●秋の再発見                                             

   
                                         谷 竜一 

秋風やひとさし指は誰の墓
                       −−−寺山修司





赤とんぼが舞う


チャイムで飛び起きる
急いで服を着る ドアを開ける
「今日から下水道の工事を始めますので」
宅配便を待っていたのに


赤とんぼが舞う


そのまま外に出る
雨上がりの朝
迷彩柄アスファルト
ドリル音 ドリル音 ドリル音
雲を突き通すひかりが目に痛い

歩きながら煙草を取り出す
昨日買った箱が
今日には空になるのだ

火をつける

空にした

明日こそは宅配便も届くだろう





「9・11だけは避けたい」
との御言葉に苦笑した
すぐにばつが悪くなり
あたりを伺う
誰もいない
僕の部屋には僕以外に誰もいない

電話をして
詩の一編でも捧げてやろうか と うそぶくと
「それもいいかもね」 などと
神妙になりやがって

僕の部屋には誰もいない
時折
ドリル音





真っ昼間にまどろむ
 明日には奨学金が入る
11日の予定をたてながら
 その金でラッキーストライク買っちゃう
バイトで遅くなるから
 午前中のうちに宅配便がきて
ドリル音
 東ドイツ軍放出のステンカラーコートも届く
クーラーをかけて
 それを着て買い物にも行っちゃう
眠っておかなくちゃ
 チョーカーとか買おうネイティブ調のやつ
ドリル音
 途中でガス代を振り込んで 
目をつむる


 帰ってきたら
 ウイスキー飲みながら朝青龍でも見て
 終わったらちょうど野球 明日も神宮
 そういえば
 今日はサッカーだった
 国立競技場は青いひとだかり





アスファルトが乾いて




まったくの平日
まったくの田舎としか言いようがない
このまちの空

どこへ行くのか飛行機が通過
その下で
飽きもせずドリル


赤とんぼが
ベランダにとまり
夕焼けがくる

彼岸花の群れ
土手いっぺんの橙


すべての敗者と
いずれ負けてゆく勝者のために
(昨日は阪神 負けたけれど)
ちゃんと夜はきて


すこうしだけ残った雲
月が


光をなくした 赤とんぼが
あやまって
彼岸花にぶつかる


ひとつ
ふたつ
ひとさしゆびでかぞえる

いつのまにか工事は終わってしまって
しずかなよるに


明日ばかりは
まっすぐに 飛んでくれよ

きっと 良く晴れて

月も綺麗だから






(まちがっておぼえていた句)





          赤とんぼひとさし指は誰の墓


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