t.A.T.u.:200 KM/H IN THE WRONG LANE
★★★★

 彼女たちと出会ったのは、騒ぎになる前、まだ輸入盤しか出ておらず、新宿のタワレコで「これは『タトゥー』って読むのか!?」なんて紹介のされ方をしていたときである。曲はともかく、二人のレズっぽいPVが見たくて、要はスケベ心から買って帰った。

 代表曲「ALL THE THINGS SHE SAID」を聴いてぶったまげた。細くて甲高い声が、少女特有の焦燥感を切実に表している。そして、「彼女」への狂気的な執着を歌う歌詞である。僕は英語が達者ではないので、洋楽の歌詞はほとんど気にしないのだが、この歌の歌詞には唸った。

 この歌1曲でまるで1編の少女マンガである。これぐらい見事に「物語」を聴かせる歌というのは珍しい。これといった音の仕掛けがあるわけではなく、これは完全にレナとユーリャの声がなせる業である。
(焦燥感という面では、馴れない英語での歌唱よりも、母国語バージョンの方がよく表れていると思う)

 どの歌もキーの高い、ミディアムテンポだが、そのいずれにも得も言われぬ仄暗さが漂っている。突き抜ける高音の裏には、持って行き場のないエネルギーが渦巻いている。この不安定な感じが、聴いていてクセになる。「HOW SOON IS NOW?」なんかは、その最たるものだ。

 買ってから二週間ぐらいはこればかり聴いていた。自分の中でのブームが落ち着いてしばらくしてから、たまたまかけたJ-WAVEで「ALL THE THINGS SHE SAID」が7週連続1位とか言っているのを聞いてびっくりしたのを憶えている。もっと時期が早ければ僕も東京ドームのチケットを買ったかもしれないが、いろいろな騒動を見ていい加減鼻白んでいたので、その頃には冷ややかに見守る側に回っていた。

 結果として大人たちに振り回された形の彼女たちだが、ああしたことがなくても、彼女たちは早晩消え去る運命にあっただろう。彼女たちが表現するものは「少女」そのものであり、当然彼女たちが少女である時間は限られているからだ。その意味では、フェードアウトするようにずるずると消え去るよりは、花火のようにパッと咲いて散った方が良かったのではないかと思う。
(話題になることのなかったセカンドアルバムは、悪くはないが悪い意味でまとまってしまっていてさほど面白くない)

 いろいろあった彼女たちではあるが、だからといって残った歌の価値が下がるわけではない。世間的にはもうすっかり忘れられてしまった存在だが、僕はずっと彼女たちの歌を、大人に翻弄される少女の叫びを聴くだろう。

(07/9/20記)

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