その107 「ある晴れた昼下がり

目覚まし替わりのCDラジカセ(でもカセではなくてMD)が
トミーの声で歌いだしたら、ダッシュで起きて小さい声にする。
そして、トイレに行き、歯を磨き、寝癖を直し、着替える。
あとは静かに玄関に行き会社へ…

絶対に楓さんを起こしてはいけません。
起こしたら最後、通勤時間のBGMはドナドナです。
最近なんだか泣くのです。行かないでと泣き出しちゃうのです。
今日静かに起きて、ネクタイを閉めている時に
ふと楓さんに眼を落とすとおめめパッチリ。じ〜っとこちらを観察。
ぼくはとりあえず見なかったことにしてスーツを手に、コートを手に
しとりますと、大きくてぱっちりしたおめめにどんどこ涙が溜っていきます。
こりゃやばい。と思いつつスーツを着、コートを着、してますと
「おとぉさん、いかないでぇ」と泣きながら訴えます。
ぼくも行かずに済むんならずっと楓さんといっしょに遊んでたいのだが
そうもいきません。お父さんもつらいのよ。
「お父さん、お仕事だからね。いい子で待っててね。」
そういって玄関へ向うのですが楓さん大泣き。
「パパァ、いかないでぇ〜」と玄関まで走ってきます。
ここで気分は売られていく子牛です。
悲しそうな眼をしてみているよ〜
「大丈夫、早く帰ってくるからね」
と無理矢理そういってぼくは玄関を出ていくのでした。
外に出ても楓さんの泣き声が響きます。朝から堪えますなあ。
しかしお父さんは働くのですよ、君に可愛い洋服を買ってあげるために。
動物番長も買わんといかんでしょ?
父さん会社いかんと買えないから、ちょびっ我慢しててね…

どなどなどぉなあどおなぁ〜、父さん乗ぉ〜せぇ〜てぇ〜
どなどなどぉなあどおなぁ〜、バ〜スはゆ〜うくぅ〜