谷川流:涼宮ハルヒの溜息・退屈・消失・暴走(角川スニーカー文庫)
★★★☆
一作ずつ評していくのは面倒くさいのでまとめさせていただく。
読み進めていくたびに実感するのは、ハルヒはこの物語の中で完全に疎外された存在であるということである。もちろん物語の中で起こる様々な出来事は、彼女がそれを引き起こす張本人であったり、トリガーであったりするわけだが、その中で様々に動き、考え、さらに感情を右往左往させるのは彼女以外のキョン・みくる・長門・古泉である。だから、これはハルヒ以外の4人の物語なのである。
ハルヒの情動は、キョンが好き、というこの一点で固定されてしまっている。それはこの物語が成立するための揺るがなきデフォルトの設定である。この設定を踏襲した上で、各人はその役回りを様々に演じる。どの役者に感情移入するかで、この作品の読み方はだいぶ変わってくる。
私自身は、最初はキョン目線で読んでいたが、今はニュートラルに誰にも感情移入していない。4人が4人ともそれぞれに愛おしいからである。4者4様に答えの出ない課題を抱えてうろうろしている姿が可愛らしい。この作品は紛れもなく青春恋愛小説なのである。
個々のエピソードに触れることは割愛するが、「消失」について簡単に。「消失」は締めくくりのエピソードで良かったのではなかっただろうか。これで終わるのが一番さわやかで、青春っぽくていいような気がする。というか、これを途中のエピソードとして使ってしまったら、本当の幕引きはどうするんだろう、といらぬ心配をしてしまう。
小説を読む楽しみ、という意味では物足りない。しかし、物語を読む、という意味では十分楽しませてくれる作品である。正直、アニメにはかなわないが。
(08/2/26記)