文学部唯野教授(岩波書店)
★★★☆
全く可愛げがなく、ませていた僕がこの本を手にしたのは、確かまだ中二のころだったと思う。無論唯野教授の講義を理解できるわけもなく、とりあえず筋のところだけを読んで、まだら模様の物を見ると「ひゃあ、この○○はエイズだ」とか他愛のないことを言っては喜んでいた。
では、今は講義の部分もちゃんと理解してるのかといえば、残念ながらそんなことはない。理解するしない以前の問題として、取り上げられているテキストをほとんど読んでいないのだから、理解できようはずもない。しかしながら、生齧りではあるものの、僕の文学理論に関する知識のほとんど全ては唯野教授の講義から得たものである。その意味では教科書的存在でもあり、別の本を読む際に傍らに置いて参照することも少なくない。
これだから筒井康隆という人はすごいと思わせる本である。僕のような人間ですら、難解な文学理論を分かったような気にさせてくれる。デビュー以来日本でもっとも先鋭的な文学者の一人であったわけだが、前衛とは優れて啓蒙的な存在であることを改めて知らしめてくれる。
もっともそういったものに興味がなくても、筋の部分だけでも十分に楽しめる。僕は昔から筒井作品の毒を味わうことのできない同性とはまず友達になれないと思っているが、その意味では本書もよい試金石となろう。いわゆる「てんかん」問題が世間を賑わしていたころ、次に槍玉に挙がるのはこの作品だと思っていたのだが、なぜか一顧だにされなかった。作品の性格上皮相なマスコミが絡みづらかったからだろうか。それともまだエイズは大々的に取り上げるにはデリケートすぎて及び腰になったのか。
しかし、大人になって冷静に考えれば、思春期まっただ中だというのに筒井作品の毒を存分に堪能してしまうというのもいかがなものかと思う。そういう子供は長じると、こんなふうになってしまう。
(07/4/26記)