[00] 創設記念短歌吟詠 一首
波の間を 縫いて漕ぎゆく
櫂は捨て 地図は故郷(あなた)のためにだけ燃え
[01]欲詩屑未満:1
雨の降る日にそばにいて
君は僕の沈黙を責めないんだね
と、ささやいてくれたあなた
いまはただ
二人、雨の音だけを聴いていたい
そんな
雨の季節 雨の夜 都市を濡らす雨
(「欲詩屑 vol.20」収録)
[02]欲詩屑未満:2
全部を奪い去ってしまうなんてこと、
運命の神様は決してしない。
もし何かなくしたのが本当なら、
いつか別なカタチで還ってくるよ。
未来のいつの日にか。
(「欲詩屑 vol.18」収録)
[03]欲詩屑未満:3
あなたを待ち続けています。
砂の海の果ての酒場で、
幻想の波が砕ける音を聴きながら。
停車駅に列車が止まりました。
夕日に長く伸びる影を追いながら、
砂時計を見つめるみたいに息を呑みます。
今日も背後のドアを意識しています。
(「欲詩屑 vol.27」収録)
[04]欲詩屑未満:4
唇に燃え残る やさしいうた ひとしずく
空にかかっているのはあのときの月ですか
わたしの胎内に幸せの結晶が
宿って育っていくのです
星よりも月よりも輝きを増していくのです
あのときの やさしいうた もういちどください
大切に たいせつに そっとうたいます
このうたとともに生きていきます
[05]欲詩屑未満:5
都市風景を描く
翼のない鳥の目線で
天上から射す光に照らされれば
すべてが不格好で
すべてが哀しくて
そしてすべてがやさしい
[06]欲詩屑未満:6
あのいつもの窓から見えていた
あの場所がなくなってしまっていた
ぽっかり空いたこころを
遮断機の音が分断する
駅に着いたようだ
わたしの目的地はもうどこにもないけれど
[07]欲詩屑未満:7
恋人のために小さな公園を用意しました
用意してもらいました
そこでは永遠の正午のように
頭上に晴れた空が広がっているのです
いつでもそこで逢えるのです
[08]欲詩屑未満:8
満月は美しいけど
そこから減っていくから哀しい
新月は暗いけれども
だんだん明るさが増していくから希望を感じる
でも、わたしは三日月が一番好き
ほんのり明かるく 夜空の海に浮かぶ船
あの人と乗るのです 二人で
二人ぼっちで
[09]欲詩屑未満:9
逝きし日の夕暮れを今も思い出す
永遠に時を止め 彼方へ、彼方へ
心は呼び戻す ありし日へ、ありし日へ
ただ日没と共に
温度を失っていく地平だけは 知っている
風の帰っていく場所を
永遠に鳴り続けるあの終楽章を
[10]欲詩屑未満:10
あなたが愛してくれた詩
大地にたたずんで口ずさんでみます
星が一つ流れました
届きましたか、届きましたね
私の卵の中であなた色の虹がぽうと光りました
(「欲詩屑未満:4」への返詩)