『衛バースデイSS』




夏も終わって、そろそろ半袖も着なくなった十月のある日。
私こと咲耶は、衛ちゃんと、亞里亞ちゃん家のプールに泳ぎに来ていた。
たくさん泳いで汗を流したあとの、更衣室。
「今月の18日で、衛ちゃんはまた一つ、歳を取るというのに……」
私は、お着替え中の衛ちゃんの後ろに、そっと近づいて――
むにゅ。
「どーしてまだブラをしてないのよっ、もう!」
「ひぃあぁっ!?」
可愛らしく膨らんだおっぱいを、ついつい揉んでしまっていた。
――だって、衛ちゃんたら、ノーブラなんだもの。
「ちょっ、や、やめてよぉ、咲耶ちゃん〜」
「あーのーねぇ、こーんなに可愛いおっぱいを、ほったらかしにしちゃってるなんて!
 ダメのダメダメよ! ちゃんとブラしなさいっ(ふにふに)」
「ふやぁっ、やっ、んっ! ……や、やだっ、そこ……あ……っ!」
「なんでこんなに立派なおっぱいなのに、ブラしてないの?
 ちゃんと説明しないと……もっともーっとおっきくなるようにしちゃうんだから!」
「いっ、言うよぉ! ……いっ、言うから……手っ、離して……ゆ、ゆび……っ!」

衛ちゃんは、とっても恥ずかしそうにしながらも、そのわけを話してくれた。
それは、とっても可愛らしい理由だった。
ブラなんてしたら、お兄様は自分のことを女の子扱いして、
もう一緒には遊んでくれなくなるんじゃないか――だなんて。


「やだぁ、もおー、衛ちゃんってばー!」
「わ、笑わないでよっ!」
「あ――ううん、ゴメンなさい、笑ったりして。……でもね衛ちゃん、
 お兄様はそんなことで、遊んでくれなくなったりなんてしないと思うわよ?」
「それは……そうかもしれないけど」
自分で言っておいてなんだけど、きっと衛ちゃんは、そういう表面的な部分ではなく、
もっと深いところで悩んでいるんだろうな、と思う。
自分のことを、男の子みたいだ、と思っている衛ちゃん。
本当は――こんなにも可愛く「女の子」してるのに。
このおっぱいだって、その表れの一つ。
お節介かな、という気もするけれど、その悩みをなんとかしてあげたいな――と思った。
だから、もう少しだけ……お節介を。
「それにね、ブラジャーしないと、かえってお兄様は困ってしまうかも知れないわよ」
「え……どうして?」
「お兄様だって、男の子だもの。女の子の胸を見たら……エッチな気持ちになっちゃうかも」
「――!」
えっち。
衛ちゃんは、その言葉を聞いただけで、「ぴくっ!」と、体を硬直させてしまった。
「お兄様だけじゃないわ。衛ちゃん、最近クラスの男の子に、
 体をジロジロ見られたりしてない? ブラジャーしてないって、大変なのよ?
 女の子に興味の出て来た男の子ってね、そういう所をじっと見ちゃうの。
 その……すっごくエッチな目で見られちゃうことだってあるんだから」
「ま、まさかぁ……そりゃ、咲耶ちゃんくらい女の子っぽかったら
 そうかも知れないけど……ボ、ボクなんて見たって……」
――ほら。やっぱりそう来た。


「衛ちゃん。――衛ちゃんのおっぱい、見せて」
「――え……えええっ!?」
「私のおっぱいと比べてみましょ。
 比べてみて、どのくらい女の子っぽさに差があるのか、確かめるの。
 私のも、見せてあげるから……」
言うや否や、私は上着を脱ぎ捨て、そのままブラも取り外してしまった。
自分でもちょっぴり自慢の、おわん型のおっぱいが、外気と――衛ちゃんの視線に晒される。
衛ちゃんが、息を呑むのが分かった。
「衛ちゃんのも、見せてみて」
「で、でも……」
「くすっ、女の子同士なんだもの、恥ずかしがらなくっても大丈夫よ」
そんなことを言いつつも、私は衛ちゃんの視線から、自分の胸を腕で覆い隠した。
そうすることで、かえって扇情的に見えるはずだ。
――本当は、知ってるんだから。
衛ちゃんがいつも、私の胸を、ちらりちらり、と覗き見ていることくらい。
「衛ちゃんの、可愛い女の子の部分、ちゃんと見せて。……お願い」
「お、女の、子……」
でも、衛ちゃんは、衛ちゃん。
男の子顔負けに元気いっぱいなのも、自分の女の子の部分に戸惑うのも、
それは全部ひっくるめて、衛ちゃんという、とってもステキな存在なのだ。
私の急かせるような視線に追い立てられるかのように、衛ちゃんはTシャツをめくり、
そして……そのまま脱ぎ去った。
まだ成長途中の――でも、確かな膨らみが空気に触れた。


「わ、わっ、やっぱり可愛い〜。乳首も、ツン、って上向いてる〜」
「う、うわあん、そんな風に説明しないでよ〜」
ふたつの膨らみを、手のひらで必死に隠す衛ちゃん。
顔どころか、晒された上半身全体が、もう真っ赤っか。
「だいたい……やっぱ、咲耶ちゃんのほうが、ずっと……大きい……よ」
「えー、ホント? でも、証拠ある?」
「えっ? そ……そんなこと言われても……」
「それじゃあ、ホントかどうか分かんないなー。見た目だけじゃダメよ」
ハダカの衛ちゃんが困ってしまっているのがあんまりに可愛くて、つい意地悪を言ってしまう。
――でも、これからもっと、すごい意地悪をしてしまうのだ。
「じゃあ、ね……」
くすり、と妖しく笑いかける――私の、とっておきの武器だった。
「直接、触りあっこしてみるってのは……どう?」
衛ちゃんが、完全に言葉を失ってしまった。
それはもう、ヘビに睨まれた――カエルじゃあんまりか――子犬のように。
「いいよ、衛ちゃん。……私の、触ってみて」
そう言って、私はお約束程度に胸を隠していた両腕を、はらり、と解いた。
まるで、おいで、って言うみたいに。
「あ、あ……」
うわごとのような声をあげ、震える手を持て余す衛ちゃん。
私はその手を取って、目標のそこへ――導く。
「――んっ」
抑えることも出来た声は、わざと抑えなかった。


自分以外の女の子の手で、直に触られるのは、初めてのことだった。
――男の人にだって、ないけど。
「や、柔らか……い……」
衛ちゃんの手の震えが、胸にそのまま、ぷるぷる、ぷるぷるって伝わるのが分かる。
「……自分のと比べてみて……どう?」
「え、えと……よ、よく……わかんな……い……」
最近ようやく谷間が作れるようになった、自慢の胸。
でも、衛ちゃんのと比べたって、極端に大きさが違うわけではなかったりする。
「そう。じゃあ……もっと、よく調べて」
「え……、もっと……って?」
「好きなように――いじって、いいから……」
その言葉に、自分でどきりとしてしまった。
まだ、気持ちいいことの「き」の字も知らないような衛ちゃんに、
好きなようにおっぱいを弄くられてしまう。
どうしようという気持ちと、いけない期待が、心に入り混じった。
完全に戸惑ってしまった衛ちゃんの目に、視線を送る。
――逃げたりしたら、許さないから。
「好きな……ように……」
衛ちゃんの触り方が、手のひらから、指先でのタッチになった。
私の敏感な部分に、衛ちゃんの視線がちくちくと刺さる。
ぷにぷに、と、恐る恐る乳房を指で押したりしてても、
その意識はやっぱり、中央の突起に行ってしまうものらしい。
――ちくび、見られてる……。
衛ちゃんの触り方は、だんだん乳房の周りをなぞるような感じになってきた。
あんまりにもドキドキして、もう自分のそこが、堅くなってしまっているのが分かる。
すごく、恥ずかしい――なんて思ってると。
――つ。
少しだけ、衛ちゃんの指が、そこをかすめてしまい――
「あっ!」
――今度は、抑えられなかった。


「――!」
私のあげた声に驚いて、衛ちゃんはさっと手を引っ込めた。
「ご、ごめん、痛かった?」
「ううん、そういうんじゃなくて――」
泣きそうな顔をする衛ちゃんに――しかし、そこで許してはあげたりしない。
「すごく、キモチよかったのよ」
笑いかけながら、そう言った。
どんな笑い方になっていただろう――自分ではよく分からなかった。
「女の子の胸だもの。誰かに触られたりしたら、そうなっちゃうの」
少し下がろうとした衛ちゃんに、一歩踏み寄る。
距離を詰める。少しずつ、少しずつ。
「女の子の胸って、そういうものなの。もちろん――」
私は、ふるふる震える衛ちゃんの体に、手を伸ばし……
「――衛ちゃんのも、そう」
刺激が強すぎないよう、わきの下の方から、そっと包み込んだ。
「っ!!」
衛ちゃんが、息を呑んだ。
――やっぱり、小さくない。
こんなおっぱいをしていて、女の子でいないままなんて、許されなかった。
「やっ……! やっ、さ、咲耶……ちゃ……!」
「あら、私のはけっこうダイタンに触ってくれたのに、デリケートなんだ」
抵抗しようにも、胸を覆う手の感覚が気になって、動くに動けない、という状態らしい。
「デリケートでいいのよ。女の子の体は、世界一繊細な砂糖菓子なんだから」
ぷるぷる震える首筋に、思わずキスしたくなったが、この状態でそうすると、
泣き出してしまうかもしれないので、ふっ、と息をかけるだけにとどめておいた。
「――ふあっ!?」
――結構な効果があった。


「ねえ、衛ちゃん、気持ちいい?」
くすりと笑って、私は尋ねた。
「わ――わかんない……よぉ……!」
もう、半分泣きかけてしまっている衛ちゃん。
いちおう、それほど過激な行為までは慎んでいるつもりなのだけれど、
衛ちゃんにはそれでも強烈過ぎるようだ。
今、この手が覆っている、衛ちゃんの胸。
あくまで、覆っているだけだった。
「女の子がこんな風に気持ちよくなるのは、ちゃんと自然なことなの。
 別に怖がったりする必要なんてないこと――なの」
とりあえず、言いたかったのは、そんなところだ。
ちょっとした悪戯心で、さわりっこなんて戯れを持ち出したのだけれど。
――もうちょっと……もうちょっとだけ、してあげたって……
自分の中に、むくむくと膨らんでしまったものがある。
どうしようか。
それ以上は、さすがに――
「ボク――ボク、このままだと、変になっちゃうよぉ……!」
――ぞくり。
可愛い。
自分の指で、息で、こんなになってしまっているのだ。
うい奴――と、本気の本気で食べてしまおう、と思った――そのとき。

「おーっーぱーいー……?」

ちょこん。
その傍らに、こちらの痴態をまじまじと見つめる、ふりふりのフランス人形の姿が。
――しまった。ここ、亞里亞ちゃんの家だったっけ――!