ブラームス:交響曲第4番(1948年盤) TOCE-8912
★★★★★

 フルトヴェングラーの指揮姿を捉えた数少ない映像の中に、かなり有名なものではあるが、ロンドン楽旅の際のこの曲のリハーサル風景がある。よくもまあこんな指揮でオケが合うものだと感心してしまうめちゃくちゃな動きである。と同時に、自分の表現したい音楽を無理矢理動作に翻訳するとこんな感じになるんだな、と妙に納得できる振りっぷりでもある。

 これもフルトヴェングラーが自己の感情を目一杯ぶちまけた演奏である。甘美な陶酔、薄ら寒い寂寥、とどまるところを知らぬ激情、なんでもござれである。片時も安定しないテンポには、確かに宇野氏ではないが「この曲はここまでの表現を必要とするのだろうか」という疑念を抱く向きがあっても不思議はない。

 しかし、僕はフルトヴェングラーによってこの侘び・寂びのお手本みたいな音楽に生命が吹き込まれたとのだと思う。最晩年のヴァントが振ったCDも持っているが、立派ではあるが実に退屈である。フルトヴェングラーがひたすら甘く歌った冒頭も、一筆書きみたいにすっと流されてしまっては何の意味も見出せない。第一楽章終結部の、猛烈なアッチェレランドから一転して思いっきりディミヌエンドする辺りは手に汗を握る(ちなみに大戦中のライブは速さの落差がもっと大きいが、仕掛けがわざとらしくて興醒めである)。第二楽章の暖かくて柔らかい弦の音、一転して第三楽章の荒ぶりも愉しい。フィナーレの激しいドラマもパッサカリアという古めかしい様式を越えて、聴く者の血を沸かせる(ちなみに、僕は以前このフィナーレをイメージして『緋色のパッサカリア』という小説を書いた)。

 音は硬いが聴きづらくはない。フルトヴェングラーという指揮者の手練手管を知るにはもってこいの一枚だと思う。

(07/3/3記)

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