杉浦由美子:オタク女子研究−腐女子思想体系(原書房)
★★★☆
僕は自他共に認めるオタク的アンドロギュノスである。ギャルゲーに興じアニメキャラの18禁同人誌を買い漁るその翌日に、18禁BL同人誌を買いに走る人間なのである。「萌え」の感覚も「腐女子」の感覚もどちらも自分のものとなっている、自分ではかなり稀な才能(?)の持ち主であると自負している。
男性のオタクについての言説は世にあふれているのに(そのほとんどは誤解に満ちているが)、腐女子について言及したものは非常に少ない。それは当然で、特にマスコミは非常に強固な男性原理の下に成り立っているので、腐女子のことなど分かりっこないのである。そして一方、これはある友人に言われて非常に納得したことなのだが、女性は男性と違って客観的に自分の立ち位置を分析することなどしない。男は理解できないし、当の本人にたちは自分の話などあえてしたりしないから、結果的に腐女子の姿は霧に包まれた状態となってしまう。
唯一、やおいにはまる女性の心理に迫ったのが中島梓である。彼女の『コミュニケーション不全症候群』やその続編たる『タナトスの子供たち』は、きわめて真摯にやおいに救われる女性の姿を浮き彫りにしたものである。詳細は別項に譲るが、これらを読んで大いに感心はしたが、しかし現実はもっと進んでいるのではないかという一抹の違和感が頭から離れなかった。一言で言ってしまうと、ベクトルは違えども結局は中島の分析も男性原理を土台にしたものだからだ。
そんな中、本書は僕が知る限り唯一の、腐女子についてその依って立つ位置を土台にして書かれた文章である。その内容自体は、腐女子たる僕にはそう目新しいものはないのだが、そもそも腐女子について真っ当に解説された文章を読むということ自体がきわめて新鮮で、それだけである種感動に近いものを覚えてしまった。
オタクというのは自分原理主義者である。従って、男のオタクは男性原理主義者であり、腐女子は女性原理主義者である。男性原理に全く影響されることがないという意味で、ある意味腐女子はウーマンリブが全うされた後の女性の姿なのである。そのあたりの事情を、著者は男性原理に支配された女性の典型である「恋愛ジャンキー」と対比することによって、分かり易く解説している。
腐女子の萌えについての分析については、やや紋切り型の域を出ず、オタクの前衛たる僕には物足りない内容ではあるが、オタク的世界に全く理解のない読者に対してのものとしては、過不足なくまた分かり易く書かれていると思う。
腐女子についての言説というのは一向に増えない。せいぜいが乙女ロードの執事喫茶を茶化すぐらいである。そんな中で本書の価値は非常に高い。これさえ読めば腐女子についてのことは一通り理解できる。
腐女子の萌えを分析することで、現代の若い女性の心理の真相を解き明かすことができると僕は信じている。腐女子の社会的位置づけについては本書で十分なので、あとはそういった論をものす人は誰かいないか、切望する。
(07/7/19記)