田沼淳一:淫獣の群れ−実母と姉弟(フランス書院文庫)
★★★
寝台特急「サンライズ瀬戸」に乗り、四国を旅行したことがある。夜汽車の情趣を楽しめる寝台列車の旅が僕は好きである。そのときは奮発してA個室を取り、ゆったりとした時間を過ごせることになっていたので、夜のお供になる本を書店で物色していた。
夜汽車に似合う本というと、例えばアガサ・クリスティあたりなのだが、そのときはふと店の片隅の方にひっそりと置かれている官能小説に眼が止まった。こういう非日常に浸るのも悪くないと思い、18禁描写の勉強にもなることであるので、数冊を手に取りレジに向かった。これはそのときの一冊である。
サブタイトルが示す通り、弟である主人公が実の姉と母を籠絡し、自らの肉奴隷に調教した揚げ句、仕舞いには孕ませてしまうという身も蓋もない話である。セックスの描写も、とても勉強にならないくらいに過激である。過激であるというか、むちゃくちゃである。僕は女性ではないが、人間どう頑張ったってこんなに絶頂を迎えることはできないことぐらい分かる。そもそも、子宮の中に挿入などされたらエラいことだろう。もうツッコミどころ満載の性技の描写が続く。
いくらでも無修正の過激な映像を入手できる昨今、とても映像ではできないような過激な描写を書き連ねなければ読者を惹きつけることができないのだろう。半分i医療行為みたいなセックスを描く文章を読みながら、しみじみと作家の苦労に想いを馳せてしまった。
ちなみに、むちゃくちゃではあるが、盛り上げ方というか、官能小説の勘所はちゃんと押さえている。文章自体は下手ではなく、やや言葉遣いが陳腐だったりはするのだが、興を殺ぐほどではない。後は、背徳的な設定の勝利という気がする。
車窓から流れゆく夜の街を眺めながら、ちょっと異色の非日常を楽しんだ一晩だった。
(07/7/17記)