H.シューベルト:賛歌的協奏曲 MELCD1000725
ベルリン・フィル、E.ベルガー(S)、W.ルートヴィッヒ(T)、F.ハイトマン(Org)
★★★★★

 ハインツ・シューベルトは、20世紀初頭のドイツの作曲家で、現在では全く知られていない。しかし、この曲はフルトヴェングラーが取り上げた(初演である)だけあって、大変な名曲だ。宇野功芳氏も著書で述べている通り、もっと広く聴かれるべきである。

 演奏されたのが戦時下のベルリンであることを考えると、不謹慎ではないかと思えるほど甘美な憂いと悲愴感に満ちている。バッハの歌う神への賛美がいと高きものへつながるためのバイブレーションだとすれば、H.シューベルトの音楽は神の御胸に抱かれることを真摯にこいねがっているようだ。

 オーケストラの豊かな響きも見事だが、全盛期のベルガーの美声と、どっしりと腰の据わったハイトマンのオルガンの迫力が素晴らしい。フルトヴェングラーはそれらを完璧に統率し、融合して音楽を一つの世にも美しい神に捧げる愛の歌に仕上げている。夜、心静かに耳を傾けると心が洗われるようだし、往年の名作少女マンガを読む際のBGMなんかにも最適だ。

 1942年の、マグネットフォン初期の録音ではあるが、ノイズもなく豊かな録音で大変聴きやすい。

 収容所ではユダヤ人をガス室に放り込んでいるというのに、ベルリンではかくも美しい音楽が奏でられている。人間とは誠に賢しく、愚かしい。

(07/5/6記)

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