ATTENTION:ネタバレ内容が含まれていますので、未見の方はご注意ください。
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【上海グランド】


原題「新上海灘」 1996年 香港作品
監督:ブーン・マンキッ
 


時間:96分
音声:広東語、日本語
字幕:日本語、吹替用日本語

 
レビュー

70年代に香港で大ヒットした(聞くところによると視聴率60%とか?!)テレビドラマのリメイク版だそうです。
見たことないのでオリジナルと比べてどうこうと言えないのですが、よく出来た作品だと思います。
加えてアンディ・ラウとレスリー・チャンという花形スター(すみません。古臭い言い方しかできなくて・・・)を配して
どこまでもカッコいい男たちを演じているわけですよ。これがキャーキャー言わずにいられましょうか。
またねぇ、言ってくれる台詞がね。そんじょそこいらのポッと出の役者なんかが言おうものなら「ケッ」ってなるところですが、
この二人の口から出ると「くぅぅぅっ」ってなります。まるで宝石です。
さっきからこんなコトばかり言ってますが、真面目にストーリーを追って十分楽しめる作品です。
まずストーリーの軸が3人の生き様にしぼられているのでかなり感情移入して見られます。
「ディン・リク」「ファン・ティン・ティン」「ホイ・マンキョン」という3つの目線から物語が構成されていますが、
きちんとまとめられているので複雑さはなく、3本の流れが1本になり最終的に海に繋がるという感じでしょうか。
愛と友情に生きた男たちの哀しくも美しい物語です。



ディン・リクを演じたのはアンディ・ラウ
めちゃんこ美男。正統派二枚目。スターの輝き炸裂。
冒頭、肥壷を集める仕事をしているシーンから始まります。(←これが可愛いんだ)
ウィンドウに飾られた紳士の写真に憧れを抱く若き青年。
誠実で熱い情熱を持ったリクというキャラクターのイメージがそのままはまっていて魅力的です。
自分の縄張りを仕切っているボスを倒しのし上がってくのですが、この乱闘のシーンはちょっとすごいです。
こういうの見慣れていないせいもあるんですが私は直視できませんでした。(指を落とされるシーンはもう絶対ダメ)
母を火事の中から救ってくれたことで、リクはマンキョンに対して強い信頼を持ちます。
その信頼は純粋で曇りがない。ストレートでまっすぐな感情を表すリクだけに
ティン・ティンとマンキョンのことを知ったときの彼の苦悩は大きかっただろうなと思う。
彼はとても一途でティン・ティンが好き。マンキョンにも並々ならぬ友情を持っている。
だからその二つを天秤にかけたけれどどちらも選ぶことなんてできなかったんです。
マンキョンも助けたい。ティン・ティンも助けたい。その気持ちがすごく切ないです。
ドンと構えた、どちらかというと受身の芝居だと思うのですが、それによってリクの懐の深さというものも出ていたと思う。
マンキョンの過去に対して、きっと聞きたいこともあったはずなのにあえてそこには触れない。
ティン・ティンとのことも、ファンを殺した経緯についても、自分が知りたくない気持ちもあるだろうし
マンキョンにそれを言わせたくない気持ちもあるんだろう。
しっかし男気のあるヤツやなぁ。男の人はこういう男に憧れるんだろうか。。
女性の大半はたぶんマンキョンみたいな男に弱いんじゃないかな。って思うけど(笑)
とにかく、この人が出てくるだけで場が引き締まるんですよね。まさに主役以外の何ものでもない強い存在感です。
何とかして親友を助けようと努めたものの、マンキョンを殺されたと思い込んだ反日組織の男から射殺されるラストシーン。
血まみれになって雪の中に倒れるリクの姿は残酷なんですけど美しささえ感じさせるもので圧巻です。
ちょっとゾクッとしました。こういう場面、滅びの美学というのですか?香港ノアールの真骨頂といったところでしょうか。



ホイ・マンキョンを演じたのはレスリー・チャン
これがまた何なんだよ〜。反則だよ〜。カッコよすぎるって。
よく「二番手の役の方が美味しい」っていいますけど、まさしくソレ。
野性的で紳士的でアウトローな男。くそぉー。もうこんなに見せ付けられちゃったら私は白旗を揚げるしかないです。
彼はかなり色んなことを抱えている人間なので影があります。
その影の部分が深ければ深いほどリクとの対比がはっきりして浮き立つのです。
自らのすべてを台湾独立のために捧げ、その理想にのみ情熱を注ぐマンキョンですが
脱走してから上海に着くまでの間に運命的な出逢いが二度あります。
そのために彼の人生は大きく変わっていく。
同胞を無残に殺された恨みを晴らすべく、情報を日本に売った人間を探すため彼は危険を冒して上海にやってくる。
終始口数も少なく、リクを立てて彼の野望のために協力する。影の男。
こんな激動の時代でなければ出会わなかったであろう二人です。でも激動の時代だったからこそ二人の絆は強かったとも言える。
ドラマティックな人物らしく見せ場は多いです。(この人1人を追うだけでもハラハラ・ドキドキを十分に味わえます)
仕立て屋での銃撃戦は激しくていかにも香港映画って感じの派手なものなのですが、(これがまたかっこええ)
その後のティン・ティンとの場面は対照的でひたすら美しい。クラシック映画に勝るとも劣らないロマンティックさです。
(美男美女はいつ見てもいいもんだ・・・)
リクとの対決のシーンも空砲をわざとあてて、逆にリクに自分を撃たせるなんて…(なんて屈折してるんだーっっ)
アンタって・・・もうもうもうもうもうもう〜っっ。リクの気持ち考えてやってよぉ。まったく、泣けてくるわ。
役目も果たして生きて台湾に戻ることだってできたのに、わざわざ敵陣に乗り込んでくるなんて、ちょっとカッコよすぎやしないか?
でも彼なりの誠意の見せ方だったんだろうな。リクの友情に対する彼の応え方としてはこれしかなかったんだろうな。

リ 「これから得るものはすべて山分けだ」
マ 「上海に長くいるつもりはない。用が済んだら出て行くさ」

って会話が今更ながら深みを増します。
後のリクの「俺は片付け役か?残った俺たちはどうなる」っていうセリフもズサッときますね。
一人で抱え込んで一人で納得しようとするマンキョンに対して、リクの初めての本音がこれですよ。
そうだよねぇ。親友だぜ。それはないんじゃないの?マンキョン。
だけど、マンキョンの心の内は言葉に出さなくてもリクには伝わってたんだよなぁ。
だから最後の最後でこんなことが言えちゃうんだよ。でもってマンキョンもリクに対しての後ろめたさも消えたんだと思う。
本音で接してくる相手に本音で言えないこともあったマンキョンの苦しみもやっぱりあるしね。
彼との友情を深めるほどに苦しかっただろうな。
ティン・ティンとのことをリクに知られたときの表情でかなり物語っていました。
理想と友情と愛情と復讐心。マンキョンの苦悩が集中することにより物語りも一気にクライマックスを迎えます。
それにしても、こんなにもドラマティックな人生を生きるのにピッタリな役者はレスリー以外にいるだろうかと思わせる熱演振り。
瀕死の状態で車の中から見上げた埠頭・・・彼はやっと安心して眠ることができたのだ。



ティン・ティン
を演じたのは中国の女優、ニン・チン
初めて見ましたがなんとスクリーン映えのする女優でしょうか。
少しふっくらとした丸みのある顔立ちで、清純でありながらやけになまめかしさを感じさせます。
(白城あやかさん風と言えば宝塚ファンにはわかりやすいでしょうか・・・)

父の大きな支配下から逃げ出したくて仕方がないけれど、反抗するほどに自分は籠の鳥であることを思い知らされる。
夏のある日、列車に飛び込んで来た男。ホイ・マンキョンとの運命的な出逢いが後の彼女の人生を狂わせます。
リクを太陽、マンキョンを月とたとえるならば、ティン・ティンは星と言えるでしょう。
太陽が星に恋をしても昼と夜とでは結ばれることはありえない。手の届かない存在です。
そして月と星。お互い闇の世界に生きるものですが、中国では月と星は決して結ばれることがない存在であると
位置づけられているのだそうです。
どちらからも愛され、だけど決して届かない存在であることがこの役に一番必要な魅力だと思います。
その点から見て、ニン・チンという女優はかなりいい線を行っていると思います。
リクに対してはひたすら憧れの対象であり、その憧れを最も無残な形で打ち砕く残酷な顔。
マンキョンに対しては恋する気持ちに自分から飛び込んでいく情熱的な顔。
どちらも見事に表現していました。
すごく表情豊かで、見ている方はとても感情移入しやすい人物です。
この作品が男の友情を大きな軸にしているだけに、ヒロインの存在は案外難しいと思うのです。
そこのところ、出すぎず引っ込みすぎず。うまい具合に色を添えていていて、バランス感覚の良い役者さんだと思いました。


他に気になったのは、冒頭から何度か登場するファンの愛人?
なんで大蛇なんだろう・・・。そればっかり頭の中をぐるぐる巡ってしまいます(笑)
このDVDには日本版と香港版の劇場予告がついていまして、それがなかなかお国柄が出ているといいますか
音楽も構成もまったく違っていて面白いです。
また音楽もなかなか良いです。オルゴール調のもの、タンゴ調のもの。
使うシーンに合わせてこの時代の雰囲気を残しつつ、しっかりアンディの歌うテーマソングでドドーンと「香港映画!」って迫力。
日本とは違うなぁと(笑)
友情あり、復讐あり、アクションあり、ラブロマンスあり。
色んな要素がギュッと詰まった、映画ならではの醍醐味を存分に味わえる秀作だと思います。


 
【主な人物】
(マウスオンプリーズ)
ディン・リク(劉徳華−アンディ・ラウ) ホイ・マンキョン(張國榮−レスリー・チャン)
肥壷の汲取人から暗黒街の顔にまでのし上がった男。
その原点がティン・ティンへの恋心だったというのがなんとも切ない。
友情と愛情、どちらも捨てきれない、黒社会に生きるには情に熱すぎたのかもしれない。
日本の支配下にある台湾の独立という理想に燃える反日組織の一員。
国を売った仇を探すため脱走し上海に潜む。
理想に向かってすべてを捨てた男の凄まじいまでの執念と、リクとの友情、ティン・ティンとの愛などなど、見せ場が盛りだくさん。
ティン・ティン(寧静−ニン・チン) ファン(呉興國−ン・ヒンゴッ)
上海暗黒街の大ボス、ファンの娘。
父の支配から逃れたいが逃れられずにいる。
リクとマンキョンから想いを寄せられるが運命的に出逢ったマンキョンに強く惹かれているという非常に羨ましい役である。
(個人的意見丸出し)
上海マフィアの大ボスであり、ティン・ティンの父。
リクから見れば恋する人の父親で自分の後ろ盾。マンキョンから見れば国を売り、同胞を殺した仇。自分のすべてをかけてその命を狙っている。