農協 月へ行く(角川文庫)
★★★★☆

 僕の人生を変えた一冊である。

 友人に勧められて初めて読んだのは、中学二年生の時だったと記憶している。この本から僕は物事は斜めや裏側から批判的に見るものであることを教わった。

 とにかく刺激的な本である。表題作の他、『日本以外全部沈没』『経理課長の放送』『信仰性遅感症』『自殺悲願』『ホルモン』『村井長庵』、所収作はいずれも社会あるいは人間を斜めからぶった切っている。殊に愉快なのはストに突入したラジオ局で急遽アナウンサー役を任された経理課長の滑稽な奮闘を描いた『経理課長の放送』で、僕はこれを電車の中で読むという愚を犯してしまい、爆笑を止められず向かいに座っていたおばちゃんに怪訝そうに見られたのを憶えている。

 本家本元とともに映画化されて一躍注目を浴びた『日本以外全部沈没』も痛快だし、『信仰性遅感症』『村井長庵』などは、一風変わったエロチシズムが興をそそる。

 抱腹絶倒間違いなしである。特にブラックユーモアを好む人は何をおいても読むべき本だ。もし筒井康隆に触れたことのない人は、本書を筒井康隆入門として、次に『心狸学・社怪学』辺りに進むと筒井の毒に中毒できるだろう。

(07/6/3記)

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