田辺聖子:文車日記(新潮文庫)
★★★★
おせいさんの小説は、実はあまり読んだことがない。しかし、本書のような古典を題材としたエッセイを読むと、その暖かく手練れた文章と古典への、そして人間への愛情に心打たれる。
『土左日記』や『世間胸算用』などについての文章も素敵だが、やはりおせいさんは恋について語るときが一番素敵だ。和泉式部や式子内親王を見つめる視線は女性としての共感と情愛に満ちていて、ともすれば取っ付きにくい古典が、実は赤裸々に人間の情念を描いたものであることを平易にかつ上品に教えてくれる。
僕が一番好きなのは、「少女と物語」と題された、『更級日記』について書かれた一章。文庫本3ページ弱の、本当に短い文章であるが、僕はこの一文を以て古典の素晴らしさ、ひいては日本人の素晴らしさを教えられた。
それに引き替え、学校で教える古文の授業のなんと無味乾燥なことか。こうした生きた教材を基に古典の持つ活き活きとした情感に触れさせれば、きっと子供たちも日本人の心の美しさを感得すると思う。
(07/4/14記)