筒井康隆:ダンシング・ヴァニティ(新潮社)
★★★★

 上手いなあ、と舌を巻くばかり。破綻を技巧の一つとして意のままに操るのは昔からだが、今作では単なる技巧ではなくエンターテイメントの一要素となっている。

 この作品の大きな特徴は、帯にも記してある通り徹底した反復記述にある。要は同じシーンが執拗に何度も繰り返される。しかし、その中身は少しずつ変化していく。読者は一作の小説を読んでいるのに、一つのシーンの様々なパターンを味わうことが出来る。

 一方で、最近の作品の重要なテーマとなっている「死」が、一つの通奏低音として全体に流れ、最後には大きなクライマックスを作って終わる。それまではかなり賑やかな物語だったが、さながらブルックナーの9番のようにしめやかなアダージョで幕を下ろす。読後には一抹の寂寥感が残る。

 筒井康隆を読む悦楽を十二分に楽しむことが出来る。最近あまりお目にかからなかったSFの要素もてんこ盛りである。ツツイストは何をおいてもまず読むべき一作だ。

(08/2/26記)

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