Lucy ★★★★☆
前作とは打って変わって、彼女の陽の部分を前面に押し出したアルバム。しかしながら、菅野さんの音楽自体が持つパワーが彼女の声の魅力をいたずらに拡散させておらず、聴きやすく仕上がっている。実際プレイヤーにかける頻度だけでいえば、僕自身も『DIVE』よりもこちらのほうが高い。
しかしながら、全曲を通してのコンセプトが明確でなく、アルバムトータルの完成度の高さでは前2作に及んでないと思う。人を想う前向きなベクトルを歌おうとしているんだろうということは分かるのだが、前2作ほどそれが徹底されていないので、比較の問題として一段低く見えてしまう(絶対評価では高いレベルであることはいうまでもない)。菅野さんの音楽が、明るい前向きな力を表現するのにあまり向いていないというところにも原因があるかもしれない。
特筆すべきは、詩の表現力の深化だろう。前作と比べると、言葉が格段に力を持つようになっている。「私は丘の上から花瓶を投げる」はタイトルとともに、一番詩が好きな曲である。
ブレスが気になるという声を聞いたことがあるが、僕はあまり気にならない。かなり声のエッジを立てた音作りが結果としてブレスを強調しているのは確かだが、僕は個人的にブレスが入っている方がむしろ「歌っている」という感じがして好きなので、そこは傷にはならない。
お気に入りは何といっても「私は丘の上から花瓶を投げる」。これを聴くためにこのアルバムをプレイヤーにかけるといっても過言ではない。彼女の全ての曲の中でもっとも美しい声を聴ける曲だと思う。あとは「マメシバ」と「紅茶」。澄み切ったボーカルが少々のストレスは紛らわしてくれる。
(07/3/5記)