少なくて、じゃあどこでそれを見せるかっていうと、やはりトニーの存在感なわけですよ。
ですが秦王と無名の会話でしかそのことは明らかになりません。
緑のシーンで秦王と殘劍が戦った時に彼は悟るのに、アクションに流れてしまった感が否めません。
無名に字を送ったシーンもしかり。
そのあとの如月が言った「主人の言葉をよく噛み締めて決断してほしい」みたいなセリフは本来いらんのですよ。
ただ彼が去っていく後ろ姿だけで十分見せられるはずなんです。
それよりも、最後に飛雪と対決するシーン。彼女を愛していたから剣を取り、そして捨てた。
自身の命を持って飛雪に伝えたかった思いっていう方がトニー・レオンらしさがあったと思う。
愛する人と二人で静かに暮らしたいと願っていた。死してようやくその願いが叶ったなんて哀しいけど、
こういうのが似合う人なんですよ。この人ってば本当に受け身なんだよなぁ。
・・・って、それじゃいかんやろー。この役はこの作品のテーマであるはずなんですよ。
殘劍には、秦王さえも飲みこむスケール大きさと他を圧倒し納得させる包容力がいる。
あと、ある種の毒気とその反対の優しさを持ち合わせていてほしい役柄です。
彼は確かに剣豪なのですが、あの長いアクションシーンはなくても良かったのではないかしら。
むしろ闘うシーンがないことで、他の人物と差別化できて殘劍っていう人間を描けたと思う。
もっと彼の云わんとすることを発する場面が欲しかった。
文字に込めた彼の思いってものに切り込んでほしかったですね。
その方が殘劍もトニー・レオンも魅力的になったと思う。


飛雪(マギー・チャン)
美しかぁ〜 マギー素敵よぉ。の連発。
溢れる色の洪水の中でもこの人は一際鮮やかで艶やかな存在感がダントツで圧倒されました。
特に赤のシーンは最高にキレイですね。
古装物も難なく魅せる。さすがのキャリアを感じさせます。
女優好きでよかった。ああマギー(涙)
そう。自分が女優好きだったと思い出させてくれたのはアナタです。
見始めて最初の10分くらいで「これはあまり好きじゃないかも・・」という気持ちが芽生えたのに
それを帳消しして余りあるマギーの美しさよ。
殘劍への愛情よりも秦王への恨みの方が大きかったわけじゃない。
本当の願いは殘劍と同じ。二人の静かな幸せだったんですよね。
それなのに秦王を襲撃した時から二人の見据えた未来は別々の方向になってしまった。
奇しくもそれは飛雪が強引に進めた計画の結果だったわけで、なおさら辛いわなぁ。
赤の世界で描かれる飛雪の冷たい感じがすごく好きだなぁ。「楽園の瑕」もやっぱりこんな感じだったっけ。
こういう血の通ってない女ちっくな役をやって嫌味にならないマギーが好きですねぇ。


如月(チャン・ツィイー)
気の強い、そして剣もたつ・・・こういう役多すぎませんか?
さすがのツィイーもマギーの前にはまだまだ若手感が拭えませんが、やはりスクリーンに映える女優であることは確かです。
リンチェイ相手にアクションシーンもあったりして、なかなか見せ場の多い役です。
幼い時から殘劍の元で剣などを学んできただけに、主人の心のうちを一番理解している人間でもあります。
彼を慕う気持ちは一途で短い出番ながらもしっかりと存在を残します。
ダンスの名手だということで、体の動きが流麗なんですよね。
飛雪とのアクションも、舞い上がる葉の中で赤い衣装の二人が闘う華麗なシーンだと思います。


長空(ドニー・イェン)
初っ端に登場するのみなのですが、雨の中、無名と対決するシーンは迫力があっていいです。
雨粒の落ちる音を頼りに意識の中で闘うっていうのが、アクションであっても美を重んじる中国らしさってところでしょうか。
本当はあのシーンは無名の創作なので、現実の長空はどんな人だったのか・・・っていうことはラストのテロップのみで語られます。
それによると、やはり彼も名のある刺客らしく義に厚い人だったのでしょう。
そういうものを感じさせる役者さんだと思ったので、ちょっとだけでもラストシーンに登場してほしかったかなぁ。


秦王(チェン・ダオミン)
本来は秦王ってのはもっと荒々しく非道な人だったと思うのですが、本作ではなかなかの好人物として描かれています。
頭の切れる大王って感じはしますが、中国を統一して戦乱の世を終わらせたいという意識を持っていたようには見えない。。
「最も手ごわい敵だと思っていた殘劍こそが、自分の一番の理解者だった・・・」
って言うシーンもなんかこじつけのように思えます。
この人の演技云々よりも、脚本の問題というか。秦王ってどんな人なんだってのが一環してないんですよ。
3人の刺客をたった一人で倒し自分の元に現れた時点で、本当は無名が自分を狙う刺客かもしれないと感じていて
それなのにわざと彼を近づけたはず。
まさか殺気で揺れる炎を見て気づいたなんて言わないでくださいよ。
一度剣を交えただけの殘劍の人間を見抜き、飛雪までもその大きさを感じ取っているほどの大王ですぜ。
ではその真意はいかに。
彼を近くで見て、どんな人間なのか探りたかったに違いない。
だけど志半ばにして死ぬかもしれないのにそんなことするかな。
国の行く末を思い、自ら悪の名を被っても中国統一を成そうとする秦王がですよ。納得いかないなぁ。
無名に背を向けて文字を見上げる秦王の背中には、
「こいつになら殺されても仕方あるまい」
ってな思いが感じられたのですが、一体どこでそんな思いを抱くようになったんでしょうか。
それとも「こいつが刺客だったんだ。気づかなかったゼ。くそ〜っ。俺としたことが!!」って感じなのかな。
殘劍の思いと秦王の目指すところは同じだったとは思いにくい。理解し辛い人です。


−−−

なんにしても、一度見ただけなので言い切ってしまうのはよろしくないと思います。
が、第一印象っていうのは結局一番自分の感性に素直なものなので、何度見ても私はやっぱり「う〜む・・」って思うんだろうなぁ。
 
【お気に入り場面集】
【主な人物】
(女優陣だけマウスオン・プリーズ)
無名(李連杰−リー・リンチェイ) 殘劍(梁朝偉−トニー・レオン)
10歩以内の敵は必ずしとめるという驚異の技を持つ。
秦王暗殺に綿密な計画を立てて臨むが・・・。
秦王を狙う刺客の中でも一番強い。
飛雪とは恋人同士。
剣の心を知るが故、秦王暗殺を止めようと
無名や飛雪を説得する。
飛雪(張曼玉−マギー・チャン) 如月(章子怡−チャン・ツィイー)
国を滅ぼした秦王を討つため、殘劍と協力し合う。
彼を深く愛しながら、秦王への恨みから対立も。
幼いころから殘劍に仕えている。
殘劍の心を最も理解している人物。
長空(甄子丹−ドニー・イェン) 秦王(陳道明−チェン・ダオミン)
槍の達人。秦王を狙う暗殺者の一人。 秦の始皇帝
中国統一を成し遂げ、最初の皇帝となった。