星組トップスター 紫苑ゆうさんの想い出

 初めて舞台で接したとき、白馬に乗った王子様っていうのは実在するんだなあと思いました。踊っているときの指先、演技をしているときの表情、歌声、一挙手一投足の全てが気品に満ちていて、まさに王子様でした。世間の人がイメージする宝塚の男役の姿をこれほどまでに忠実に体現する人は、しめさん以来見たことがありません。

 いわゆる男っぽい色気とは違いますが、今までいろいろなトップスターを見てきましたが、全身から放たれる男役のオーラについては断トツです。「やっぱり宝塚っていいなあ」と見ていてつくづく思ったものです。その分、宝塚の世界にシンクロできる人以外は、ちょっと引いてしまうかもしれません。そこが、そんなこととは関係ない絶対の魅力を持っていたゆりちゃんと違うところでしょう。

 時には揶揄的に語られることもありますが、そういう少女マンガ的な美しさが宝塚の一番の魅力だと思います。ダンスで魅了するとか、歌がめちゃくちゃ上手いとかいうわけでありませんが、その雰囲気だけで酔うことができました。一言で言えば古いタイプのスターになるのでしょうが、僕は大好きでした。

 当時は今と違ってかなりチケットが取りやすい時代でした。経緯は憶えていませんが、しめさんのサヨナラ公演は幸運にも楽日が取れて、唯一サヨナラショーが見られたという意味でも思い出深いものがあります。

 今は、しめさんが全身に背負っていた少女マンガチックな雰囲気を一掃して、一般受けを狙うような傾向があるような気がしますが、宝塚はあくまで好きな人が好き、という世界でいいと思います。もちろん時代によって変わる必要はあるでしょうが、それと没個性になることはイコールではないでしょう。

 僕は古いタイプの人間なので、宝塚の舞台を観ているときぐらいファンタジーの世界に遊びたいと思っています。しめさんはまさにファンタジーの世界の住人でした。退団後は宝塚音楽学校の先生になられましたが、さもありなんという感じです。

(07/5/13記)

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