田辺聖子:むかし・あけぼの−小説枕草子 上・下(角川文庫)
★★★
「小説枕草子」と銘打たれているが、清少納言の生涯を、おせいさんの瑞々しい創作を交えて描いた小説である。『源氏物語』を『新源氏物語』(新潮文庫・別項)で知った者としては、おせいさんの眼を通して読む古典の世界は抵抗なくすんなり心に入ってくる。
確かにここに描かれる「輝かしき女性像」は時代遅れかもしれない。家庭の中でこぢんまりとまとまってしまわず、社会で男たちの中に立ち混じって、彼らに負けぬ才覚で社会を渡っていくことこそ女の理想のあるべき姿。それを平安の世のキャリアウーマンである清少納言に事寄せて描く。僕とてもそれに全面的に共感できるわけではない。
しかし、そういったやや古錆びた感覚を補って余りある古典への愛情と、それを現代的な感性へと嫌味なく移しかえる鮮やかな筆致には率直に惹きつけられる。理知的だが、いい意味で女性的な優しい文章は、読んでいて心和む。本を読む本来の楽しさとはこういうものだよなあとしみじみ思う。
ところで、平安の世の貴族たちは盛んに文やら歌やらを取り交わしていたようだが、これってメールのやりとりと同じではないのだろうか。そう考えれば、教科書上の人たちも決して我々から遠いところに立っているわけではないと思える。
(07/4/25記)