三十路男二人が素敵に満喫 ワクワクドキドキ3泊4日の旅




 現実逃避をしたくなるほどストレスを溜め込んだわけでもないんですが、ふと「一人で温泉に行こう!」と思い立ちまして、となればどうせ旅に出るのであれば今の最萌えカプの一つである「東北新幹線×秋田新幹線」を実査してやろうじゃないの、ということになりまして、必然的に行く先は秋田へ。

 つれづれに「楽天トラベル」で秋田新幹線沿線の温泉地を調べていると、田沢湖にほど近い「水沢温泉」にお一人様用プランのある温泉宿を発見。よっしゃこれだってわけで、さっそく宿を予約。「えきねっと」で「こまち」の切符を手配。深夜に部屋にいながら旅行の手配ができる、いい世の中になったもんです。

 さて、出発当日。
 旅のお供に欠かせないのが本と音楽。まず本は、いろいろ考えた結果ちっとも読めていない岩波から発行中の「フロイト全集」を。嵩張るものの、静かな温泉宿で紐解くには恰好の書物だし、思考回路に質の良いストレスを与えるのも時には大切なので、読みかけていた第22巻『モーセという男と一神教・他』と第8巻『機知』をカバンの中へ。

 お次は音楽、というところなんですが、愛聴曲を詰め込んだMP3プレーヤーを忘れるという愚挙をやらかしてしまい、気づいたときにはかなり凹みました。しかし、結果的には日常とは違う音を聴くことができ、良かったと思っています。

 鉄道旅行となれば、欠かせないのが駅弁と酒。大宮駅の新幹線ホームの売店に行くと、5/25限定の弁当なるものが売っており、限定に弱い日本人の特性を遺憾なく発揮して、買ってしまいました。

 特にどっちゅうことのない弁当でした。まあ、大事なのは車内で弁当を食うということなので、その中身はあまり大事ではないのです。
 これにプラスしてビールとプリングルス。どうも新幹線と国際線に乗ると飲まずにはいられなくなる性分でして、午前中からほろ酔い加減と、いいご身分です。
(他に誰も飲んでる人はいなかったのですが、飲まずにいられる神経の方が僕には疑問です)

 ちょ、まっ……!合体シーンモロはヤバイよ。モザイクモザイク!……ってヤバイのはおまえの頭ですかそうですか。
 盛岡駅にて。「こまち」乗ってると切り離しと連結のシーンが見られないので、ちょいと残念。東北上官の写真をもっと撮りたかったのに・・・!

 盛岡を過ぎてからの車窓からの風景。米どころ秋田はちょうど田植えの季節なようです。

 田沢湖駅にて。秋田上官は美人ですね。いや、冗談抜きできれいなデザインですよね。JR東海にもこれぐらいのデザインセンスがあれば、N700ももっと美形になったんでしょうが・・・。
 二枚目は日に三本くらいしかない田沢湖線。こういう可愛い電車、好きです。

 田沢湖駅、とは言いながら、田沢湖に行くには羽後交通の路線バスに乗って15分ほど。前乗り前降りの、鄙びたバスに乗り込みます。
 車内アナウンスは、懐かしい雰囲気の中年女性の声。僕が子供の頃、20年ほど前の東急バスのアナウンスを思い出しました。母方の実家が目黒にあり、よく目黒駅から目黒01系統に乗ったものですが、そのアナウンスによく似た感じです。今のアナウンスは電車やバスを問わず若い女性の声ですが、中年女性の落ち着いた声の方が耳障りがよいような気がするのは僕のノスタルジーでしょうか。
 ちなみにこの女性、「お降りの際はお知らせ願います」の「ま」と「す」の間に1/4の「ぁ」が入る発音で、大袈裟に書けば「お知らせ願いまぁす」ってな感じなんですね。何となく地元のバスガイドさんなんかに頼んでやってもらった感じ。手作りっぽい感じが何とも言えず味があります。

 バスには地元の高校三年生の女子が乗っていました。野暮ったいデザインの制服をきっちり着て、黒髪に化粧っ気は皆無、視線を落としているのは携帯ではなく図書館の本。すごい美人、というわけではありませんでしたが、素敵な光景で、少なからずときめきました。素朴なのがいい、というほど単純ではありませんが、中途半端なオシャレよりは、素材そのままの方が素敵であることが、特に10代の娘なんかの場合には多いような気がします。
 髪も肌もきれいでした。秋田小町ってのは本当にあるのもしれません。

 田沢湖にて。
 こんなにやる気のない看板は初めて見ました。湖のシンボルである辰子像をかたどったものであることが辛うじて分かりますが、とてもこの中に顔を入れてみたいとは思いません。だからこそ逆にやってしまうのかもしれませんが。僕も同性の友人と来ていたら間違いなく記念撮影をしていたことでしょう。
 もはや看板屋ですらなく、そこらのオヤジに描かせたとしか思えませんが、もうちょっと何とかならなかったもんでしょうか。

 貸しボートもあるのですが、いい感じのさびれ具合でむしろ好感が持てます。仲の良い家族やカップルがスワンボートを楽しそうに漕いでいました。いっそのこと僕も、と思ったのですが、自殺者と思われたら困るのでやめました。

 人があまりおらず静かで僕は大変気に入ったのですが、正直観光地としてはどうなんだろう、と思います。田沢湖の売りは「日本一の深さ」なわけですが、「大きさ」とか「透明度」と違って、「深さ」は眼に見えません。客を呼ぶインパクトとしてはどう考えても弱い。一応バスツアーの経由地にはなっているようなので、放っておいてもそれなりに客は来るんでしょうが、それ故に熱心に営業をするつもりもないようで、やる気のなさが漂っています。
 次のバスまで時間があるので、せっかくなので湖を一周する遊覧船に。何を見るでもなく、ただボーッと船に乗るってのも悪くありません。実際、これといって見所もありません。
 一枚目は湖畔から撮ったんですが、二枚目は船上から駒ヶ岳を望んでみました。右が辰子像なんですが、どうっちゅうこともありませんな。

 田沢湖からバスでもう15分ほど、今回お世話になる宿は水沢温泉郷の「青荷山荘」。楽天トラベルで検索して、お一人様用のプランがあったので予約して窺った次第。一泊二食付きで\10500。
 部屋は7.5畳で、一人にはちょうどいいサイズ。新しくはありませんがなかなかきれいです。トイレや洗面台は共同。築だいぶ経っているようですし、ご夫婦二人で切り盛りしているようなので、かゆいところに手が届くことはありませんが、特段不満もありません。
 今回はPCは持っていきませんでしたが、LANが部屋まで来ているので、ネットも楽しめます。こんな山奥まで高速回線が来ているとは、日本の通信インフラもやっとだいぶ発達してきたようです。

 晩ご飯前にひとっ風呂。宿の風呂は24時間入れるので、まずは宿のすぐ目の前にある日帰り入浴施設「露天風呂 水沢温泉」に。こちらはこの温泉の源泉を所有する会社が運営している施設です。
 施設は比較的新しく、なかなかきれいです。こちらの温泉はいわゆる硫黄泉で、白濁しており、今流行りの硫化水素特有のかすかな腐卵臭がしますが、草津ほどではありません。
 源泉かけ流しですが、温度の調節はしてあります。ぬるめと熱めがあり、前者が42℃程度、後者が45℃程度。後述もしますが、この界隈の温泉はいずれもかなり熱めの温度設定です。熱めの内風呂はマジで結構熱いです。
 ぬるめの露天風呂なら長湯にちょうどいいくらい。肩までつかったり腰湯にしたり足湯にしたりとのぼせないようにしながら、とりとめもないことをぼんやり考えながら湯につかること小一時間。日頃の疲労が湯の中に溶け出していくようで、肩こりはすっきり、お肌はツルツル。てきめんにHP回復です。

 夕食は部屋で(ここが重要ですね)。内容は値段なりで、特に気が利いているというわけでもない代わりに不味いわけでもなく、実に普通。そもそも山間の小さな温泉宿の食事に期待をしていないので、全く問題なし。
 この辺の地酒であるらしい「秀よし」というのを冷やでいただいたのですが、これはあまり美味しくなかったです。クセがあり、僕の好みではありませんでした。

 味はともかくも、温泉宿の部屋で一人日本酒をちびりちびりやりながらフロイト全集のページを繰る。肩こりをほぐすのに肩から背中にかけての筋肉をよく動かすのがよいと同様に、仕事で凝った頭をほぐすにはじっくりと内容を咀嚼しながら文章を読むのが一番です。フロイトは学生時代に一通り読んだのですが、今改めて読むとまた違った気づきがあって、実に新鮮です。

 読書に疲れてうたた寝をしたりするうちに夜も10時になり、宿のお風呂へ。こちらは源泉からのお湯に全く手を加えておらず、湯船に水を入れて温度を調節しています。白い湯の花が湯船に沈んでおり、かき混ぜるとお湯が真っ白になります。お湯を手ですくうと細かい湯の花が手についてきます。温泉成分が濃い感じで、ものすごく温まります。

 ただし、お風呂の設えはお世辞にもいいとは言えません。まず湯船が狭く、キャパは3人。僕が今住んでいる寮の風呂と同じか、それより狭いくらい。僕は一人で入っていたのでのんびり手足を伸ばしてつかっていましたが、仮に友人とでも二人ではのびのびできないと思います。
 そして、タイルや鏡の劣化が多くの人には許容範囲を超える程度になっていると思います。僕は性格的にあまり気にしませんが、それでもちょっとなあと思ったのは確かです。年月に相応しい経時変化ならともかく、それをかなり逸脱していると思います。そんなにお金や手間をかけずにメンテナンスすることは可能だと思うのですが、せっかくのお風呂をあの状態のままにしていることには首を傾げざるを得ません。
 僕はそんなことよりお湯の質が大事なので、どうせ眼をつむってしまえば分からないので、特に気分を害したりはしませんでしたが、腹を立てる人がいても不思議ではありません。
(かつて楽天トラベル上でのこちらの宿の評価についてブログで擁護したことがあったのですが、先行評の方が正当であったことは認めざるを得ないと思います)

 おやつに田沢湖のおみやげ物屋で買ったものです。もはや秋田ですらありませんが、そのへんはご愛敬でしょう。どこがずんだ風味なのか分からないのもご愛敬かな。キットカットのご当地ものというのは初めて見ました。普通にキットカットが好きなので、美味しく食べました。

 お風呂から上がって再び読書。「精神分析概説」を読了して25時過ぎに就寝。低反発枕なるものが枕に使われており、初体験でしたが、特に違和感なく眠れました。しかし、基本的にうつぶせ寝の僕としては、枕はふにゃふにゃなものに限ります。

 翌朝は8時に起床。単純な人間なので、フロイトを読んだその夜は典型的なフロイト的な夢を見ることが多いのですが、朝までグッスリでした。
 相変わらず熱めの風呂にのんびりつかってから朝食。出てくるものは温泉ホテルの朝食と一緒ですが、手作り感があって味はともかくも良好。
 こちらの宿、一人旅ならまた使ってもいいかな、と思いました。狭いのはともかくもうちょっとお風呂をきれいにしておいてくれれば言うことないのですが・・・。

 この日はあいにくの雨。しかも本降りな上にかなりの風。本当は角館をブラブラするつもりだったのですが、とてもそんな気分にはなれず、急遽予定を変更して宿の前を通る路線バスの終点である乳頭温泉を訪れることに。

 名前だけは聞いたことのある温泉地ですが、聞くと6つの宿がありそれぞれに源泉を持っているとのこと。湯巡りをする観光客も多いらしく、日帰り入浴も1回大体\500とリーズナブル。しかも水沢温泉からバスでものの15分程度なので、これは行かないわけにはいきません。

 時間と足があれば全部回ってもいいのですが、今回はそのどちらもないので、バス停から徒歩1分圏内にある2件の宿を回ることに。

 まずはまさに目の前にある大釜温泉。廃校になった小学校の校舎を移築した建物ということで、なかなかの風情です。
 お湯は茶白色の硫酸塩泉。もちろん源泉かけ流しで、こちらも湯船に水を入れて温度調節をするスタイル。
 ちょうど観光バスを乗り付けてきた団体が帰った後で、広いお風呂は完全に一人で貸し切り。団体さん仕様なのかお湯はかなりぬるくなっていましたが、そのおかげでゆっくりつかることができました。ぷかぷか浮かびながら、ただただボヘーっとお湯につかっていると、心身共に毒が抜けていく心地です。よく巷でデトックスなんて言っていますが、都会のせせこましい施設でまねごとみたいなことをしてもそれらしい気になるだけだと思います。作り物ではない大地の力と、そして何よりゆったり流れる時間の中のーんびり脱力しなくちゃ、日頃のしぶとい汚れは落ちません。
 長湯をしているうちにどんどん流れ込んでくる熱い源泉のおかげで、湯加減もちょうどよく。ただ、かき混ぜないと湯船の上と下で温度差ができてしまうので、思いっきり平泳ぎをしてかき混ぜました。お風呂で泳ぐなんて本当に久しぶり。ただ、いきなり泳いだら股関節が痛くなりました。

 45分ほどつかり、みっちり汗をかいた後はやっぱりこれ、コーヒー牛乳。風呂上がりに飲むのは断然コーヒー牛乳です。フルーツ牛乳にもちょっと心動かされたんですが、やはり宗旨はそう簡単に曲げるべからず。古来からの作法に則り、腰に手を当てて一気飲みさせていただきました。

 お次は、バス停から1分少々の蟹場温泉へ。
 こちらのお湯は弱アルカリの単純泉。こちらのお湯も湯の花が浮いているのですが、こちらのはティッシュを入れたまま洗濯機にかけてしまったときのような、結構大きなものです(ちと不適切な喩えですが)。
 こちらも先客が一人いる程度で空いておりました。まずは木風呂に入ってみたのですが、非常に熱い。確実に45℃以上はありました。これではすぐにのぼせてしまうので、そそくさと露天風呂へ。
 こちらの露天風呂は宿の建物内にはなく、宿を出て山道を50mほど歩いた先にあります。脱衣所は別れていますが、混浴。残念ながら、というべきか、女性客には遭遇しませんでした。実際には夫婦かカップルかが数組来たのですが、混浴なのを見て帰ってしまいました。見ることになる側としては、然るべき場所で堂々と裸になられる分には、変な気分になったりはしないものですが、女性からすればやはり抵抗があるのでしょう。ましてパートナーが一緒ともなればなおさらなんでしょうか。
 こちらでも大地の力を存分に吸収し、代わりに毒素を排出。湯あたりとは無縁の体質なので、お風呂を出ればすっかり身体が軽い。もっとのんびりしたかったものの、帰りの電車があるので渋々帰途へ。

 さすがに身体が火照って熱いので、バスの窓を開けると山のひんやりとした空気が流れ込んできて実にいい具合に冷ましてくれます。宿を出る前に空いたペットボトルに詰めた水道の水(けちくさいですが、立派なミネラルウォーターですからね)が、三時間ほど経ったのにまだ冷たく、カラカラの喉には実に美味い。芯まで温まった身体をクールダウンさせるのも温泉の醍醐味です。

 帰りの秋田上官。そぼ降る雨のおかげで、水も滴るいい女(?)となっていました。
 田沢湖駅で買った駅弁。白神の宝、とか大層な名前が付いていましたが、どうってことない弁当です。あっさり味なのはおそらくメインターゲットである年配の方向けの配慮でしょうか。
 いい加減温泉につかりすぎたせいで、汗腺が開ききってしまって汗が止まらないのと、明らかに全身から温泉の匂いが漂ってくるのには若干困りました。おそらくすっかり麻痺している自分ですら感じるんですから、隣の人には結構匂ってたと思います。悪臭ではないと思いますが、妙なにおいのするやつだと思ったでしょうねえ。

 行きは今ひとつ東北が上手く撮れなかったので、もう一度チューのシーンを。こうして見てるとちゃんと男前に見えてくるから不思議です。
 大宮駅で「あさま」と行き合ったのでこちらも記念に。擬人化ではまだ子供なんですが、実物はそんなに幼くはない感じ。。残念ながら長野新幹線に乗る機会は当分訪れないと思うので、とりあえずはこれで満足。

 この季節、今回訪れた界隈はシーズンオフらしいですが、個人的には訪れるにはベストシーズンだと思います。何より空いてる。そして湯冷めするほど寒くないし、のぼせ上がるほど暑くもない、ちょうどいい季候です。深緑も美しい。ふやけるほどお湯につかるにはもってこいの季節です。
 温泉以外何もないので、家族やカップルでというよりは、一人か同性の友達と、心ゆくまで温泉を楽しむのがベストかと思います。何もしないことを満喫するような心の余裕をもって出掛けるとよい旅になるでしょう。
 空いている頃を見計らって、今度は乳頭温泉の別のお風呂にも入ってみたいと思っています。

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