水樹奈々:MASSIVE WONDERS   ★★★

 前作『SECRET AMBITION』で奈々さんの魅力に開眼した者としては、次作に期待を寄せるのは当然の流れ。しかしながら、本作にはいささか肩すかしを食わされたという印象が拭えない。

 声量があり、歌が上手いのは疑いのないところだが、そこだけが強調されていて奈々さんの世界といったものが塗りつぶされてしまっている憾みがある。

 例えば、3曲目『Pray』ではファルセットが多用されるが、そこに意味が見出せない。地の声ではなくあえて裏声を使うからには、そこには地声では表現できない何か(当然それは音程ではない)があるはずなのだが、ここでは技巧の誇示しか感じることができない。そして、そうした用途でのみ用いられるファルセットは、どうしても神経質に響く。

 これは僕の個人的な嗜好の問題だが、ビブラートがしつこいのもいただけない。声楽ならともかく、いわゆるポップスのボーカルのビブラートは生理的に好きになれない。これだけ張りのある声なのだから、変にビブラートなどかけずに、初期のころのように直球勝負の歌唱をした方が何倍も魅力的だと思う。

 どうも否定語の多いレビューになってしまったが、奈々さんのポテンシャルを信じればこそである。「こなしている」とは言わないが、3曲とも実に普通の歌であって、別に奈々さんが歌わなくてもよいのでは、という印象を持ってしまう。

 秋に発売のアルバムが、偏屈な僕を瞠目させてくれるものであることに期待するばかりである。

(07/9/26記)

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