MENUBOOK2009

■食堂かたつむり / 小川糸
始まりはよくある少女・乙女向けの小説かと思った。女子の好きなテイストが全編に登場する。
主人公を追って自分も山を歩き、豚のエルメスを飼育し、熊さんと共に店を創っていく。そうやって物語が進んでいくのだが、ある瞬間、自分の心のメーターは主人公の母ルリコへと振り切った。
田舎でスナックを経営し、地元有力者の愛人として生きてきた母を娘である主人公は軽蔑し距離を置いていた。主人公の目から見た母の姿から母の心が見えたとき、読者であるわたしは一気に小説の世界に近づいた。
この母娘の言葉を交わさないコミュニケーション。声を失った娘をふくろの時計が励ましてくれた。それは昔から今へと続いてきた母ルリコの愛情であったのだと娘が気付いたとき、溢れる思いが涙となり声なき声となり、生と死の間で和解できたのだと思う。
料理を通して人をあたたかく包む。そして自分もまた、祖母の料理、母の愛情を受けてきたのだと主人公は初めて心から自分を認められたのだと思う。

あくまで個人的な感想ですのでご参考程度にお読みいただけると幸いです。
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