グレープフルーツ   ★★★★☆

 言わずと知れたデビューアルバムであるが、捨て曲が一曲もないという意味で、彼女のベストなアルバムだと思う。ということは、(残念ではあるが)これからもずっとマイベストであり続けるだろう。

 彼女のことは『エスカフローネ』から見ているので、ファンとしては最古参の部類になろう(子役の頃から見ている人がいたら、それは敵わないが)。その第一回、主題歌の「約束はいらない」を聴いたときの衝撃は今でも忘れられない。何という勁い(つよい)声。菅野よう子の独特の音使い(ピアノとアコギがリズムを刻む!)と相まって、彼らが作り出す「世界」に否応なしに引きずり込まれてしまった。もちろんサントラは三枚とも発売日に買い求めた。

 彼女ほど、声だけで世界を表現できる歌手を僕は知らない。もちろん菅野よう子の影響は大であるが、しかしただそれに引きずられるだけでなく、きちんと消化して自分の物として歌っている。そしてこのアルバムには十代の少女が持つ甘酸っぱさ(アルバムタイトルは秀逸だと思う)が詰まっている。もう無敵である。

 お気に入りは「オレンジ色とゆびきり」と「風が吹く日」。青春時代が孕む微妙なメランコリーが臆面もなくストレートに表現されていて、聴いていて切ない気持ちにさせられる。

 彼女の声の魅力の秘密は、勁さの裏に潜むかすかなメランコリーだと思う。メランコリー、というと語弊があるなら、「影」と言い換えてもいい。一見前向きな勁さの中にちらりと垣間見える仄暗さに聴き手はぞくりとするのである(本人は至ってバイタリティーあふれるネアカな人のようであるが)。最近の歌が面白くないのは、影の部分が全く活かされていないからだと思うが、いかがだろうか。

(07/3/3記)

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